その7

 会議後、1日おいて、エリオ達は帰途に就いていた。


 甲板上で、エリオを見付けたヤルスはツカツカと近付いていった。


「閣下、よろしいでしょうか?」

 ヤルスはエリオの傍で立ち止まるとそう聞いてきた。


「何でしょうか?」

 エリオはヤルスの要件を聞こうとした。


「教会に貿易の事を何も仰いませんでしたが、トップ会談のチャンスだったのでは?」

 ヤルスは出港以前から気になっていた事を聞いてみた。


「まあ、まだ構想段階ですからね……」

 エリオは曖昧な態度で応えた。


 この答えで、ヤルスは部外者の自分には本音を漏らさないと感じてしまった。


 とは言え、構想段階とは少し違和感を感じた。


 計画の中心人物と思われるクラセックは現地に入って、着々と計画を進めていた。


 そして、出港前にもエリオに責っ付いていた。


(本当にこれで、構想段階なのだろうか?)

 ヤルスがそう思うのは無理のない状況だった。


「まずは、目の前の問題を片付けないと、本当に構想で終わってしまいかねないのですよ」

 エリオは納得していないヤルスに更に言葉を重ねた。


 ヤルスの表情自体はほとんど変わらないのだが、話の流れ的には納得していない事はエリオにも分かっていた。


「目の前の問題とは?」

 ヤルスはエリオの意外な言葉に反応した。


「閣下、12時方向に、ハイゼル艦隊を視認」

 エリオがヤルスの質問に答える前に、シャルスがタイミング良く報告を入れてきた。


「その問題となるものが向こうからやってきましたよ」

 エリオは不適・・な笑みを浮かべた。


 この笑みはエリオもリ・リラも好きなのかも知れない。


「閣下、やってきたというより、索敵艦の報告通り、我が艦隊を進めただけではないですか!」

 マイルスターはいつものように揶揄うように、エリオの発言を訂正した。


(何故、わざわざそのような事を!)

 ヤルスはマイルスターの発言ですぐに状況が飲み込めた。


 ルドリフ艦隊はエリオ艦隊を捕捉するべく動いており、エリオ艦隊はそれに挑むように進んでいた。


 数の上では10対5。


 数的不利でこんな事をするのは明らかに間違っていた。


 エリオは呆然としているヤルスを尻目に、マイルスターの発言に不満そうな顔をした。


 とは言え、それに付き合っている場合ではなかった。


「全艦、停止」

 エリオはまずはそう命令した。


 その命令を聞いたヤルスはいつもの冷静さが消し飛ぶように、気色ばんだ。


「全艦、停止」

 シャルスはシャルスで何の躊躇もなく、命令を復唱した。


 そして、艦隊もエリオの命令通り、停止した。


 この辺はやはり見事に統制が取れていた。


「敵艦隊に、伝令。

 『接近すれば、攻撃する。

  講和会議後の戦闘は法王猊下の意に反する』とな」

 エリオがそう言うと、シャルスは敬礼して、直ちに伝令係に指示を出した。


 ヤルスは整然と行動する面々をただ見守る他なかった。

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