その2

 サラサ艦隊とルドリフ艦隊はその後、特に問題なく、バルディオン王国第2艦隊の根拠地であるワタトラに入港した。


 そこに待っていたのは、国王からの呼び出しだった。


 今回の海戦の報告を要請されたものだった。


 サラサは、急いで単艦で王都キンダザゥへと向かった。


 ワタトラはバルディオン王国の北側の港で外洋に出やすい位置にあり、キンダザゥはキャストフォード湾内にあった。


 湾内はバルディオン王国の内海なので、単艦行動も特に危険はなかった。


 キンダザゥに入港したサラサを出迎えたのは、父オーマであった。


 最近は、中々会えない父親に、時開けずに、2度も会えたので、サラサは気持ちが浮き立っていた。


 まあ、ちょっと、多分、ほんのちょっと、ファザコンが入っているので、それは致し方がないかもしれない。


 父1人娘1人の関係で、近親者が他にないことから、この親子の関係はやはりかなり深いものだった。


「慌ただしかっただろうが、陛下からの要請だったので、急いで来て貰った」

 オーマはサラサを桟橋で出迎えながらそう説明した。


「大丈夫です、閣下。

 海戦場所が、場所だけに、陛下もご心配なされたのでしょう」

 サラサはそう言いながら父親の前で立ち止まった。


 その後ろにはバンデリックが続いていた。


 オーマは、バンデリックに対しては何も言わなかったが、ご苦労様と言った感じで目で合図を送っていた。


 バンデリックはそれに対して、静かに頭を下げた。


「今回の海戦の確認をするが、我が王国の艦は1隻も参加してはいないな?」

 オーマはサラサと並んで歩き始めると、そう聞いてきた。


 2人の後ろにバンデリックが続いた。


「はい、間違いありません」

 サラサはオーマの問いにそう答えた。


「重ねて問うが、1発の砲弾も撃ってはいないな?」

 オーマはまた質問してきた。


 確認に確認を重ねているようで、いやに慎重である。


 実は、海戦のあらましは、既にオーマに報告されていた。


 だが、オーマは、サラサの口から確認を取りたいようだった。


「はい、間違いありません」

 サラサは再び同じ答えを返した。


「そうか……」

 オーマは、サラサの口から報告と同じ言葉を聞いて、安心したようだ。


「我が艦隊の行動は本当にこれでよろしかったのでしょうか?」

 サラサは、安心しているオーマに対して、逆に質問した。


 ただし、オーマの確認作業が鬼気迫っていた為、自分の取った行動は正しいと思っていた。


 だが、半面、友軍の戦闘に助力しなかった事に対しての後ろめたさを感じていた。


「完璧という事はあまりないのだが、今回だけはサラサ、お前の行動は完璧だった」

 オーマはサラサを称えた。


「はい、ありがとうございます」

 サラサはそう言ったが、先程の感情を完全に拭い去ることが出来なかった。


 いや、寧ろ葛藤が深まったと言った表情を浮かべた。


「まあ、艦隊指揮官としては色々と思うことがあるだろうが、我がバルディオン王国の為を考えると、今回はそれでいい」

 オーマは、サラサがどう感じているか分かっていた。


「分かりました、閣下。

 確かにその通りだと思います」

 サラサはそれ以上後悔めいた事を考えるのを止めた。


「それにしても、今回の海戦は色々と勉強になったのではないか?」

 オーマは先程の慎重に慎重を重ねた質問ではなく、気軽な口調でそう聞いてきた。


「はぁ……、まあ……」

 サラサは不機嫌な気持ちが一気にこみ上がってきて、口が重くなった。


 オーマが、エリオの事を言っている事は明白であり、それを考えるとムカついてくる。


 ここでも、エリオは敵をムカつかせる才能はピカイチのようだ。


「クライセンの艦隊の命中率、艦隊運動、その他諸々、どれもずば抜けていただろう。

 あれほどの艦隊を私も見た事がない」

 オーマはべた褒めだった。


 公が付いたのは、あの艦隊自体の異常性を物語っていた。


「確かにそうなのでしょうが……」

 サラサは、エリオの手腕を認めてはいたが、対抗心が先に来てしまうようだった。


「ほほう……」

 オーマはあれだけの艦隊を目にしておいて、尚も対抗心を失わない愛娘を頼もしく感じていて、次の言葉を待った。


「オッホン」

 注目されてしまったので、サラサは一度咳払いをして仕切り直す事にした。


「確かにあれは脅威になります、それは間違いは無いでしょう。

 しかし、寡兵であるという欠点があります。

 数の力を使いながら持久戦に持ち込めば、いいのではないでしょうか?」

 サラサは自分の戦術論を話した。


「成る程な」

とオーマはサラサの意見に対して、反対意見の述べなかったが、。

「今回は寡兵として戦わなくてはならなかったが、クライセン公は総司令官だ。

 本来なら他の艦隊をも率いて戦うはずだから、寡兵にはならないと思うが」

と別の見方から意見を述べた。


「そうなんでしょうが、今度は別の問題が生じるかも知れません」

 サラサは何だか予言めいた言い方をした。


 こう口走ったのは、その時点で、確信があった訳ではなかった。


 なので、後でよくよく考えると、本人も不思議に感じてしまった。


「と言うと?」

 オーマの方はサラサの口調は気にならなかったらしく、その後の話を促していた。


 オーマは、鋭い指摘をするサラサを見慣れているせいかも知れない。


「各艦隊との連携です。

 あれは優秀すぎるが故に、味方が付いて来られない場面がきっと出てきます」

 サラサは促されたまま、自分の意見を言った。


 話している内に、頭の中が整理され、予感と言うより、確信に変わっていた。


 エリオの弱点はそこにあると。


 だが、この意見に対してはオーマは納得が行かないような表情になった。


「第3次アラリオン海海戦の時は、そう言った場面はなかったがな……」

 オーマはそう言いながら自分の艦隊が危機に陥った場面を思い出していた。


 戦慄が蘇り、その後も何をやっても勝てる気がしなかった事をよく覚えていた。


 あの時、ホルディム艦隊の突撃がなかったら、一方的な敗北になっていた事は疑いようがないと思っている。


「まあ、多くはないと思います」

 言った本人であるサラサが自分の意見を否定するかのように言った。


「???」

 オーマは呆れながらツッコミを入れようとした。


 だが、サラサはすぐに、

「もしあるとしたら、あれと他の艦隊が同じ艦隊運動を行う時でしょうね」

と付け加えた。


「ああ、成る程……」

 オーマはその場面を思い浮かべるが如く、頷いていた。


「そうです。

 あれは同種艦で少数、そして、精鋭故に、他の艦隊が同じ運動をするのが難しいと思われます」

 サラサはダメを押しのような感じで説明を付け加えた。


 バンデリックは2人のやり取りを後ろに着いていきながら聞いていた。


(やはり、お嬢様の頭の回転は速いな……。

 それにどんなに強い敵でも弱点がない訳ではないのか……。

 後はその弱点を突ける状況にどう持って行くかなんだろうな……)

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