その8

「殿下、どうなされましたか?」

 エリオはいつもと違うリ・リラを見て、びっくりして聞いてしまった。


 場面は、国内の立太子の礼に伴う儀式の日に移る。


 いつもなら、偉そう……、もとい、凜としていて、威厳に満ちている筈なのだが、違っていた。


 このような状況下、見て見ない振りをするのが経験上、一番いい事は分かっていた。


 ただ、今回の場合、いつもとは違うような感じがした為に、思わず聞いてしまった。


 緊張しているとかそういう訳ではなく、明らかに何かソワソワしているような……、モジモジしているような……、とにかく、いつものリ・リラではない事は確かだった。


 なので、エリオは思わず聞いてしまったのだった。


(人の気も知らないで!!)

 リ・リラはそう思ったが、その怒りは心の中に押し止めた。


 まあ、エリオをキッと睨み付けて、黙らしてはいたが……。


 エリオの方は睨み付けられて、ビビったが、いつものリ・リラの反応だったので、ちょっと安心した。


 俯瞰してみていると、ポンコツコンビを見せられているような気がする。


 何だか、とても残念な気分にはなるが、諦めの気持ちさえ、湧いてくる。


 そして、永遠にこの2人の関係はこのままではないかと思えてくる。


 まあ、それはともかくとして、目の前の扉が開くのをリ・リラとエリオは並んで待っていた。


 この2人は今、朝見の儀の為に待機状態にあるのだった。


 例の如く、エリオは引き立て役……、もとい、エスコート役で、リ・リラを導く予定である。


 エリオ自身は、そんな役回りを自分には似合わないと感じていたので、何と言うか、いつもの間抜け顔をしていた。


 リ・リラの方は、そんなエリオを見て、憎らしく思った。


 でも、まあ、今は、それ以上に、御前会議後の夜にラ・ライレに呼び出されて、話した事を思い出して頭がぼうっとしていたのだった。

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