その11

「敵総旗艦艦隊、進路を南西に変更した後、減速」

 バンデリックはサラサにそう報告した。


「うん……」

 サラサは机上の地図を見ながら、各艦隊の位置関係を確かめていた。


 それをバンデリックは傍らで見ていた。


 サラサの決断を待っていたのだった。


「結構、駆け引き上手なのね……」

 サラサはニヤリとしながらそう感想を述べた。


 ただ、エリオは駆け引きをしているつもりはなかった。


 今は自分の考えた最善手を打ち続けていた結果が、こうなっていただけだった。


 ぶる……。


 バンデリックはサラサの言葉を聞いて、というより、態度により、戦慄を覚えていた。


 こういう時に、楽しそうにしているサラサは勿論心強いのだが、同時に怖くもあった。


「全艦、南下せよ。

 あいつの艦隊に近付けるわよ」

 サラサはそう命令すると、自分の高揚感を抑えきれないと言った感じだった。


「閣下、ハイゼル艦隊が南下を開始しました」

 バンデリックは報告が入ってきたので、読み上げた。


「えっ、先程の命令は撤回。

 全艦、再び待機せよ」

 サラサは思わぬ事態に、きょとんとした表情をしながらも、慌てて命令を撤回した。


 きょっんとしている表情の割に、正しいと思われる判断をしていた。


 このまま南下すれば、ハイゼル艦隊と進路が重なり、混乱をもたらすのは必至だったからだ。


 艦隊の方も加速する前に、失速して止まっていた。


 何だか所在なしと言った感じで、水兵達もきょとんとしていた。


「包囲網の方は?」

 サラサはルドリフ艦隊が動いた事による弊害を心配した。


「包囲網が崩れたようです」

 バンデリックはサラサの質問にそう答えた。


「ハイゼル候からの参戦要請は?」

 サラサは矢継ぎ早に質問を重ねた。


「今の所、ありません」

 バンデリックは首を横に振りながらそう言った。


「うーん……」

 サラサは困ったように腕組みをした。


 考え事をし始めていた。


(戦いの定石から言えば、ここはハイゼル艦隊の穴を塞ぎに行くのが正しいのだけど……)

 サラサはそう思いながらも結論が出せずに、バンデリックを何気なく見た。


 びっく!!


 バンデリックは睨まれたような気がして、身構えた。


 サラサはそんなバンデリックには目もくれずに、視線を外した。


 ふぅ……。


 バンデリックは胸をなで下ろした。


(何か、失敗して、怒られるのかと思った……)

 バンデリックは胸のドキドキが止まらなかった。


(参戦したいのは山々なんだけど、お父様に自重するように言われてるし、ここはスワン教本部の縄張りだし……)

 サラサはそう思いながら自分でも珍しいと感じながら、決断に欠いていた。

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