その9
エリオ艦隊は、変な言い方だが、スムーズに参戦できた。
とは言え、戦いの帰趨は既に決まっていた。
ハイゼル艦隊はアリーフ艦隊を完全包囲下に置いていた。
アリーフ艦隊は必死に耐えていたが、一方的に損害を積み重ねていた。
その上、まだ参戦していないサラサ艦隊が後方に控えていた。
スムーズに参戦して、3隻撃沈の戦果を上げたエリオ艦隊はクラー部隊を突破していた。
無論、艦数はまだクラー部隊の方が多かった。
そして、突破してしまった為、背後から追われている格好になっていた。
つまり、ハイゼル艦隊本隊とクラー部隊は、エリオ艦隊を挟撃可能な位置関係にあった。
このまま行くと、エリオ艦隊もアリーフ艦隊と同じ運命を辿る事になるだろう。
- 艦隊配置 -
SR
RHRHRH
RHAHRH
RHRH EC
K
EC:エリオ艦隊、AH:アリーフ艦隊
SR:サラサ艦隊、RH:ルドリフ艦隊、K:クラー部隊
---
(まあ、ここは定石通りに行くか……)
エリオは現在の懸念材料の解消を一つ図る事にした。
「全……」
とエリオは命令を下そうとした時、
「アリーフ艦隊旗艦に被弾。
アリーフ子爵が戦死なされた模様……」
とシャルスがそう報告してきた。
意外であり、とんでもない報告だった。
あ、でも、予想できない事ではなかった。
「……」
エリオは何と言っていいか分からなく、黙ってしまった。
そして、リ・リラを気遣うように、見つめた。
「ふぅ……」
リ・リラは落胆したように溜息をついた。
(あれ?)
エリオは口には出さなかったが、もの凄く違和感を感じていた。
落胆はしているが、少しも嘆いている様子はなかった。
(どういう事だろう?)
エリオは明らかに戸惑っていた。
「子爵閣下の副官から、閣下のご遺体を僚艦に移したい。
援護を頼むとの事です」
戸惑っているエリオにシャルスは構わず報告してきた。
「なんと!」
マイルスターは珍しく心底呆れたように嘆いた。
エリオにとっては、難問を突き付けられた格好になっていた。
とは言え、リ・リラの気持ちを慮ると無下にも出来ない申し出だった。
マイルスターが呆れた事を少し補足すると、クライセン家は海の一族なので、水葬を基本とする。
したがって、遺体を陸まで運ぶという事はしなかった為である。
まあ、それはともかくとして、エリオは先程からリ・リラが気になって仕方がなかった。
だが、リ・リラはエリオの右腕をしっかりと両手で抱きかかえているだけだった。
「閣下?」
マイルスターはいつもは即断するエリオに戸惑いを覚えていた。
「アリーフ艦隊に伝令。
『了解した』と」
エリオはリ・リラを気遣うように命令を下した。
リ・リラが王太女らしく振る舞っているだけだと感じたからだ。
シャルスは敬礼して、いつものように伝令係へ指示を出した。
「閣下……」
マイルスターは呆れたが、反論はしなかった。
「全艦、減速、取り舵一杯!
進路を南西に変更。
アリーフ艦隊から敵艦隊を引き離す」
エリオは戦略目標を全て満たす為の命令を下した。
ぴっきんーん!!
艦隊全体に緊張感が走ったが、エリオの命令を即実行していた。
水兵達の間ではまた無茶振りが始まったと感じると共に、次の無茶振りに備える雰囲気となった。
減速する事により、クラー部隊がエリオ艦隊に一気に迫ってきた。
折角本隊との分断に成功したのだから、この隙に本隊に攻撃を仕掛けて、アリーフ艦隊を救出する作戦に出てもいい筈だった。
だが、その作戦をエリオは取らなかった。
指揮官を失った事により、アリーフ艦隊が統一的な動きが出来ないかも知れないという懸念からだった。
つまり、自ら囮になる事により、ルドリフ艦隊本隊をこちらに誘い込む事を選択したのだった。
なので、ここで滞留している内に、本隊と別働隊が迫って挟撃される事を選んだ事になる。
そして、その後、包囲下に置かれる事は明白だった。
状況はとてもまずい状況なのだが、エリオが取りあえずいつも通りの表情をしていた。
まあ、リ・リラの事は相変わらず、気に掛けてはいたのだが……。
リ・リラの方はエリオの妙な視線を感じつつ、エリオが焦ってはいなかったので、大したピンチではないと思っていた。
と言う事で、エリオ艦隊で普段通りにしていたのは、おそらくこの2人だけだった。
「敵の別働隊に対して、砲撃開始!」
エリオはクラー部隊に対して砲撃を命じた。
えっ……。
水兵達には戸惑いが広がり、砲撃開始が行われなかった。
各個撃破を図るにしても、ここでの砲撃は、明らかに早すぎる。
「構わない、敵への牽制だ。
足を止める事が目的だ」
エリオはすぐにその理由を付け足した。
ドッカン!!
砲撃は戸惑いながらも開始された。
ばっしゃん!!
砲弾は海面に次々と落ちるだけで、敵艦隊への打撃にはならなかった。
「よしっ!」
エリオはその砲撃に満足しているようだった。
ドッカン!!
水兵達は訳分からないと言った感じだったが、命令通り2射目を撃った。
「アリーフ艦隊へ伝令。
現状を維持しつつ、包囲網に穴が空いたら、撤退せよ」
エリオはアリーフ艦隊への次の指示を出した。
シャルスは、エリオの命令通りに、伝令係に指示を飛ばした。
「穴、空きますかね?」
マイルスターは何だか傍観者のような口振りだった。
これはある意味、エリオへの絶対的な信頼の表れだった。
そう、無謀とも思える状況を選択していたが、難なく切り抜けるだろうと思っている感じだ。
「さあね……」
エリオも傍観者のような口振りで、含み笑いを浮かべていた。
「ん?」
リ・リラは2人のやり取りを見て、自分の指示がエリオ達を追い込んでいる事を悟った。
遅すぎやしないかと突っ込みたくはなるが、それでも、エリオを信じて、黙っていた。
「ハイゼル艦隊本隊、動き出しました。
一部がこちらに向かってきます!」
シャルスは新たな報告を入れてきた。
いよいよ追い込まれる展開に突入しつつあった。
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