その3

 太陽暦534年5月、スワン島沖海戦が勃発。


 リーラン王国艦隊

 総旗艦艦隊(エリオ)5隻、アリーフ艦隊20隻 計25隻

 ウサス・バルディオン連合艦隊

 ハイゼル艦隊31隻、サラサ艦隊12隻 計43隻


 戦力差と周辺海域から勃発するような海戦ではなかった。


「閣下、アリーフ艦隊は既にハイゼル艦隊の包囲下にあります」

 シャルスが戦況報告をしてきた。


 - 艦隊配置 -

        SR

           RHRHRH

           RHAHRH

           RHRHK





        EC

 -┐

 ス|

 島|

 -┘


 EC:エリオ艦隊、AH:アリーフ艦隊

 SR:サラサ艦隊、RH:ルドリフ艦隊、K:クラー部隊

 ---


「……」

 エリオは無言で、やれやれと言った感じだった。


 目視できる距離まで接近しているので、報告を受けなくても明白な事実だった。


 3年前の海戦もそうだったが、今回も自分の意図しない所で戦闘が開始されていた。


(アリーフ子爵が、これほど軽率な行動に出るとは思えない。

 何があったのだろうか?)

 エリオは目の前に広がる光景が信じられなかった。


 とは言え、少々他人事過ぎやしないか?


 かなりのピンチな筈である。


「まあ、ハイゼル候に戦いに引きずり込まれたと言った所ではないかしら」

 いつの間にかに、エリオの隣にいたリ・リラがエリオの心の中を見透かしたように言った。


「いっ……」

 エリオはそれに絶句していた。


 タイミングといい、言われた言葉といい、絶妙すぎたからだ。


「まあ、ハイゼル候にしてみれば、父親の仇であるエリオを討つ、絶好のチャンスを逃すまいとしたのでしょうね」

 リ・リラは絶句しているエリオに構わずに、追い打ちを掛けていた。


 その言葉に、マイルスターとシャルスがうんうんと頷いていた。


 それを見て、エリオは孤立無援の状態を悟った。


 とは言え、戦闘前にリ・リラがエリオの隣にいる事自体、危険な事だった。


 だが、当たり前のようにいるのは、エリオがリ・リラを説得出来なかったからだった。


「で、如何しますか?殿下」

 エリオは納得できない状況だが、取りあえずリ・リラに聞いてみた。


「何言っているのよ、指揮はあなたが執るのよ」

 リ・リラは呆れていた。


「!!!」

 エリオはその言葉に唖然としていた。


 てっきり、仕切っているリ・リラがあれこれと言ってくるのとばかり、思っていたからだ。


 普通はそう思わない所だが、何せエリオだ。


(丸投げかよ……)

 エリオはそうツッコミを入れたかったが、我慢した。


 反撃が怖かったからだ。


 それにしても、エリオはよく丸投げされる側の人間だ。


「いい、出港前に言った事だけは守ってね」

 リ・リラは念を押すように言った。


「了解しました」

 エリオは溜息交じりにそう言った。


 まあ、何と言うか、エリオはエリオなりの思惑というか、愚痴りたい思いがあった。


 今の状態は戦略目標を設定したのだから、それを満たす戦術要件はあなたがやりなさいと言われているものだ。


 しかも「当然でしょ」といった感じで!


 でも、まあ、リ・リラは王太女なので、当然と言えば当然なのだが、エリオとしては、戦略目標から自分に任せて欲しいと思っていた。


 だが、しかし、どうにもリ・リラには逆らえなかった。


 なので、何だか物欲しそうに(?)、リ・リラをしばらく見つめていた。


「ん?何?」

 リ・リラの方もそれに気が付いたのか、エリオの方を見た。


「いえ、何でもありません。

 任務に集中します」

 エリオはそう言うと、慌てて前を向いた。


「そう、お願いするわね」

 リ・リラは気にも留めないと言った感じだった。


(アリーフ子爵が大ピンチなのに、意外と平然としているのは何故だろうか?)

 エリオはふと変な事を考えてしまった。


 だが、リ・リラが示した戦略目標を、しれっと変えてしまおうと考えているのは言うまでもなかった。

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