その37
「ウサス帝国艦隊全艦、撤退中」
ヘンデリックがそう報告してきた。
「どうやら、ルドリフ殿は踏み止まってくれたようだな」
オーマはホッとした様子だった。
ハイゼル候の戦死の報は既にルディラン艦隊にも伝わっていた。
「やれやれですな」
ヤーデンもオーマに同調していた。
「全くだ。
更に戦闘が激化していたら、目も当てられない状況になっていたからな」
オーマは苦笑いしていた。
尤も、最悪の場合の事も考えてはいたのだが……。
「閣下、敵の総旗艦の撃沈も確認したようです」
ヘンデリックは次の報告をした。
「!!!」
オーマは思わぬ報告に声が出なかった。
良い報告ではあるのは間違いが無いと思われるのだが、それが本当にそうなのかと疑うものでもあった。
何とも表現しがたい感情に襲われていた。
「クライセン公の生死は?」
ヤーデンの方はいち早く事の確信について質問していた。
「それはまだ未確認ですが、恐らくは……」
ヘンデリックは断定はしなかった。
「そうか……」
ヤーデンは短くそう言った。
敵将とは言え、喜ぶという感情は湧いてこなかった。
この辺が何度も戦火を交えた相手に対する敬意なのか、何なのか、複雑な感情だった。
「……」
オーマの方は沈黙を続けていた。
「それにしても、クライセン公といい、ハイゼル候といい、取り返しの付かない損害を両軍とも出したものですな」
ヤーデンは複雑な感情を持ちつつ、しみじみとそう言った。
「……」
オーマは依然として反応がなかった。
しかも、何やら深刻そうに考え込んでいた。
「閣下、どうなされましたか?」
ヤーデンは心配になってそう声を掛けた。
ヘンデリックも心配そうにオーマの方を見ていた。
こういうオーマが現れる時、事態はとても深刻な方向へと向かっている。
「いや、何、エリオ・クライセンはやけにあっさりと引いたなと思ってな」
オーマは心配事を口に出した。
その言葉に、ヤーデンもヘンデリックも心肝を寒からしむると言った心情に突き落とされた。
「今後、我らはとんでもない者を相手にしなくてはならないようだな」
オーマはこの戦いで何度も感じた事を口にした。
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