その27

 でも、まあ、より危険な立場に置かれているのは、ルドリフ艦隊だった。


 油断していた訳ではなかった。


 警戒していた筈だった。


 だが、ルドリフは、サリオ艦隊とアスウェル艦隊の半包囲攻撃に嵌まっていた。


 血気に逸る部分がない訳ではなかったが、今回はいつも以上に冷静に事を進めていた筈だった。


 色々な考えが頭の中を駆け巡っていたが、エリオに構わない事で逆にエリオの策謀に嵌まったと感じていた。


 結局、何をやっても小僧の術中に嵌まるのかという忸怩たる思いが脳裏を駆け巡っていた。


 しかも、今回は、今までとはそのレベルが明らかに異なっていた。


 自分が許せないほどの無様さだった。


「艦列を乱すな!」

 色んな考えが巡る中、ルドリフは味方を鼓舞するように叫んだ。


 そして、色々な思いがある中、ルドリフは懸命に事態の打開を図ろうとしていた。


 その辺は、流石に良将と称されるだけある。


 だが、艦隊は既に半包囲下にあり、行動をかなり制限されていた。


 ドッカーン!バキバキ!


 簡単には後退できない状態の中、両側から苛烈と呼べる砲火に晒されていた。


 しかも、敵艦は頻繁に位置を入れ替えて移動し、死角を突いてくる。


 反撃の糸口すら掴めず、逃げ出す事も出来ないでいた。


「左舷回頭!」

 ルドリフは隙を見付けては、回避行動を図った。


 ルドリフ艦隊の必死の回避行動により、何とか損害を抑えられていた。


「怯むな!敵、総旗艦に集中砲火!」

 ルドリフは回避だけではなく、反撃も試みていた。


 だが、圧倒的な不利な状況下、損害を重ねていった。


 とは言え、これはルドルフからの見方だった。


 サリオやアスウェル男爵から見ると、圧倒的有利な状況下で、意外と粘られていると言った感覚はあった。


「ルディラン艦隊、接近中!」

 ステマネが報告してきた。


 苦難な状況の中、ようやく希望の光とも呼べる報告が上がってきた。


「よし、味方が救援に来たぞ。

 このままの陣形を維持し、持たせるぞ!」

 ルドリフはようやく少し明るい顔つきになった。


 ただ、本人はそれほど楽観視している訳ではなく、尚も困難な状況である事に変わりない事を認識していた。


 エリオにより、味方の来援が遅れてしまった事を認識していたからだ。


 それは、ハイゼル艦隊ではなく、ルディラン艦隊が先に来援した事から明らかだった。

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