第17話 洋上の関ヶ原

南方の資源地帯を大方確保した日本軍だったが、その占領地をどうアメリカ海軍から防衛するかと言う問題が生じていた。


南方作戦に主力機動部隊を投入していた日本海軍はフィリピン作戦と並行してインド洋作戦を実施。1941年4月のセイロン沖海戦ではイギリス海軍の空母1隻、重巡洋艦2隻を撃沈する戦果を挙げていたが、連合艦隊司令長官山本五十六は全く異なる方向を見据えていた。


山本はセイロン島攻略や軍令部の主張するフィジー諸島の攻略による米豪間の連携の遮断では無く、ミッドウェー島の攻略を強硬に主張したのである。ミッドウェー島を将来的なハワイ諸島攻略の橋頭堡とする事に加え、真珠湾で取り逃した米機動部隊の主力を誘き出して殲滅する事を目的としていた。


これに対して軍令部は補給線の問題から連合艦隊司令部と対立していたが、4月19日には空母ホーネットから発進したB-25爆撃機16機が東京や横須賀、神戸等と言った主要都市へ空襲を行ったドーリットル空襲が発生。


損害は軽微だったものの、日本側はこれに大きな衝撃を受け、世間でも軍令部でも米空母撃破の必要性が認識されて行った。


この空襲は陸軍にも影響を与え、ニューカレドニア島、フィジー諸島の攻略を目指すFS作戦ではなく、MI作戦に陸海軍の総力を注ぎ込む事となったのだ。


また軍令部は米航空兵力の西進を抑え、アリューシャン方面からの大型爆撃機の出撃を阻止する為にアリューシャン列島西部の攻略を主張。軍令部第一部長の福留繁少将は劣勢な米艦隊はミッドウェー近海に進出して来ないのではないかと懸念し、米領のアリューシャン列島へ圧力を掛ける事で米艦隊の出撃を強要出来るとした。


しかし空母瑞鶴を有する第五航空戦隊は5月上旬の珊瑚海海戦で空母祥鳳を失う損害を受けており、山本は戦力が回復し切っていない状況でアリューシャンとミッドウェーの二手に戦力を割く作戦は悪手であると反発。AL作戦は行われず、空母6隻、戦艦11隻ほか計350隻の戦力をMI作戦に集中させた。


5月27日には南雲忠一率いる空母赤城、加賀、飛龍、蒼龍、龍驤、隼鷹を中心とする第一航空艦隊が広島湾から、翌日にはミッドウェー島占領部隊輸送船団がサイパンから、29日には山本直卒の主力部隊も広島湾から出撃した。


日本時間6月5日午前1時半、遂に南雲機動部隊からミッドウェー空襲隊が発進。しかし事前に日本軍の暗号を解読していた米軍守備隊は対空砲や迎撃機により全力でこれを迎え撃ち、日本軍はミッドウェー基地への攻撃に失敗した。


南雲はこれに衝撃を受けたが、あくまで米機動部隊を誘い出す為の作戦前段階に過ぎないミッドウェー攻撃には固執せず。海戦用の兵装を整えている残存艦載機にそのまま待機を命じた。


すると午前5時20分、日本軍攻撃隊が続々と帰投してくる中で偵察機から米艦隊発見との報告が南雲の元に入る。30分には米空母の存在を確信し、最大の目標である米機動部隊を捉えた日本軍機の発進が始まった。


空母3隻、艦載機233機とミッドウェー基地航空隊の126機を有する米軍に対し、空母6隻、332機の艦載機を有する日本側の航空戦力は殆ど互角であった。


両軍がそれぞれ熾烈なドッグファイト、雷撃戦を展開した結果米艦隊の空母ヨークタウン、ホーネット、エンタープライズは全滅。加えて撃墜されても脱出率の高かった日本側に比べ、多数のパイロットを喪失した。日本艦隊も赤城が大破した他重巡洋艦三隅を失ったが、念願の米機動部隊殲滅を達成した。


完全に孤立したミッドウェー島も機動部隊壊滅の1週間後には陥落。大本営部はこの一大戦果を大々的に報道し、軍令部はすぐさまAL作戦やFS作戦の再立案に向けて動き始めた。

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