第10話 ナポレオンを超えてゆけ

11月20日、英本土上空での制空権を確固たるものとしたドイツ軍は、遂に英本土への上陸作戦"アシカ作戦"を発動した。


未だ強大な水上艦隊を擁する英本国艦隊に対し、想定外の速さでのイギリスとの開戦※や Uボートの建艦需要拡大によって、スカパ・フローで自沈した旧帝国艦隊に代わる主力艦の建艦を目的としたドイツ海軍の"Z計画"は立ち遅れていた。


決戦用艦隊の再整備を重視するエーリヒ・レーダー上級大将の意向の下、Z計画の途にあった大戦開戦時のドイツ海軍は巡洋戦艦2、ポケット戦艦3、重巡洋艦2、軽巡洋艦6隻を保有するのみであり、当然ながらイギリスの主力戦艦と正面から衝突しドーバー海峡の制海権を確保する様な力はない。


ポケット戦艦ことドイッチュラント級にはイギリスの戦艦と真正面から撃ち合える程の力は無く、シャルンホルスト級は速度こそあれど火力不足、建艦当初は世界最新鋭であったビスマルク級もヴァイマル共和政時代を経て既に時代遅れの艦と化してしまい、かつて栄華を誇ったドイツ大洋艦隊の面影は失われていた。


余談だが、Z計画の存在によりUボート作戦は当初軽視され、潜水艦隊司令長官であったカール・デーニッツは開戦当初の大西洋での通商破壊をまともに行えない状況に大いに頭を悩ませたと言う。


そこでドイツ海軍は来たるXデーへ向けて防御用機雷帯を迅速に敷設。

夜間の迎撃を想定していたイギリス海軍は白昼堂々の機雷敷設に動いたドイツ側に裏をかかれ、情報伝達の遅れや戦力の逐次投入と言う悪手を打ってしまった。


イギリスの水上艦隊による介入を阻止し、はしけの安全を確保すると、イギリス南部イースト・サセックスの4地点に分かれてドイツ上陸船団がブリテンの土を踏んだのだ。


以前からドイツ軍による英本土上陸を警戒していたチャーチルは自国民ボランティアによる郷土防衛隊ホーム・ガードを組織し、ダンケルクで痛手を被った陸軍戦力をカバーする算段であった。

しかしこれに供給された装備は貧弱なものであり、正規の27個歩兵師団ですら充足率は50%に満たず、フランス緒戦で多くの将校を失った事により大きく弱体化してしまっていた。そもそも、未成年や老人を中心に編成された素人部隊にドイツ軍との戦闘を任せる事自体が無謀であると言わざるを得ない。


バトル・オブ・ブリテンで消耗したイギリス空軍もドイツ船団の海上輸送の妨害に失敗。

結果的に第一・第二波に分かれて上陸したドイツ軍を前に歯が立たずイギリス軍は各地で敗退した。海軍戦力の圧倒的優勢により慢心のあったイギリス側の沿岸防備は脆弱であった。


上陸から1週間後にはチャーチルがアメリカへ亡命し、インド駐留英国軍から本国に戻っていたクロード・オーキンレック元帥を首班とする臨時政府が発足。

ナチス・ドイツへ無条件降伏を申し入れた。





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※ヒトラーは当初英仏との開戦は1945年頃になると想定していた。

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