優しい探偵 〜桃介の猫探し編〜 

木村れい

第1話 「事件だ事件だ、猫探し😺」

 

 その事件は、駅前のビラ配りから繋がった依頼だった。ビラ配りをしていたのは、吉田桃介である。


 「優しい探偵さんがオオツカに居るって知り合いに聞いたんだけど貴方のことなの?」


 「はあ。木村さんかなあ。僕かも…」


 「まあまあのいい男なんだってきいたわよ。あなたハンサムよね、あなた?」


 「はあ。どうでしょう。どんな系のハンサムなんですか?木村さんは濃い顔ですよ」


 「そおお、ソース顔なんて言葉あったわよねえ。最近言わないのかしら。草刈さんみたいな人ならいいわあ」


 「いやあ草刈正雄さんは、まあまあのいい男ではなく、凄いいい男ですね」


 その後、その方からの正式な依頼があり、桃介は探偵事務所に招き話を聞いたという。


 東雲文子しののめふみこさん、86歳独居女性。昔は駄菓子屋をしていたが今は畳んだとか。輝くような真っ白い髪のくせ毛に、小さなフレームの丸メガネをかけた、知的エレガントで、優しい目をした女性である。


 その日は、花柄デザインのスボン、黒いトレーナーに灰色のカーディガンを羽織るというような80代としたら、かなり若づくりな出で立ちだった。


 「うちのチャコちゃんが居なくなっちゃったのよお〜」


 「はい。今日、代表の優しい探偵の木村は、出張してまして。先生より優しいかもしれない助手の吉田です。大変でしたね?」


 「あ、それでね、だからね、、、」


 「まあまあ。私は逃げませんからゆっくりお茶でも飲みながら」


 「ゴクゴク(お茶を飲む)

 ふぅー。だからね、チャコちゃんが帰って来ないの。もう6日よお。猫ちゃんをね、私は家の中で飼ってるのよ。でもね、外にたまに出ちゃうのよねえ」


 「はあ」


 「だからね、最初から話すわね、チャコちゃんがね、血だらけで帰ってきたのよ」


 「血だらけ?いつ?」


 「だからね、逃げ出す前の日よ」


 「ははあ。逃げ出す前にも、外に逃げ出して、そして傷だらけで、帰ってきたわけですね。それは、大変でしたね。病院は行きましたか?」


 「そしたらね、うちの子はね、勇ましいのよ〜」

  (行ったのかな?なかなかに噛み合わない。)


 「身体の前に傷をつけるって事は、逃げないって証拠らしいのよね。うちの子は勇敢なのよ、猫の喧嘩よね、センセイが言うのよ」


 「そういうものなんですか!面白いですねえ。ハハハハ」

 


 「ちょっとあなた笑ってる場合じゃないわよ、真面目に聞きなさい」


 「ごめんなさい。てへぺろ」


 「でね、家に帰って、抗生剤をキャットフードに入れたわよ。すぐ食べさせなさいっていうから」


 「飲ませられましたか?」


 「消えちゃったのよ。キャットフードを食べさせようとしたら、居ないのよ!」


 「なるほど」


 「居なくなっちゃったんですね。それで居なくなり6日目ですか?」


「そうなのねえ〜(困り顔)いつもなら、その日に帰るのに……」


 東雲さんの話は、永遠に終わらなく続いたらしい。

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