戦略原潜追尾
ラーメン作り 難易度MAX IN潜水艦
ラーメンが食いたい
ふとしたとき無性に、そう思うことがある。
特にストレスと疲労が溜まり気分が落ち込んでいるときにラーメンを。
それもギトギトの脂っこいラーメン、特に匂いの強烈な豚骨系を食べたいと思ってしまう。
ボロボロになった心身が回復するためのエネルギーとして、それも高カロリーな食事を、栄養補給を、いやラーメンそのものを求めるのだ。
半世紀ほどの間に国民食となった麺類を疲れた日本人は求めたくなる。
だから街にはラーメン店が林立し、行列が出来る。
食べたくなったらラーメン店に行けば良い。人気店も何時間も並べば、食べられる。
カウンターに着いてラーメンを注文すれば良い。
だが、それすら出来ない日本人もいる。
任務で作戦行動中の潜水艦乗員もその中に入る。
海面下という特殊環境、食事どころか入浴も無理、シャワーも数日に一度、トイレ操作さえ訓練が必要となるのが潜水艦だ。
艦内は危険、汚い、キツい、そして臭いの4K環境。
そこでラーメンを食べるなど、それも脂ぎったラーメンなど無理というものだ。
高性能なフィルターが装備されているが乗員の体臭や機械のオイル、汚水の匂いが四六時中艦内に籠もっている。
その中に新たな匂いが、香しい匂いも長時間漂うと悪臭になるので、豚骨の強烈な匂いが加わるなど許されるハズがない。
おまけに速水が乗艦する<くろしお>は中国が主権を主張し緊張状態の南シナ海で活動中。
中国軍に見つからないように行動しなければならない状態で下手な行動、シュノーケル航行でさえ難しいし、浮上など出来ない。
通常ならば。
だが<くろしお>の調理員は、他の乗員と共にやり遂げた。
スープ作りだが、簡単な袋ラーメンに付いているレトルトではなく、調理員のこだわりにより様々な旨味が滲み出てくる本物の豚骨を使う事にした。
出航前に豚骨を冷凍しカチカチに凍らせた後、ハンマーで粉砕して粉状にすると袋に入れ冷凍庫に保管。
準備時間に取り出し、荒い布目の袋に入れて煮込み、アクを取りながら短時間で作り出す方法を編み出した。
これでスープの製作目処は立った。
具材も冷凍して保管するので問題なし。
最大の問題、匂いの処理だが、フィルターへの負担は最小限に抑えたい。そこで直接外へ排気出来る充電時間に行う事で解決した。
海自の潜水艦は全てディーゼル推進であり、バッテリーを充電するために海面直下に浮上しシュノーケルを突き出てディーゼルエンジンを稼働させ、発電機を回し、バッテリーを充電する。
一番無防備になる時間だが、同時に換気も行う。
ディーゼル動いている間はシュノーケルから吸い込んだ艦内の空気をエンジンが吸い込み排気する。
その過程で換気も行われる。
調理中に出る臭気を、調理室の空気を最大限に吸い込ませれば、匂いは抑えられる。
艦内空調系担当者が調理室から空気を、強烈な豚骨の匂いを吸い取るように機器を調整し準備した。
だが、難関はそれだけではない。
スープ作りの間、絶対に他の艦船がやってきてはならない。
途中で邪魔が入れば、例え商船でもシュノーケルが発見される危険があるためシュノーケル航行は中止。
換気できなくなり匂いの出るスープ作りは途中で中断され最悪、製作途中のスープは廃棄することになる。
この難関は絶対に見つからない、相手が現れない時間と海域で行う事で解決させることにした。
<くろしお>幹部一同と熟練海曹は、協力してその海域をさがした。
特に艦長の気合いの入れようは凄まじく、他の艦の記録まで精査して彼らに助言どころか自ら海図に情報を記入して探す。
普段、特に口出ししない艦長があそこまで熱を入れるのは初めてだ、と古参海曹が驚くほどの情熱を注いで、「ここだ!」と言って時間と海域を見つけ出した。
実際、充電そして調理開始からソナーもレーダー探知機にも何の反応もない。
ディーゼルエンジンが鳴り響く中、調理室で豚骨スープ作りは始まり邪魔される事なく完成した
そのスープを素に醤油ダレを加え、ゆでた中太麺を入れ山盛りもやしとチャーシューを載せる。
人気の家系をリスペクトしたラーメンの完成だ。
純粋な豚骨にしなかったのは、くどすぎると苦手で食べられない乗員がいると予測されたからだ。
疲れすぎて感覚が過敏になっている恐れもある。
食べやすい豚骨醤油が良い、と調理員が考えたからだ。
ガチの豚骨好きは、少し落胆しただろうが、食べられないよりマシだ。
「うおっ」
普段冷静な副長の速水三佐も幹部食堂に完成したラーメンが出てきたときは、驚きの声を上げた。
紛れもない豚骨の香りに、山盛りのもやし、頂上にちりばめられたメンマ、張り付くチャーシュー、もやしにねじ込まれた味付き半熟卵、その隙間から見える中太麺。
本物の豚骨醤油ラーメンだった。
「頂きます」
早速、速水は麺を摘まみすする。
「美味い」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます