第8話 最終話 本物の愛とはなにか

 翌日はお決まりのように朝から事務所前に記者が押しかける大変な騒ぎだった。



 光太が以前どこかのモデルと初めてガセ記事を出されたときよりもっと大勢の記者が、日本が誇るギタリストで作曲家、アイドル的人気のバンドのヴォーカル海原裕星かいばらゆうせいの熱愛報道とあってヒートアップしていた。



「裕星さん、何事ですか~? 何かやらかしましたか?」

 陸がやっとの思いで記者をまき、事務所に息を切らし入ってきた。



「裕星、一体何だ? もしや美羽さんとの事が? 美羽さんは大丈夫なのか?」

 光太は自分の時の苦い思いを知っていて裕星に同情した。




「悪い。美羽の事じゃない、とんだ濡れ衣だよ」


「ガセってこと?」陸が身を乗り出して聞いた。


「そうだ。それも向こうの女が噂を作って売ったんだから始末に負えないんだ」裕星はため息をついた。






「今回の標的は俺だけだ。特に否定コメントや弁明をするつもりはない。

 したところで、どうせまた新たな妄想でガセを被せてくるだろうからイタチごっこだ。


 それよりも、光太も陸も普通に行動していてくれ。何か聞かれたらスルーで構わない。


 こういうことにはむしろ振り回されず普通の生活をするのが一番いいんだ。

 あいつらは標的に構ってもらって記事を増やすことが一番の目的なんだからな」


「オーマイガー! 日本のマスコミはリアリ稚拙だなあ」

真相を知って、リョウタは両手を肩の高さに上げ、ヤレヤレと言うようにヒューとため息をついた。




 あれからどれくらいの間、裕星と例の三流モデルの記事が交際の内容や愛の言葉やらを次々と妄想で書き立てられ白熱したことだろう。


 しかし数週間も経つ頃には、到底事実でないために早々とネタ切れしてしまい、お決まりの【破局】記事が出されたことは言うまでもない。


 しかも裕星のファン達は賢かった。

 はなからあんな記事を信じていた者は殆どいなかった。

 むしろ、証拠とされた写真で、あの女の外見や性格を見て逆に確信できたからだ。



 つまり『裕星が好きになり付き合うような女には絶対に見えない』ことを。

 売名モデルに振り回された週刊誌は自爆に終わったのだった。






 あれから当の「里美」はどうしていたのだろうか?

 噂によれば、自分の撒いた種のせいで、外出もままならないほどパパラッチに付きまとわれ、仕事も遊びにも行けなくなっていたらしい。



 それどころか、友人関係まで調べ上げられ、良からぬ友人が多いことまで付きとめられたようだ。

 その上、当時の高校の同級生まで調べが入り、逆に『里美自身は裕星に熱を上げていたが、裕星に冷たくあしらわれていた』ことまで暴露されてしまった。


 しかし、そんな真実を週刊誌が書くわけがない。

 自社のガセを認め、間違いでしたと誤りと訂正を出さなくてはいけなくなるからだ。


 それに、もしそんなことをしたら売り上げは激減、さらに記事の回収費用が掛かり、JPスター事務所やファンから提訴されるのは目に見えている。


 まず、そんな奇特な週刊誌社なら、よく調べもせずにこんなガセを出すことはハナからしなかっただろう。






 里美は自業自得で、世間からお灸を添えられ、モデル事務所からも解雇させられたと噂に聞いた。

 あれ以来、裕星の前に姿を現すことは一切無くなった。







 一ヶ月ぶりにJPスター事務所に平和が戻ってきた。

 あれから美羽は、しばらくの間、裕星と逢うのを控えていた。


 その間、『天使の家』のボランティアの仕事に勤しんでいた。

 美羽にとっては、自分が巻き込まれるまでは、芸能界のように人間たちを狂わせてしまう場所には無縁だ思っていた。




 今までのように裕星と頻繁に逢うことはしなかったが、毎日連絡は密に取り合いしっかり愛を育んでいた。

 お互いを大切にすることは、無理強いして逢うことではないことを二人は知っていたからだ。




 相手の仕事を尊重し決して日々の生活リズムを崩さないように、自分の欲求だけを押し付けない。

 それが二人の暗黙の気遣いだった。



 裕星にとって、これからも美羽とは一緒に生きていきたい、そう思える大切な運命の相手であることは変わらない。

 裕星にとったら、ゴシップ誌が勝手に妄想でこじつけた数々の「見知らぬ交際相手」との記事など、取るに足らない足元の蟻の喧嘩のような出来事だった。




 それよりももっと大切なものは真実にあるからだ。


『どんな世界に生きていようが、自分を持っている人間は強い』


 芸能界に溺れて自分を買いかぶり驕り高ぶる者や、意図せず作られたスキャンダルで心傷付き辞めてしまった仲間たちを多く見てきた。


『自分を愛することが出来て、守るべき誰かがいる』


 そんな家族や愛する人との愛情に包まれている人間は、信じ合う強さをもっているから、笑顔にも幸せが溢れ、観てる者をも幸せにする力があるのだ。



 かつて裕星が母親との確執で愛情薄い生活をしてきたときと今とでは大違いである。


 美羽がこれから先も、どんなハプニングでも乗り越えられる強さを身に付け、裕星の運命共同体としてやっていけるかどうか。

 それは愛情だけでなく信頼を不動にすることに掛かっているのかもしれない。




 信じ合う二人が、これから起こる様々なハプニングに、どう向かい、どう解決し、愛を深めていくのだろうか? また私たちは遠くから静かに見守っていくことにしよう。


 たとえどんな逆境に遭ってもあの二人なら大丈夫と信じて──。









さて、2人に起きた初めてのトラブルは、まだほんの序の口だった。


まさかこの後、これ程大きな事件に巻き込まれることになるとは──


ただの一般人である美羽に、ある人物からテレビ番組出演の依頼が舞い込んできたのだ。





──Part3『独身貴族探偵編』につづく





 運命のツインレイ シリーズPart2『芸能人との交際編』終

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