第73話 魔力増加付与の効果

 走る方向を街道からそれるように草原の中へと切り替える。魔力増加の付与効果を確認しようとすると、街道の真ん中よりはちょっと離れたところがいい。今度は外で昼寝なんてしないし、眠くなったら街にちゃんと帰るよ?


「ここまで来れば大丈夫かな?」


 ある程度奥まで来たところで立ち止まる。前回と同様に木の精霊であるかえでにお願いして広場を作ってもらう。


「うふふ、できたのねん」


「ありがとう」


「アイリスの魔力をたくさんもらえるのならお安い御用なのねん」


 くるくると回りながら嬉しそうにしている。なんとなくかえでと話をしているとホッとする気がする。街中だとなかなか接する機会もないしね。


「そうだ。あたしはここでしばらく魔術の練習するけど、スノウとトールはどうする? 人に見つからないようにだったら狩りをしてきてもいいけど」


 やることなくじっとしてるのも退屈だろうと思ってスノウたちに聞いてみれば、行ってくると返ってきた。


「それじゃまたあとでね」


 了承の声を上げると、さっと二体の獣の姿が消える。スノウはなんとなく追えたけど、トールは本当に消えるようだった。さすがに雷を操る魔物なのか素早いみたいだ。

 さて始めようかと思った頃に、上空を漂う球体が目に付いた。街中では姿を見せないキースだったけど、宿の部屋以外で見るのは久しぶりな感じだ。


『またこんなところに来て今度は何をやるつもりだ?』


「せっかくだからちょっと派手に魔力増加付与の効果を確認しようと思って」


『ふむ。少ない魔力で大きな結果が得られるはずだが、どれくらい規模が大きくなるか把握しておくのは大事だな』


「うん。だからくろすけもよろしくね」


 腰に下げている魔力増幅短剣をポンポンと叩くと、そこから漏れ出てきたように黒いもやが姿を現す。


「あはは、割とそこ気に入ってるよね」


 というわけで一通りの精霊魔術を順番に使用していく。なんとなく五割増しくらいの規模になってる気がする。


「思ったより威力上がりそうだね。渡す魔力少なくすればいいのかな」


『……おかしい』


 一部が焦げたり水浸しになった草原を見回していると、キースがぽつりとそんなことを言いだした。


「……何がおかしいのさ?」


『魔力増加付与はそこまで増加の効果はなかったはずだ』


「へぇ」


 キースが近寄ってくると短剣に向かって光を照射する。いつもより長めだけど細かく調べてるんだろうか。


『やはり短剣に付与されている効果は二割増し程度だな』


「ふーん……。くろすけのおかげかな?」


 短剣にまとわりついては私のところに帰ったり、嬉しそうに行き来しているくろすけを見て予測する。


『かもしれん。そうすると通常の魔術も効果が上がっていそうだな』


「あ、そうかも。……火よ」


 集中してキーワードを唱えると、手のひらの上に炎が生まれる。やっぱり何割増しか炎が大きくなっている気がする。普段はちょっと控えめにしておいても問題なさそうだ。多少の火さえあれば火の精霊魔術は強化されるし、あまり大きすぎても意味はない。


 ステータスのMP残量を見ながらいろいろ試していたけど、付与の効果かほとんど減っていない。HPに至っては相変わらず二桁しかなくて貧弱だけど、やっぱり小さい体だとこんなものなんだろうか。そういえばフォレストテイルのみんなとかどんなステータスなんだろう。直接聞くのはマナー違反だろうし、今度レベル上げたいって相談してみようかなぁ。実際に上げたいのは本当だし。


『ふん。それにしても街に住みだしてから、いろいろと訓練がおろそかになりだしてきたな』


「あー、うん……、まぁねぇ……」


 一通りの魔術の確認も終わったところで、キースからダメ出しをもらう。


「だって周りの皆が許可してくれないし……。今日だってこうして街の外に抜けだして人のいないところに来てようやくだよ」


 かつて周囲にいないものとして無視されてきたことを思えば、贅沢を言っているのは自覚している。だけど不満になっているのも確かなので、ちょっと愚痴ってしまった。


『環境のせいにしてばかりいれば衰えていくばかりだな』


 そりゃ人間みんな毎日やらなくなったら衰えるものだろうけど。でも私が持ってるスキルは精霊魔術を除いてぜんぶ1か2だしなぁ。

 以前はレベル1のスキルすら皆無だったし、それなりに努力はしてきたけど。……とここまで考えてふと気が付いた。


 今って当時と同じくらい努力をしているのかと。

 あの古代遺跡でスキル因子というものを注ぎ込まれてスキルを得られやすくなったからと、その状態に胡坐をかいていないかと。


 こんなやつキースに諭されるのは癪だけど、確かにこのままじゃダメな気がしてきた。環境がだめなら、その環境を変えようとしなくては。

 本当に癪だけど、ちょっとだけキースには感謝――


『無能者をここまで若返らせた例はほぼないからな。健康にしていてもらわねば観察のし甲斐がない。一年ほどで被検体が死亡した例も少なくないからな』


「は?」


 ため息とともに愚痴っぽくキースから出てきた言葉に思わず思考が停止する。


 死亡ってナンデスカ? え? しんだ? 誰が? 被験者ってのはつまり、因子を注ぎ込まれた人たちのことで……、えーっと……。


「何それ!? 健康のために運動しろってだけの話!? しかも一年で死んじゃうとか……、すごく怖いんだけど!?」


 人でなしキースに感謝なんてしようとしたこと自体が間違ってたよ!

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