第34話 オーガとの遭遇

 心置きなくみんなで夕飯を食べた後、家の中にスノウと入って入り口を塞いで朝までぐっすり眠った。スノウのお腹枕は最高でした。途中で目は覚めなかったので、夜中に何も来なかったんだろうか。


 家はそのまま残して今日も森の中を進む。お昼を過ぎた頃、スノウくらいの高さのあるカメと遭遇した。のっそりと進むカメは私たちのことなど存在しないかのように、立ち止まることなく進んで行く。


「あんな魔物もいるんだ……」


『まるで眼中にないとでもいうように完全無視だな』


 向こうから手を出してこなければこっちも何もしない。争いもなく平和なのが一番だ。

 その翌日も変わり映えのしない森の中を、たまに襲い掛かってくる魔物を倒しながら進んで行く。数日後、お昼ご飯を食べているときにそれと遭遇した。

 がさがさと遠くの茂みが揺れている音が近づいてくる。何事かと思ってそちらに目を向ければ、二メートルほどの二足歩行する魔物が三体こちらに近づいていた。向こうもこちらを視認できる距離まで近づくとそこで足を止める。

 額に角が付いていてかなり厳つい風貌をしている。肌は青く筋肉がはちきれんばかりに盛り上がっている。


「……」


 思わず見つめ合ってしまったけど、お互いに何も言葉を発しない。

 スノウも一緒になって見つめ返しているだけだ。

 しばらくして向こうから視線を外したかと思うとそのまま引き返していく。


『あれはオーガか……? 私の記録では好戦的な種族だとあるが……』


「まぁ争いにならなかったならいいじゃん」


 キースがない首をひねっているが、平和が一番なのだ。

 その後も森の中を進んで行くが、三日後になりまたもやオーガと出くわした。今度は五体いて、先頭を歩く一体は武器を携えている。材質はよくわからないが、先のとがった槍のようなものを持っていた。


「また?」


『今度はなんだ?』


 キースと一緒に首をひねっていると、オーガがどんどんと近づいてくる。警戒しつつ身構えていると、五メートルほどの距離まで近づいて停止した。前回同様に敵意は感じないが、何かあってもすぐに動けるように心構えだけはしておく。

 すると、先頭の一体が一歩進み出てきた。


「人間、ドうか我々を助けル、くれナいか」


 たどたどしい言葉を発するオーガに思わず目を丸くする。


『言葉を話す……だと? もしやハイオーガか?』


 キースは心当たりがあったみたいだけど、それってオーガの上位種なのかな?

 少しだけ警戒心を緩めるけど、スノウは重心を低くして警戒したままだ。


「えーっと、助けてくれってこと?」


「ソうダ。我ラのオババ様が危険デ状態ナのだ」


 思わずキースと顔を見合わせる。スノウとシュネーも首をひねっているようだ。オババ様って言うからには偉い人なんだろうね。


「危険って、怪我とか病気とか?」


「そウではなイ……カモ。とにかく危険デ、今すぐキタコレ。頼ム」


 たどたどし過ぎてたまに意味が分からない言葉になってるけど、なんとなく必死なのは伝わってくる。


「どうしてあたしなの? ただの子どもだよ?」


 自分で言うのもなんだけど、三歳児なのだ。危険な状態になっているオババ様に何ができるとも思えない。


「大丈夫。オ前、オババ様と同ジ感じタ」


 うん? オババ様と同じ? 何が?

 よくわからなくて振り返るけれど、もちろん答えを返してくれる者などいない。


『言葉を操るほど知能があるとはいえ、さすがに罠ということはあるまい』


「それはそうなんだけど」


 オーガたちの様子からそれはないと私も感じている。むしろ必死になって助けを求められると、応えてあげたい気持ちになっているくらいだ。王宮では存在しないものとして扱われ、邪魔者扱いされてきた私が必要とされているのだ。魔物とはいえ心が湧きたつに決まっている。

 そういう意味ではもう私の中では答えは出ていた。


「役に立てるかどうかわからないけど、それでもよければ」


「本当カ! 助かる! 恩ニ着ろ!」


 そこは恩に着るだよね。きっと。そう思っておこう。


「ごめんね。せっかく付き合ってくれてるのに寄り道しちゃって」


 振り返るとシュネーとスノウに謝っておく。私の我儘に付き合ってもらっているのにさらに寄り道なのだ。でも頼られると断り切れない。

 そんな気持ちになっている私の顔をぺろぺろと舐めるスノウ。


「ありがとう」


 気にするなって言ってくれている気がした。


「すグに案内すル」


 先頭のオークが踵を返すと、残りの四体も後に続いていく。その後ろを私とキース、シュネー親子が順について行った。


「オババ様がいるところってどんなところ?」


 ただ無言で進むのもどうかと思い、前を行くオーガに聞いてみる。


「我らノ村で休んデいル」


「へぇ、村があるんだ?」


 思わぬ答えにちょっとだけ期待が膨らむ。一時期リザードマンの集落で過ごしていたけど、あそこはただ湿地帯に大量のリザードマンが集まっているだけといった雰囲気だった。聞くところによれば人間と同じように家を作っているとか。

 途中で襲い掛かってくる魔物もいたけど全部オーガたちに撃退された。連携はそれほどでもなかったけどとにかく力が強かった。次第に案内役以外の四体が、私たちの護衛のような立ち位置になっていく。

 そして三日ほど森の中を歩いていけば、オーガの村に到着した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る