2 次の行き先

 それから数時間後の現在、斎達は馬車で真南の方角に進んでいる。馬車は要目が道端でつかまえた商人のもので、斎達は荷台の空き場所に座る形で目的地に向かっていた。

「かなり良いもの」とあっただけあって薬湯の効果は抜群だった。今では体が引きつらない。

 斎は前に座る要目に声をかける。


「どこに行く?」


 要目は開いていた本を閉じて答える。


「隣街です。おいしいチョコレートがあります」


 てっきり復讐したい相手がその街にいるのかと思ったが、どうやら違うらしい。


「チョコレート?」

「ええ。風呂あがりと言ったらショコララテでしょう?」

「酒じゃないのか?」

「斎……今までどんな生活をしてきたのです?」


 斎は黙って荷台に手をかけ、首だけで後ろを見る。すでに建物だらけの街は小さくなっており、かなり遠くまで来ていることが分かった。


「――……」

「?」

「何でもない」


 斎の声はかなり小さく要目には聞こえなかったらしい。それはそれでいい。わざわざもう一度聞かせる内容じゃない。

 その時、馬を操っていた商人が声をかけてくる。


「お嬢さん達、チョコレートもいいけど、あの街一番の花園もおすすめだよ!」


 要目は首を傾げる。


「花園?」

「ああ、全ての植物が集まっている最大規模の花園だ。一日では到底見て回れない。それにあそこはあの街唯一の観光所だから、たくさん屋台が出てるぞ」

「それは、もしかしたらそこにチョコレートもあるかもしれませんね」


 要目は持っていた本をマントの中に仕舞うと同時に商人が言う。


「今からそこに商品を入れるんだが、良かったらそこまで一緒に行くか?」


 要目は身を乗り出しそうな勢いで即答した。


「! 行きます! 連れて行ってください」


 お願いします、と付け加える。

 斎はそんなやりとりを傍で聞きながら右膝を立て、左足を伸ばす。

 頭を下げて目を閉じる。

 馬車の揺れと太陽の光が心地良い。そういえば太陽の光をしっかり浴びるのは久しぶりだ。そんな懐かしさを思って眠りについた。


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