第45話 「!?」


 状況を整理しよう。


 クロエと共にヘレム荒野からネクロニアへと帰還した俺は、クロエをカドゥケウスの屋敷へ送り届けた後、すぐにキルケー家へと顔を出した。


 ネクロニアを留守にしていた5日間、俺の身に何が起こっていたのかを説明するためだ。


 しかし、キルケー家の屋敷に辿り着くと、なぜか慌ただしい戦場のような雰囲気に包まれていた。俺が来たことを使用人が報告でもしたのか、屋敷の奥から顔を出したエヴァ嬢とフィオナ、それからなぜか居た『賢者』イオ・スレイマンと共に、いつもの応接室に移動することになった。聞けば、ネクロニアにスタンピードが起こるかもしれないという。


 俺を含めた4人で、互いに情報を交換することにした。


 俺としてはまず、スタンピードの話について聞きたいところだったが、イオがそんな俺を宥めるように、


「スタンピードについてはまだまだ可能性の話だ。【封神四家】の当主様たちが【封神殿】の結界機能に異常がないか、確認された時には問題ないとのことだった。それに今は【封神殿】自体の監視も強化しているようだ。すぐさまスタンピードが起こることはないだろう」


 と言った。


「それよりも、まずはアーロン君の話を聞かせてくれたまえ。たぶん私たちの想像通りではあるのだろうが、君の身に何が起こっていたのかを知りたい」


「……分かった」


 予想外の出来事に心が乱されてしまったが、元々そのつもりではあったのだ。


 俺は渋々と、まずはこちらから説明することにした。


「えーっと、5日前くらいだったか? 買い物に出掛けたら変な奴らが俺のことを尾けてやがってな。それで何のつもりか話を聞こうと人気のない裏路地に移動したんだが――」


「えっと、アーロンさん? そこはまず、人気のない場所は避けて助けを求めるのが正しい行動なのでは?」


 エヴァ嬢が呆れたように口を挟んでくる。


 俺は肩を竦めながら、そんなことはない、と教えてあげた。


「探索者でもないエヴァ嬢がそう思うのは無理ないが、俺の行動は探索者界隈ではいたって普通の行動だぞ? 俗に言う、売られた喧嘩は買うってやつだな。立場によって常識ってのは異なるのさ」


「…………」


 エヴァ嬢が無言でイオに視線を向けた。イオは無言で頷いた。


 今の首肯はどういう意味なのか気になったが、きっと俺の言葉を肯定してくれたのだろう。ともかく、俺は説明を続けていく。


 裏路地に姿を現したのは探索者風の男が5人。男どもが俺に「お前の大切な者を人質に取っている」と言ったこと。人質を取られた俺は、男どもをぶちのめすことができなくなったこと。


「ちょっと待ちなさいよ!! 誰よ大切な人って!? アンタにそんな人いるわけないでしょ!!」


「失敬だぞフィオナ」


 なぜか断言口調で横からフィオナが口を挟んできた。


 俺は顔をしかめながら言い返す。


 ちなみに席順だが、フィオナは俺の横に座っていて、ローテーブルを挟んだ対面にエヴァ嬢とイオが並んで座っている。


「…………俺にだって、大切な人くらい……いる」


 男どもに言われた時、咄嗟に思い浮かばなかったのは内緒の話だ。


 ともかく。


「とはいえ、大切な人ってだけでは誰だか分からんだろ? だから聞いたんだ。誰だよって」


 そして男どもは答えた。【封神四家】の女だと、証拠の杖と共に。


「だからエヴァ嬢が拐われたんだと確信した俺は、男どもについて行くことにした」


「エヴァ……?」


 なぜかフィオナが、地の底から響き渡るような声でエヴァ嬢を呼んだ。


「アンタたち……そういう関係だったの……?」


「――なぁッ!? そッ、そんなわけないじゃない!! とんでもない勘違いだわ!? アーロンさんも早く否定してくださいまし!!」


「何をそんなに慌ててるんだ? エヴァ嬢が大切な人なのは当然の話じゃないか」


「はあああッ!?」


 クランのパトロンで護衛対象でキルケー家の次期当主候補筆頭だ。極めて重要な人物であるのは、改めて説明するまでもなく明白だろう。


「…………」


「ちょっとフィオナ! その目やめてッ!! わ、私をどうするつもりなの!?」


 何やら二人で騒いでいるエヴァ嬢たちを無視して、俺はさらに説明を続ける。


 男どもにスラムへ案内され、通りから奥まった場所に隠されるように建っていた一軒の家に入って行った事。そして家の地下には転移陣が設置されており、それを使って遠く離れた場所へと転移した事。


 転移先は後から判明したことだが、イーリアス共和国内のヘレム荒野だった事。


 転移先には、さらに25人の男どもが待ち構えており、全部で30人の男どもが殺る気満々で俺を歓迎してくれた事。


 転移先にいた人質が、予想に反してエヴァ嬢ではなくクロエだった事。


「ほらっ! ほらぁっ!! 聞いたフィオナ!? やっぱり私じゃなかったわよ!?」


「…………クロエ? アンタの大切な人って、クロエだったの……?」


「ああ、俺も初耳だったんだが、どうやらそうらしい」


 フィオナの問いに答える。まさかクロエが俺の大切な人だったとは……想像もしていなかったぜ。


「ふーん、クロエ、ね……。それってカドゥケウス家の、メガネを掛けた三つ編みの娘でしょ?」


「おお、そうだぞ。良く憶えてたな」


 俺だって思い出すのにちょっと時間が掛かったのに。


「ふーん……」


 話が少し脇道に逸れてしまったが、俺は説明を続ける。


 クロエを人質に取られたことによって、俺は男どもの言いなりになるしかなかった事。男どもは俺の武器とストレージ・リングを回収すると、さらに「アンチ・マジック・リング」を俺に装着しやがった事。そしてクロエを拘束している一人を除いて、他29人が赤色のポーションをキメ、ジューダス君たち同様に目ん玉が金色に変化し、魔力その他が強化された事。


 男どもは俺を包囲し、一斉に全力で攻撃を叩き込みやがった事。


 何やかんやで、俺は男どもを全員倒した事。


「ちょッ!? ちょっと待ってくださいな!! そこッ、おかしいですわよ今のところッ!!」


「え? どこかおかしかったか?」


 エヴァ嬢のツッコミに首を傾げる。何か分かりづらいところがあっただろうか、と。


「アーロンさんは「アンチ・マジック・リング」を装着されていたのですよね? それでどうやって勝ったんですの? 普通死にますわよね? いえ、普通じゃなくても死にますわよね?」


「ああ、それは――」


 俺は「アンチ・マジック・リング」の欠点について、エヴァ嬢たちに説明してやった。


 すなわち、「アンチ・マジック・リング」では事前に生み出しておいたオーラの制御は奪えないことだ。


 体内に溜めておいたオーラを使って戦技――と説明すると長くなるので、単にスキルを使って男どもの攻撃を防いだと説明する。続いて男どもの攻撃によってリングが破壊されたので、後は奴らの虚をついてクロエを解放し、普通に男どもを倒したと告げる。


「…………普通に倒したって、アーロンさんはその時、素手だったのですよね?」


「ああ、素手どころか全裸にされちまったがな」


「全裸ッ!? 何がどうしてそうなったんですの!?」


 どうやらエヴァ嬢としては、剣士系ジョブの俺が素手で戦えたことが不思議らしい。それとも俺の全裸が気になっているのか。


「ねぇ、そいつらって30人いたのよね? 強かったの?」


 続いてフィオナが聞いてくる。多勢に無勢だと思ったのだろう。


「まあ、ジューダス君たちより少し強い、くらいの奴らだったな」


「そもそもそんな相手に一人で勝てることもおかしいが、私としてはオーラを留めておく技術とスキルの遅延発動がまず信じがたい。空恐ろしいな、君は」


 どこか呆れたように、イオが言った。


 とはいえ、普通はそんな技術など必要になることはないのだから、使えなくても問題ないとは思うが。


「話を続けるぞ? ――んで、男どもを倒した後は、一人だけ生かしておいた奴から情報を引き出そうとしたんだが……」


「いや、その状況で当然のように捕虜を取らないでほしいんだが。実は結構余裕があったのかね?」


 イオが口を挟むのに、俺は心外だと首を振った。


「おいおい、そんなわけないだろ? 俺の人生の中でも、上から12番目くらいの危機だったぜ」


 マジで死ぬかと思ったんだからな。


「意外と余裕があったみたいだな……というか、君の人生、死の危険が多すぎないかね?」


 だが、イオは納得してくれなかったようだ。頑固な奴だぜ。


 ともかく、話を戻して遠隔から放たれた魔法により、それもおそらくは空間魔法によって捕虜が始末されてしまった事を告げる。


「空間魔法、ですか……」


「ああ。たぶん、かなりの遠距離から放たれた魔法だと思う。数キロや数十キロ程度じゃなく、もっと遠くからだな」


 険しい表情で呟くエヴァ嬢に、魔法のことを補足する。


 さすがは空間魔法なのか、それとも術者の腕が異様に良いのか、それともその両方か。ともかく、とんでもなく腕の立つ術者であるのは間違いないだろう。


 何にせよ、捕虜を始末されてしまった俺たちは男どもの遺体と装備などを男どもが身につけていたストレージ・リングに収納し、回収してきた。


 ちなみに30個ものストレージ・リングは布にくるんで一纏めにして運んで来ている。


「それがこれだ」


「ありがとうございます。調べさせてもらいますわね」


「ああ。とは言っても、あそこまで徹底している奴らだ。これで何かが分かるとは思えないがな」


 ソファの足元に置いておいた荷物を、エヴァ嬢に渡した。


 エヴァ嬢は30個のストレージ・リングを受け取ると、使用人を呼んでリングを預ける。その際に指示も出していたから、さっそく中身を調べるつもりなのだろう。


 使用人が部屋を退出したところで、俺は話を再開した。


 ヘレム荒野から戻ることになったのだが、転移してきた転移陣は男どもの攻撃によって破壊されてしまった。地理に明るいクロエの話によると、普通に戻るには一月も掛かってしまうらしい。それは困ると思った俺は、クロエを背負って山とかをぶち抜き、5日でここまで帰ってきた――というわけだ。


 クロエがゲロ吐いたり失禁したり裸を見られてしまったりしたことは、彼女の名誉のために黙っておいた。


「なるほど。君の事情は良く分かった。色々と凄まじいな……」


「信じがたいことのオンパレードですわね……」


 話が終わり、イオとエヴァ嬢が嘆息しながら呟く。


 何やら情報を整理するように考え込んでいた様子ではあるが、俺は少しだけ待った後、こちらから話を促すことにした。


「それで、スタンピードとかの事情を聞きたいんだが?」


「あ、はい。分かりましたわ」


 頷き、エヴァ嬢が語ったところによると。


 まず5日前、俺がネクロニアから姿を消した日から、続けて3日間、≪迷宮踏破隊≫のメンバーが何者かに襲撃を受けたらしい。


 何者か、というのは、おそらくジューダス君や俺を拉致した連中と同じ組織の者たちだろう。


 こいつらによってクランメンバーが何人も犠牲になった。個人でいる時や少人数で行動している時などを狙い撃ちにされたようで、現在までに13人もの死亡者が出てしまっているらしい。


 つまり、クランのメンバーで残っているのは俺とイオとフィオナに、ガロンたち≪鉄壁同盟≫とカラム君たち≪バルムンク≫、それからクレアたち≪火力こそ全て≫に、もう一つ、≪グレン隊≫というパーティーしか残っていないらしい。


 人数としては、全員で24人だ。最初は51人いたのだから、この短期間で半分以下にまで減ってしまったことになる。


 はっきり言って、惨憺たる有り様だろう。クランとしての体裁を保つのもギリギリのラインだ。


 これについては本当に危機的状況だったようで、イオが少しばかり疲れたような顔で、安堵混じりに言った。


「君が戻って来てくれて、ほっとしたよ。正直、ローガンやエイルに加えて、君までいなくなるようなことがあれば、クランを維持できないところだった」


「ん? 何でだ?」


「我々のクランの目的を考えてみたまえ。46層以下を探索するには、現在の戦力でも心許ないくらいだよ。おまけに君が抜けたりすれば、フロアボスすら倒すことはできないかもしれない」


 俺たちのクランの目的。


 それは言うまでもなく、【神骸迷宮】を最下層まで攻略することだ。ただしこれは、そこに到達するまでにジューダス君たちが所属していた組織の正体が判明しなかったら、という注釈がつく。


 実は【神骸迷宮】を踏破する事と、奴らの正体を暴くことはイコールで結ばれているのだ。なぜならば、最下層に「誰が」裏切り者・・・・なのか、動かぬ証拠がある――と、【封神四家】の面々は確信しているから。


 そして当然ながら、【神骸迷宮】を踏破するにはそれを可能とするだけの戦力が必要となる。


 逆に言えば、踏破可能な戦力を維持できなくなった段階で、≪迷宮踏破隊≫は表向きではない、真の結成理由を果たせなくなるのだ。


 すなわち、クラン解散も已む無しとなる。


 ともかく、話を本題に戻そう。


 襲撃を受けてクランメンバーが何人も殺された。遺体こそ出てきていなかったが、俺も襲撃を受けて殺されたのではと思われていたらしい。


 そしてこの出来事で、忽然と姿を消したローガンやエイルもまた、襲撃を受けて殺された可能性が高くなってしまった……。


 混乱に見舞われたクランと【封神四家】は、予定していた会議を中止することになった。


 今は暫定だが、イオがクランマスターに就任しているらしい。キルケーの屋敷にいたのも、クランマスターとしてキルケー家の当主と今後について話し合いをしていたからのようだ。


 一方、フィオナが屋敷にいたのは、襲撃者どもに対する警戒が理由だ。


 クランメンバーは現在、それぞれが関わりのある【封神四家】に詰めて、四家重要人物の護衛を行うと共に、自分たちに対する襲撃に対しても警戒しているのだとか。


 つまりは、危険なので出来るだけ大勢で集まり、襲撃に備えている――ということのようだ。


 ちなみにイオもフィオナも襲撃されたらしい。


 イオは一人でいるところを襲われたが、相手が3人だったために何とか撃退に成功する。フィオナは他のクランメンバーと共に、襲撃を受けて連絡が取れなくなっていたメンバーの捜索を行っていた時に、襲撃を受けたようだ。


 捜索対象のメンバーが消息を絶ったのが迷宮ということで、フィオナとクレア嬢たち≪火力こそ全て≫と、≪新星≫という名のパーティー、計12人という大所帯で迷宮内部を捜索していたらしい。


 しかし、この時に襲撃を受け、何とか撃退に成功したものの、≪新星≫の面々は犠牲になってしまったのだとか。


 その後、こちらが警戒を強めたのが理由なのか、ここ2日ほどは襲撃はないらしい。しかし代わりに、【神骸迷宮】で大事件が起きた。


 前兆は4日ほど前にはあったようだ。


 今まで見たこともない特異個体の魔物が、迷宮内を彷徨いているのが発見され、探索者によってギルドに報告があげられたのだ。


 しかし、特異個体の魔物が発生すること自体は、どこの迷宮であっても起こり得るし、頻繁ではないがたまにあることだ。


 問題なのは、今回発生したとみられる魔物が、とんでもなく強かったことだろう。


 通常、特異個体は普通の魔物に比べてもかなり強い。だが、今回現れたのは、そういった特異個体の枠に当て嵌めて考えてみても、比較にならないほど強力な魔物であったとか。


 ギルドが【神骸迷宮】への立ち入りを一時的に禁止したのが昨日のことだが、それまでに下級、中級、上級を問わずに、少なくとも100人以上の探索者が犠牲になったようだ。


 それも遺体を回収する余裕もなく、ほとんどが迷宮に吸収されてしまったとみられる。


 迷宮にとって栄養豊富な探索者が100人以上も吸収されてしまったのだ。栄養過多に陥った迷宮の反応として、大量の魔物が発生するのは自然な成り行きだった。


 ギルドが調査したところ、1層から46層まで、確認できる階層全てで魔物の「大発生」が起きていて、内部は非常に危険となっているのが確認されている。


 これ以上、犠牲者が増えて迷宮に吸収されてしまうのを防ぐために、迷宮への立ち入りを禁止したわけだが……現実的な問題として、いつまでも迷宮を封鎖しておくわけにはいかない。


 なぜなら、ネクロニアは豊富な迷宮資源の産出によって成り立っている都市だからだ。一月も封鎖しておけば、企業の倒産、閉店、失業者が続出して大混乱に陥るだろう。


 それに探索者たちが他の迷宮都市へと移動してしまうのも問題だ。


 戦力の低下を招けば何かあった時に対応できないし、そもそも「大発生」を解消するにも戦力が必要となる。


 探索者ギルドのみならず、ネクロニア評議会、【封神四家】ともに、早急な対応が求められる問題なのだ。


「なるほどな……」


 ――と、ここまで話を聞いて、俺は呟いた。


 留守中のネクロニアで何が起きていたのかは、これで把握できたわけだ。


 そんな俺にエヴァ嬢が改まって声をかけてきた。何かと思って問い返せば、エヴァ嬢は鋭く斬り込む剣士のような眼差しをして、こう言ったのだ。


「あなたは……≪極剣≫の一員ですわね?」


 と。


「≪極剣≫か……」


 一方で、俺は記憶を掘り返す。


≪極剣≫というのは確か、ジューダス君たちが名乗っていた二つ名だったよな? いや? ジューダス君たちは偽者だったんだっけ?


 結局、≪極剣≫というのはどこの誰だか分かっていないという話だったはず。


 しかし何にせよ、だ。


「いや、俺じゃないと思うが……?」


 確信に満ちた口調で断言されたところ非常に申し訳ないが、俺は戸惑いながらエヴァ嬢の言葉を否定する。


 だが、エヴァ嬢は頑なだった。


「この期に及んで隠すこともないと思いますけれど? ≪極剣≫が少人数の精鋭によって構成された集団だということは、分かっていますわ。クランの人員がここまで減ってしまった現状、隠れた実力者たちに協力を仰ぎたいのは本心なのです。どうか本当のことを仰ってくださらないかしら?」


「いや……だから……」


 俺は困った。本当に困った。


 全く身に覚えのない人物だと誤解された上、いるはずもない仲間を紹介してくれと頼まれている……。おまけにエヴァ嬢は自分の考えに絶対の自信を持っている模様だ。――え? どうすれば良いの、これ?


「俺じゃないんだってぇ……」


 自然、否定の言葉も弱くなってしまう。


「何か、隠しておきたい事情でもあるのですか?」


「いやぁ……だからぁ……俺、違う。極剣、違う……」


「……アーロンさんが本当のことを口にしたくないことは、分かりましたわ。……ですがっ! それならせめて、お仲間の方を紹介していただけませんか!?」


「な、仲間ぁ……?」


「そうです。事は緊急を要します。たとえアーロンさんのお仲間の方々が犯罪者であっても、御力を借りたい事態なのですわ。表に名前を出せない事情があるなら十分に考慮いたしますし、ご協力いただければ報酬も出来る限りご要望に沿うことをお約束します! ですからどうか、お仲間に話を通していただけないかしら?」


「……ナカ、マ?」


「ええ、お仲間の方々に」


 仲間……≪極剣≫の仲間かぁ……。


 いや、だから俺、≪極剣≫じゃねぇし。どう言ったら信じてくれんだよ。


 エヴァ嬢の期待を裏切るようで罪悪感さえ湧いてくる。しかし、それでも言わねばならないだろう。俺は意を決して口を開いた。


「す……」


「す?」


「す、すまないが、エヴァ嬢……本当に、俺じゃないんだ」


「……」


「俺は≪極剣≫とやらじゃ、ないんだ……」


 エヴァ嬢をじっと見つめて、真摯に告げた。


 エヴァ嬢はぽかんとした顔で、しばらく俺を見つめていた。だが、やがて俺の表情に嘘がないことが分かったのだろう。ぽつりと問う。


「ぇ……本当に?」


「本当に」


 俺は深々と頷いた。


 エヴァ嬢は唖然とした表情を浮かべていた。


 俺たちは気まずい雰囲気の中、沈黙していたが、やがてイオがごほんっとわざとらしい咳払いをして、静寂を終わらせた。


「……まあ、お嬢、ここは勘違いが分かっただけ、良しとしたらどうですかな?」


「……ふぇえ?」


「そもそも≪極剣≫というのも、周りが勝手にそう呼んでいるだけのこと。本人たちは自覚していないかもしれませんし、昨年のスタンピードの「核」たる魔物……皇炎龍イグニトールを倒した者が、複数人だったというのも我々の推測に過ぎません。アーロン君を≪極剣≫だと判断した根拠も薄かったのですから。ここは頼れるかどうかも分からない他人を頼るより、我々自身で「大発生」を何とか終息させるべきでしょう」


「そ、そう……ですわね……。私としたことが、都合の良い想像に縋っていたのかもしれませんわ……」


 イオの言葉に、エヴァ嬢はのろのろとした動きで頷いた。


 どうやら納得したらしい。っていうか、何の根拠で断言しているのかと思っていたら、根拠薄かったのかよ。


「――――」


 まあ、それでね?


 一方の俺はね?




「!?」




 顔には出さず、驚愕……いや、混乱していた。


 昨年のスタンピードの「核」って、やっぱりイグニトールだったのか? っていうか、≪極剣≫ってスタンピードの「核」を倒した奴のことだったのか?


 それって……それって……何だかとっても身に覚えがあるんだけど!?



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