五・九
シチリアを見て、ポンペイで古びたバイクを借りて、ナポリで食事を楽しんで、ローマで真実の口に手を食われて、フィレンツェで芸術に酔いしれた。とても充実した旅だった。
イタリア人は僕の予想より随分と陽気な人たちで、ローマの安宿で相部屋になったフランスの若者と一緒に観光地を巡ったこともある。写真が大好きなその若者とは、コロッセオに行った時に二人で自撮りをしたりもした。いつかの世界でヨーロッパの大体の言語を習得していたので、会話に困ることはなかった。
残す場所はヴェネツィアのみ。
もう未練はない。あの地へ辿り着いたら、僕は人の世に別れを告げよう。
そう思っていた矢先、フィレンツェを出た辺りでガス欠になった。
どうしたものかと立ち往生していると、軽トラに乗った一人の女性と出会った。彼女は親切にもバイクごと僕を乗せてくれた。その代わり、僕に何か話をしろと言った。
だから僕はこの物語を語り始めた。
だがもうそれも終わる。
僕は今——。
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