四・三
あれから僕は世界を変え続けた。
始めのうちはずっと学生のままだった。まだこの力について何も知らなかったから、ずっと同じような事態だけが確定されていた。
ある時、僕は高校生だった。栞は電車にはねられて死んだ。
ある時、僕は中学生だった。彼女は恋愛トラブルに巻き込まれて刺された。
ある時、僕は大学生だった。今度は癌だった。
足りない頭で精一杯できることをした。それでも栞は死んだ。ある時は事故に遭い、ある時は病気にかかり、またある時は殺された。学生にできることなんて限られていた。僕は自分の無力さを恨んだ。だから学生をやめることにした。段々力の使い方が分かってくると、思いの外簡単に望み通りの自分を探すことができた。
ある時、僕は医者だった。医学の力で栞を救おうとした。シリアルキラーにバラバラにされて彼女は死んだ。
ある時、僕は警官だった。警察の権限をもってして彼女を危険から守ろうとした。現代医学では太刀打ちできない難病に侵されて彼女は死んだ。
ある時、僕はレスラーだった。力で彼女をさらって監禁した。外の世界から隔離することで無理やりにでも彼女を死なせまいとした。そしたら彼女は自殺した。
死亡する具体的な時刻が決まっているわけでもない。日時が決まっているわけでもない。年齢も、場所も、原因も。何もかもが世界ごとにバラバラだった。ただ一つ共通していることは、この一夏の間に死ぬということだけだった。
——これではまるで、世界に殺されているようだ。
いつかの世界で思ったことを、僕は再び考えた。
——栞が死ぬのは運命なのか。
そんなはずがない!
僕は運命論など断じて信じない。
『栞の死なない夏』は真偽の判断が可能な命題だ。つまり思考可能な命題だ。ならばその命題が写像した事態は成立可能な事態だ。それが事実になれない道理はない。
命題六・三七、「太陽が明日も昇るだろうというのは単なる仮説にすぎない。我々は太陽が昇るかどうか知っているわけではない。あるできごとが起こったがために必然的に他の出来事が引き起こされると言った強制は存在しない。存在するのはただ論理的必然性のみである」
つまりはトライ&エラーだ。
この世界では失敗した。なら次の世界で。それでも駄目ならその次で。コンコルド効果だと笑われたって構わない。幾千、幾万の挑戦と失敗のその先、N個目の世界に僕の求める真理があるのなら、僕は何度だって世界を超えてやろう。
栞の命を、ただの事態で終わらせてたまるものか。
僕の手で、僕の意思で、それを事実にしてみせる。
さあ、トライ&エラーを始めよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます