第15話 悪夢の始まり
フレゥ王太子殿下のお妃候補として選ばれたと、お父様に告げられてわずか数日後。
我が家に、王家の印章が入った正式な書類が届いた。
内容を簡潔に言えば、
『お宅のお嬢さんが王子様のお相手候補に選ばれたんで、この日からお城に来て教育受けて下さいね♪』
だ。
………………ふざ、っっっけるなあああぁぁぁ!!!!
確かにね!?確かに我が家はれっきとした公爵家ですよ!?我が国最大のバラ商品の輸出元ですよ!?
そりゃーーーもう!!国内外でバラ製品を使っていない貴族なんていないんじゃない!?ってくらい重要な輸出品ですよ!?
国家間の交渉材料として大変重宝されているのも分かっていますし!?だからこそ我が家の発言権には重きを置かれている事も知っていますよ!?
でも!!!!
それとこれとは話が別だろうがあああぁぁ!!!!
手放したくないのは分かるけど、だからってそこの娘を王家に嫁がせようとするな!!
王妃候補とか、そんな面倒くさいことに選ぶなよばかあああぁぁ!!!!
大体なぁ!!
こっちは命がかかってるんだっつーの!!
そこらの令嬢とは、王妃候補になる意味合いが全っっっ然、違うの!!
私は死にたくない!!
っていうか、殺されたくない!!
生きて幸せになるって決めてるんだ!!!!
だから……
そっと見まわした令嬢たちの誰もかれもが、浮かれたように頬を緩めている姿を見て。
私はそっと、この悪夢の始まりにため息を吐いた。
そもそも、だよ?
そんな簡単に、王族に嫁げるとでも思ってるわけ?
ちょっとやそっとの努力じゃあ、やってないのと同じ事だとみなされる。それが王妃教育。
将来の国王の妻であり、さらにその次の国王の母。
その重責と重圧がどれほどのものなのか、本当に彼女たちは理解しているのかどうか。
貴族としては納得するしかないのかもしれないけれど、普通の感性を持つ親ならば普通は喜んで娘を差し出したりはしないだろう。
とはいえ、まぁ……流石に王妃様のお眼鏡に適った令嬢しかいないホール内。
今日は顔合わせのためにと全員集められているらしいけれど。この間のお茶会で似合わない宝石をごてごてと飾り付けていた令嬢や、濃すぎる化粧を施されていた令嬢、それに気が弱いのか泣いてしまっていた令嬢などは、どれだけ探しても見当たらなかった。
全員ちゃんと、自分に合うドレスを身にまとい。
マナーも一通りしっかりと身につけて。
真っ直ぐに背筋を伸ばして前を見つめていた。
(マシといえばマシだけど……果たしてこの中の一体何人が、最終日まで残るのか……)
与えられた期間は一か月。
その間にお城へ通うことを止めた者、辞退した者、その他続行不可能と判断された者。そのどれかに当てはまれば、即刻候補者から外される。
(私としては、ぜひ外してほしいところではあるけれど……)
正直、無理だろうなと思ってはいた。
なぜって?
だって我が家に届いた書類の中に、なぜか王太子殿下直筆の手紙が混ざっていたから。
そう、なぜかね。
しかもご丁寧に、お父様と私宛の二種類。
当然私宛の手紙は読めるけれど、お父様宛の手紙は読むことが出来なかった。
だからそこに何が書かれていたのかは分からないけれど。
一つだけ、言えるのは。
全ての令嬢に、そんなまめな事してないだろうなってこと…!!
確実に…!!確実に我が家だけにやってきてるよあの青王太子…!!
だから私は、その事を迂闊にこんな場所でしゃべるわけにはいかない。
何が何でも隠し通さなければ…!!
なんか手紙に『頑張ってね。会えるのを楽しみに待ってるよ』的なことが書かれていたような気がしないような気がするようなしないような気が……。
いや、気のせいだ。そうだ気のせいだ。
あんなものはなかった。初めから何も存在していなかった。
とはいえ、だ。
じゃあ実際に辞退を申し出たとして。それが通るかといえば。
おそらく、無理だろう。
それがどこで止められるかは分からないけれど、おそらく早い段階で握りつぶされてなかったことになる。
王家って、そういうの得意だからねー。
貴族の得意分野なんだから、それをまとめる人たちが出来ないわけないじゃんねー。
くっそぅ……。
なのでその方法は早々に諦めて、病気とかでどうだと思ったわけだけれど。
それはそれで、青王太子からなんやかんや理由をつけてお見舞いの品を大量に贈られてきそうで。
そしてそれこそが最有力候補の証だとか、向こうにとって都合のいい噂を流されるだろうことも容易に想像できたので。
これも、却下。
で、だ。
じゃあ何らかの理由で続行不可能とされるという、最後の手なんだけれども。
これに関しては、ねぇ……。
簡単に言えば、王家に相応しくないという烙印と同じ意味になる。
問題行動を起こした令嬢や、勉強について行けなくなった令嬢。そういう子たちが、こういうカテゴリに含まれるわけで。
流石にラヴィソン公爵の令嬢が、そんな烙印を押されるわけにはいかないのだ。
魔物化ルートは防げても、明らかに幸せは遠のくわけですよ。
なので。
私が取れる手段は、出来得る限り頑張るだけ。
やりすぎずやらなすぎず、でも時折そっと他の令嬢を助けて一人でも優秀な候補者を多く残すこと。
私から、なるべく視線をそらすために。
そしてそれが無理だったら、本当にヒロインに青王太子を押し付ける心づもりで。
保険があると思っておけば、心には余裕が生まれるはずだから。
たとえ失敗しても大丈夫って、そう思えるだけでだいぶ楽になるはずでしょ?
だから…………
だから……
「ラヴィソン公爵家の令嬢を筆頭に、ここにいる五名を最終候補とする」
私を筆頭にするの、本当にやめてええぇぇ!!!!!!!!
―――ちょっとしたあとがき―――
これにて第一章、幼少期編終了です!!
次回から第二章、令嬢編がスタートしますので、そちらも引き続きよろしくお願いします!!m(>_<m*))
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