第14話 最有力候補って何!?
「ローズ……私の可愛い可愛い愛娘……」
「はい、お父様」
「いいかい?心して、聞いておくれよ?」
「……はい…」
ようやく戻ってきたお父様と、二人馬車に揺られて邸へと戻る道すがら。真剣な顔をしてそう切り出すお父様の様子から、明らかに私にとって嬉しくない言葉が出てくるんだろうなと予想はできていたけれど。
「ローズがね…………フレゥ王太子殿下の、お妃候補に選ばれたんだよ」
「…………はい……?」
え、待って。
ホントに待って。
お父様、一体何を言っているの…?
私が……
王太子殿下の……
…………お妃候補ぉーー!?!?
ちょっ…、やだっ…!!
今すぐ辞退したいっ…!!
なのに…!!
なのにっ…!!!!
「しかも……ローズが最有力候補、だそうだよ…」
困ったような、疲れたような顔をしてそう言うお父様だけど……。
ちょ、待ってよ…!!
待って待って!!ホントに待って!!
最有力候補って何!?
っていうか…!!
なんでそんな魔物化ルートまっしぐらなの!?
「何でも、フレゥ殿下がローズの事をいたく気に入ってくださっているようでね」
マジで何してくれてんの!?あの青王太子いいぃぃ!!!!
「確かにこんなに可愛くて賢いローズを見て、気にならない男はいないかもしれないけれどね…」
お父様お父様、さりげなく親バカぶっこんで来るのやめてください。
今それどころじゃないんで。ツッコミ入れてる暇ないんで。
「だからって……だからって……!!なんで私の可愛い娘がお妃候補なんかに…!!」
あ……お父様の本音、それだったんですね。
よかった。私と一緒で。
「でしたら、その……辞退させていただいたりは…」
「それが出来たら、初めからそうしているよ」
ですよねー!!
「こんなにも可愛いローズを、この先お妃教育のために何度も城に連れていかなければならないなんて…!!そんなつらい思い、させたくはなかったのに…!!」
あー……やっぱり、お妃教育って大変なんだー。そっかー。
………………。
逃げたい。
いやもう、切実に逃げたい。
できればあの青王太子に二度と会わなくていい場所まで、このまま逃げてしまいたいんだけど。
それが出来たら苦労してないよねー!
我が家は公爵家だもんねー。王族には逆らえないよねー。
くっそぅ…!!
なんてことしてくれたんだよホントにあの青王太子め…!!
大体この最有力候補って、まんまゲームのローズの立ち位置じゃん!!
なんで!?一目惚れなんてしてないのになんでこの立ち位置に収まってんの!?
あれか!?ゲームからは逃げられないってか!?
逃げさせてくれよ!!私の命がかかってるんだよ!!
人一人の命よりも、ゲームの進行の方が重要だってか!?そういう事か!?
そうだよな!!ここ乙女ゲームの世界だもんな!!シナリオ狂わせるわけにはいかないもんな!!
こんちくしょーー!!!!
「はぁ…」
「はぁ…」
珍しくお父様と二人、ため息のタイミングがピッタリ合ってしまって。
二人して顔を見合わせて、でもどこかぎこちなく笑いあう。
こんな最悪な状況で、うふふあははなんて笑っていられない。
しかもこの先待ち受けるのは、王妃教育のつらさだけじゃない。
それ以上に私には、魔物化ルートという一番逃げなければいけないフラグが待ち受けているというのに。
どうしてこう、上手くいかないんだろうなぁ……。
ホント人生って、ままならないよねぇ……。
ちなみに。
お父様に色々と聞いた結果、私も初めて知ったことだったんだけど。
そもそも王妃教育というのは、この間のお茶会で王妃様の目に留まった将来有望な令嬢全員が一度は必ず受けるものらしくて。
そういう意味合いも含まれていたお茶会だったということを、目に留まった令嬢とその親だけは知らされるというシステムらしい。
だから自分の家を繫栄させたい貴族の間では、その事実が広まっていない、と。
なるほど、納得だわ。
そしてもちろん我が家からは、そんな人が出たことはなく。
だから知り得なかったわけだけれども。
こんなことで知りたくなかったなぁ……。
そしてもちろん一度は受けるというそれは、最初に選ばれる人数も半端じゃない。
一応あまりにも低い爵位の令嬢だと、やっぱりまともな教育を受けていないことも多いらしく。今回は男爵家からは一人も選ばれなかったらしいけれど。
それでも貴族の爵位は下から男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵となるわけで。
子爵以上の家の令嬢が、今どれだけいると思っているのか。
結果、全員の家にお城の優秀な教師を派遣するのは不可能だからという事で。
ある程度ふるいにかける意味も込めて、何人かと一緒に同じ教師から教育を受けるという事になるらしい。
その後最低限に絞られてから、ようやく相性も見極めたうえで各々の家にお城から家庭教師兼お目付け役として教師が派遣されるらしいけれども。
そんなことまでする必要、ある!?!?
正直それを聞いて私が最初に抱いた感想は、悲しいかなそれだった。
理由は分かる。
今後国のトップに立つ人間を、最も近くで支える伴侶選び。
惚れたのなんのという感情だけで選べるようなものではなく、当然その伴侶にも常識だけではなく知識や振る舞いが求められる。
だから仕方がない措置なんだって、分かってはいるけれども……。
何も私をその中の一人に選ばなくても良くない!?!?
私はただ、平和に過ごしたいだけなのに……。
どうしてこう、平和とは真逆に進んでいってしまうんだろう……。
何?悪役令嬢として転生した時点で、こういう事態に陥るのは決定事項だったってこと?
だとしたら私、将来確実に死んじゃうんですけど……。
っていうかその私を気に入ったとのたまう青王太子と、ヒロインに殺されるんですけどね?
あーあ……。
どうしたらこの先、そんな未来を回避できるんだろう……。
どうせ一目惚れなんてしてないんだし、いっそのことそのままヒロインに青王太子を押し付けてしまう……?
それもいいかもしれない。
どうせゲームに抗えないんだったら、いっそ本当にゲーム通りに進んでやって。
最後の最後で魔物化しなければいいんじゃない?
そうだよ…!!
シナリオ開始までは、どうやっても同じ状況にしかならないんだったら。
いっそ熨斗つけてヒロインに王太子を押し付けちゃえばいいんだ…!!
最悪の状況を告げられて、追い詰められた私が思いついたその策は。
誰もが幸せになれる最善手に思えていたんだ。
それこそが、大きな勘違いだったなんて。
この時の私は、知る由もないまま……
―――ちょっとだけ宣伝―――
別作品の『王弟殿下のお茶くみ係』がRenta!コミックス様より電子書籍として配信開始いたしました!
現在「1」「2」が公開中で、しかも「1」は無料ですので、ぜひ挿絵だけでも見てみて下さい!!(>ω<*)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます