第13話 ん…?あれ…?あれれ~?おっかし~ぞ~?

 結局あの後、何とかお茶会の会場に戻ることは出来たけれど。



 正直、周りの目が怖すぎたのと……精神の消耗が激しかったので、早々に帰らせていただきました。



 えぇ。

 私には無理でした。


 あれ以上あの場所にいるなんて、そんな拷問みたいなこと……。


 ただでさえ知らないお城の中を、この小さな体で歩かされて。さらに二重の緊張の中、王太子殿下の相手をさせられたら。

 流石にもう、色々と限界です。

 疲労困憊で、お母様の元へと戻りましたとも。




 でも!!



 これで一目惚れもしてないし、ちょっとしたアクシデントはあったけど、無事クリアしたはずだ!!



 と、思っていたんだ。


 そう、思っていたんだけど、ね…?




「お母様…?今、何と……?」

「この間のお茶会で、王太子殿下がローズと一緒にバラ園に行ったでしょう?その時にお約束したのではなくて?」

「え、っと……私の勝手な判断では答えられないのとお答えしましたので、特に約束をした覚えはありませんね……」

「そうなの?でもせっかく殿下がバラに興味を持ってくださったのだし、お言葉に甘えて行ってらっしゃいな」


 違う…!違うんですお母様…!!

 私は遠慮したのではなくて、お断りしたかったんです…!!


 なんてことを言えるほど、私は図太くないのだ。


 だって…!!お母様があまりにも嬉しそうだから…!!

 自分の事みたいに、本当に年齢を感じさせない少女のような表情で喜んでるから…!!

 水させないじゃん!?どう考えたってさぁ!?


 というか…!!


 王太子殿下何してくれてんの!?行動早すぎない!?なに先に両親に手紙とか送ってくれちゃってんの!?

 そして何さり気なく、約束した風にしてやがるんだ!!

 私は約束した覚えなんてないんだぞ!?勝手に決定事項にするなああぁぁ!!!!



 なのに……なのに……!!



「ねぇローズ、この香りの強い紫のバラはなんていう名前なの?」

「そちらはアヴニールという品種ですわ。花保ちがとても良いので、お部屋に飾ると長く楽しめるのです」


 ん…?あれ…?


「そうか、なるほど。それなら贈り物として花束にしても良さそうだね」

「そうですわね。フレゥ殿下に花を贈られて喜ばない令嬢はいないと思いますわ」


 あれれ~?おっかし~ぞ~?


 私、関わり合いにならないって決めたはずだったんだけどなぁ…?

 なのになんで今、目の前に王太子殿下がいて。

 しかも前にお願いされた通り、バラ園のバラの名前を教えつつ説明をして回ってるのか。



 コレガ、ワカラナイ。



 え、待って。

 ホントに待って。


 そもそもなんで私今、ここに連れてこられてるの…?


 そしてなぜ、前と同じように二人だけなの?


 一緒に来たはずのお父様は?

 護衛として常について回るはずの騎士たちは?

 どうしてここにいないの?


 ねぇ、ちょっと。

 誰か教えてよ…!!

 この状況、誰か説明してくれない!?



「ローズ?どうかしたの?」

「え、あ…いえ……これだけ見事に咲かせているのは凄いな、と…」


 そして目の前には油断ならない人物ですか!そうですか!!

 何の拷問だこれ!?私なんか悪いことしたか!?


 それとも何!?これからするってか!?

 余計なお世話だこんちくしょー!!!!


 こちとら悪役令嬢にならないように、必死に魔物化ルート回避する方法模索中だっつの!!

 それを何で邪魔してくるかなぁ!?

 王太子殿下とヒロインが恋仲になろうがどうでもいいから、私はとにかく関わり合いになりたくないの!!

 生きて幸せになりたいの!!


 なのに…!!

 なのにこの仕打ちって…!!


 酷い…ひどすぎるよ……。


 私はこの世界の神を呪えばいいのか?ん?呪えばいいのか?

 我が家の書庫に黒魔術とかの本がないか探せばいいのか?


「ちなみにローズはどのバラがお気に入りなの?」


 なんて。

 私が物騒なことを考えているとも知らずに、目の前の美少年こと王太子殿下はそれはもう無邪気ににこやかにそう聞いてくるから。

 答えないわけには、いかないわけで。


「そう、ですね…。私はあの、深い赤をしたビロード調のアマダという品種が一番のお気に入りです」

「あの赤バラか、なるほど……。深い色をしているから気品もあって、確かにローズにとても似合うね」


 ん…?あれ…?

 なんか今一瞬、今までと雰囲気が違ったような気がしたんだけど……気のせいかな…?


 似合うね、なんて言って笑った表情は、今まで通り目だけ笑ってなかったし。

 たぶん気のせいだよね、うん。気のせい気のせい。



 それよりも、私はこの場をどうやって切り抜ければいいのかを考えないとダメだよね…。


 って言っても、お父様が私をここに連れてきた以上、お父様が迎えに来るのを待たないといけないんだろうし。

 なんだかなぁ……。


 うちのお父様、昇進欲求とかは一切ない人なんだけどさぁ…。

 その分事なかれ主義なところもある人なんだよねぇ…。


 なんか、こう……今私の目の前にいる、年下の王太子殿下にすら丸め込まれちゃうんじゃないかって心配になるんだけど…。


 だって、さ…。

 そんなお父様だけど、私の事溺愛してるからね?

 本当に目に入れても痛くないってくらいの溺愛ぶり。


 にもかかわらず、だよ?


 こんなところで、男の子と二人きりにして。

 自分はどこかへ行っちゃうなんて、普通なら考えられないじゃない?

 たとえ相手が王太子殿下だとしても、だよ?


 でもこれが例えば……。

 そう、例えば。

 逆らえないくらい偉い人からのだったとしたら…?



 …………



 想像したくないけど、一番可能性として高いのはそれなんだよねぇ…。


 じゃあ、それは誰なんだって話なんだけど……。




 いやいやいやいや。

 目の前にその答えがいるんですけど!?

 どう考えたって、この青い王太子の親のどっちかもしくは両方だろうが!!



 ほんっと…!!


 ほんっと!!何してくれてんの!?


 確実にこの青王太子の仕業じゃん!?



 私の…!!


 私の平和な未来はどこだあああぁぁ!!!!




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