第12話 これに一目惚れとか、よくできたな!?

 それにしても、ゲームの中のローズわたしは……。



 これに一目惚れとか、よくできたな!?



 私だったら怖いし意味わからないしで、そんな場合じゃないよ。

 そもそも向こうから話しかけてきたのって、正しかったの?間違ってたの?


 少なくとも今日のお茶会で出会うことは、たぶん確定していたんだろう。

 王妃様の様子からしても、最初からそのつもりで開いたみたいだったし。



 ということは、だ。



 もしかしたら今のこの状況って、割と王妃様の狙い通りだったり、する……?



 …………。


 いやぁ~…まさか、ね…。



「ローズ嬢?どうしたの?」

「あ、いえ……とても丁寧な手入れがされているなと、見ていただけです」


 声をかけられて、咄嗟にそう返す。


 植込みの良し悪しなんて分からないけど、ここは王妃様のお気に入りのバラ園だってさっき王太子殿下も言ってたし。

 ってことは、当然最上級の手入れがされているはずだから。


 適当に答えたけど、まぁまず間違いはないはずだし。いいよね?


「庭師たちが頑張ってくれているからね」


 うん。どうやら大丈夫だったみたい。


 あー、あっぶなぁ……。


 ちょっと油断したら、この王太子殿下にはすぐに色々と見抜かれそうで。うかうか気を抜いてもいられない。

 少し考え事をしていただけでこうなんだから、本当に王族っていうのは凄い教育を色々と受けているんだろうな。


「ねぇ、ローズ嬢」

「はい?」

「バラの名前の件はひとまず置いておいて、もっと簡単なお願いをしてもいいかな?」

「え、っと……ちなみにそれは、どのような…?」


 あまり無茶なお願いとかされたら、流石に困る。


 っていうか、今でももう十分すぎるくらい困ってる。


 何なら今すぐ粗相を働いて、この人の前から下がりたいくらいには。



 それが出来たらなー。楽なんだけどなー。



 当然だけど、私たちは二人だけのように見えて本当はそうじゃない。

 見えない位置で、遠くで、王太子殿下を護衛している騎士たちがこちらや周囲に警戒を向けているはずだから。


 そんな中で、いくらまだ幼いとはいえ公爵家の令嬢が王太子殿下に対して粗相なんて。



 出来るわけがないでしょう!?普通に考えて!!


 これで我が家に何かあったらどうすんの!?



 実は私には兄が一人いるんだけれど。

 社交界デビューはまだ先とはいえ、貴族社会は大の噂好き。

 私の事が知れ渡って、それがお兄様のデビューの時まで響いてしまったらと考えたら……。


 お…恐ろしすぎて何もできない……。


 だから私はただ大人しく、王太子殿下が解放してくれるまで彼に付き合わなければならないわけだ。

 本来だったら、今すぐにでも裸足で逃げ出したいのを我慢しながらな…!!



 なのにこれ以上何の要求があると言うのか。

 いい加減本当に、私を家に帰してくれよ……はぁ……。


「簡単なことだよ。単純に、君に名前を呼んで欲しいんだ」

「名前、ですか…?」

「そう、名前。呼んで欲しいし、私も君を名前で呼びたい」

「え、っと……」



 さっきから名前、呼ばれまくってますけど…?



 なんて、言えるわけないよ?

 もちろん言えるわけないんだけどね?


 それ以上に、さ。



 名前呼べって、あんた何無茶な事言い出してんの!?!?



 なに?何なのこの美少年!!

 自分の言ってる言葉の意味、ちゃんと分かって言ってんの!?


 一介の令嬢に、王太子殿下自ら名前を呼べって…!!

 それもうお気に入りですって宣言してるようなもんなんだよ!?分かってる!?ねぇ!?分かってるのかな!?!?


「それくらいなら、両親の許可なんて必要ないでしょう?ねぇ、いいでしょ?」

「そ、れは……その……」

「私に、ローズと呼ぶ資格をちょうだい?」

「そ…それでしたら、構いません、が……」


 ちょっと、待って……。


 なんで一歩ずつ、ちょっとずつ、近づいてくるの…?



 っていうか!!


 だからその笑顔が怖いっつーの!!!!


 目!!目が笑ってない!!


 なんかギラギラしてる!!明らかに獲物に狙いを定めた肉食獣の目だってそれ!!


 何!?私今、何かの政治的戦略に巻き込まれそうになってる!?

 ねぇ!?そういうこと!?私何かに利用されそうになってるのかな!?



「じゃあ私の名前も呼んで?」

「そ、それはさすがに……恐れ多く、て…」

「ねぇ…ローズ……?」

「ッ…!?!?」


 あんた今何歳だよ!?

 なんでそんな色っぽい吐息交じりの声で、耳元で名前呼ぶの!?

 今!!この場面で!!


 ときめきよりも違うドキドキが襲ってきてるわ!!怖いわ!!

 心臓に悪すぎる!!何この王太子殿下!!


「ねぇローズ……呼んでよ…」

「ぁ……そ、の……」

「ねぇ……お願い……」

「ぁっ、ぅ…………ふ……フレゥ、殿下……」



 逆らえるかああぁぁ!!!!


 ここで逆らったらどうなるの!?

 私がというか、我が家が!!

 どうなるっていうの!?!?


 怖すぎる…!!

 何この王太子殿下…!!



 ちょっと……ほんっと、マジで…!!


 ゲームのローズ、よくこれに一目惚れとかできたよなぁ!?ほんっとにさぁ!!



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