第74話 闇の世界での攻防4

 力の温存を考えた作戦を捨て、今この場で全力を出した刀使い二人と執事姿の男。

「抗って死ぬか、惨めに死ぬか。それくらいの選択肢は与えましょう。好きな方を選びなさい」

 白仮面の部下は、対峙した瞬間に勝てないと悟ってしまった。自分達の実力では相手の限界が測れないのだ。戦えば確実に死ぬ。そして、残った全員が命を賭しても、目の前の三人を殺せる可能性は低い。

「フッ」

 それでも白仮面の部下は笑った。だって、そうだ。敬愛する主のためにこの命を使えるのだ。これ以上の喜びは無いだろう。

「この命、白仮面様のために!」

 故に狂喜的な笑みを浮かべて、僅かな躊躇も見せずに死地に飛び込んでいく。


⚪️


「ぐ、がぁっ。し、しろかめ、ん、さま」

 腕を切り飛ばされ、目を潰され、片足を矢で射られ、しかしまだ動きを止めない暗殺者が足を引き摺って刀使いへと距離を詰める。

「いい加減死ね!」

 鋭い一太刀が暗殺者に深い一撃を刻む。それは人間である限り免れることの出来ぬ致命傷なのだが、血走った目で刀使いを睨む暗殺者は止まらない。

「し、しろ、かめ」

 限界を越えて、尚も足が前に進む。多量の出血によって失明したのだろう。残った腕を前に伸ばし前方を探るようにして、何とか敵を殺そうとしている。

「終わりだ」

 もう一人の刀使いが暗殺者の軸足を切り飛ばし、倒れたところで首筋に刀を突き立てる。

「じ、ろぁ、が、め―――あぁ」

「こいつらは、本当に人間なのか?」

 最期の瞬間まで忠義を示す敵を見下ろして、刀使いは顔を歪めた。自分とて揺らがぬ忠誠心をシリウス侯爵へ向けているが、だからといって人を辞められるかと言えば答えは否だ。つまりこの暗殺者は、自分がシリウス侯爵を信ずるよりも強く、白仮面を信じているということ。

 ―――それが最低でも十数人。執事と刀使いに殺された暗殺者たちは、全員が全員凄惨な最期を遂げていた。きれいな遺体など一つとして無い。手足が切り飛ばされているなど当たり前、内臓が飛び出し、脳髄を破壊され、壊して壊して壊し尽くして、ようやく機能停止したのだ。

「化け物めっ」

 多くの死をもたらしてきたシリウス子飼いの暗殺者ですら、目を背けたくなってしまう。

「だが、狂っていても所詮は人間。壊せばこの様―――」

「ディート!!」

 突如もう一人の刀使いが仲間の名前を叫んだ。

「は?お前―――」

 暗殺者は真名を伏せるもの。誰よりもそれを知っている暗殺者が、なぜ味方の名前を敵地で口にするのか。咎めようと振り返り―――それが刀使い、ディートの最後だった。

「じろがめんざまぁぁぁぁあ!!」

 片足だけでガバッと起き上がった白仮面の部下がディートにしがみつき、素早く首の頸動脈を噛み千切る。

「ぐああああああ!?」

 首から噴水のように血を吹き出し、ディートは暗殺者と共に崩れ落ちた。

「がっ、は、ぶは、はばばばばっ!!じろがめ」

「貴様っ!!」

 もう一人の刀使いに頭部を貫かれ、今度こそ暗殺者は息絶えた。が、刀使いは念のためにもう一度刀を突き込む。そしえそれはこの一人に対してだけではない。十数人全員に対して、もう一度致命傷を与えていった。

「フェリクス殿、あとどれくらいで解除が終わりますか?」

 一人で暗殺者数人を殺し、その上でフェリクスを守り切った執事が問う。

「あと一個で終わるから、もうちょっとだけ待ってろって―――ああ!?ここの回路イカれてんだろ!?何をどうすればこんなうぜぇ仕組みになんだよ!」

 グダグダと文句を言いながらも的確に解除を進めていくフェリクス。それから数分後、ようやく細道に張られていた罠の解除が完了した。

「よし、んじゃ先行きますか」

「私が前衛を勤めます。フェリクス殿は背後の警戒をお願いします」

「分かったよ」

 消耗しているのはこちらも同じ。三人も味方を殺されたのだ。しかも残った二人も全力を出したために息が上がっている。

 近付く白仮面との邂逅の時。予定とはだいぶ異なる展開に、フェリクスは不安を隠せなかった。

 




 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る