第4話「お姉さんを家にあげる(編集しました7/7)」


「あ、ちょっと——待っててくれるか?」


 2階の端の一室。

 222号室の前で立ち止り彼女にそう言った。


 帰る途中で思い出したが俺の部屋は本当に汚いのだ。


 いくら受け入れてくれるからと言ってあんな汚い部屋に女の子を上がらせるわけではない。


 だいたい、今朝やった時のティッシュだってゴミ箱に入ってるし、普段からあまり料理をしないので生ゴミも捨てずにそのままになっている。


 どうせ明日が燃えるゴミの日なのでゴミ捨て場に捨てに行きたい。このくらいなら大家さんも怒らないだろうし、何より変な匂いでもしたら最悪だ。


 せっかく舞い降りたチャンスを無駄にするわけにはいかない。声掛ける勇気すらなかった俺に話しかけてくれたんだからな、あんなでも一応。


 誠意は見せるべきだろう。


 それに、パジャマで来ているジャージも散乱してるし、シナリオの参考で読ませた頂いている漫画や小説も本棚に仕舞わずに机やベット横におきっぱになっている。極めつけには掃除機もかれこれ二週間ほどかけていない。最近は足裏にほこりがつくのが気になっていた。


 ほんと、一人暮らしなんてするなってくらい生活力ないな俺。


「——ごめん、いいか?」


 手で静止させると彼女は「大丈夫です」と軽く会釈する。

 さりげない表情が美しい。

 本当に俺が持ち帰ってよかったのか?


 疑問が募るがここまで来てくれている以上、下手真似はできないしとりあえず片付けよう。


「じゅ、じゅっぷん……多分10分で終わるから!」


 そう言ってガバッと扉を開けて、初めて本気で掃除をする。


 

「————っと、その前にさすがに立たせるのはあれだから玄関で座っててくれ!」


 と一緒に中に入れて、廊下の扉を閉めてこちら側を見えないようにした。


 とにかく散らかっている本類は本棚に頬り込み、散らかっているゴミはなんでもかんでもゴミ袋へ。


 少し臭かったのが気になったが残り少ないリセ〇シュをドバドバかけまくり、ロフトの布団を綺麗に畳んで、服はすべてハンガーにかけてクローゼットへ。シンクも軽く磨いて実にちょうど10分。


 もしかしたら帰っているんじゃないのかなと不安になったが、玄関に行くと律儀に彼女は待っていた。シンプルで着飾っていないケースを付けているスマホを開いてポチポチと何かを打ち込んでいた。


「っはぁ……っはぁ……」


 息切れで何も発せないでいると、彼女は振り向いて首を傾げながら訊ねる。


「終わりましたか?」


「————は、はいっ!!」


 思わず、裏返った声が出る。

 すると、彼女はクスリと笑った。


「……可愛いですね」


「っぐ……」


 あなたには言われたくはない。

 俺はそう思いながら、狼狽える。


「……では、上がらせていただきますね。私、お持ち帰りされているわけですしっ」


 いたずらな笑み。

 余計に恥ずかしくなって、再びグッと声が漏れた。


「……か、揶揄うのはやめてくださいっ」


「あははは……ついつい、可愛くて」


「そういうのをですよっ。お、俺だって別にしたくてしたわけではっ……」


「違うんですか? 私の事、お持ち帰りしたくなかったですか?」


「いや、違うけど」


「私みたいな人に家にお邪魔されるのは嫌ですか?」


「そんなことありませんっ‼‼」


 むしろウェルカム。

 ――――と言いたいところだが、「されたい」と「される」じゃ話が違うのだ。


「でも、やっぱり本当にされるのはやっぱり違うっていうか……」


「そうなんですか?」


「そ、そりゃ……俺なんて経験もないですし」


「私もないですよ?」


「え……まじですか?」


「マジですマジです、大マジです」


 いや急に何でこんな乗ってきたんだ。

 まぁ、綺麗だし可愛いからいいんだけどさ。


「……初めて同士ってわけですか」


「処女と童貞ですね」


「じょっ——⁉ ちょ、さすがに……俺はまだそういうことはっ……」


「何もしませんから安心してください……それに、私的にはあなたにリードしてもらいたいですしっ」


「……?」


 言葉が出ない。


「……駄目ですか?」


「——駄目な訳ございません!」


「えへへ……いずれ、お願いしますね?」


「は、はいっ!」


 年上をリードして良いのかと思うが、彼女がそう言うのなら——頑張れるだけ頑張ろう。


 それに、彼女には色々と聞きたいことがあるし……とりあえず、色々と落ち着かせようか。

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