第6話 屍食鬼 後

ルーピー家の墓に着く。2人で痕跡を探すと、モーリッツの靴が落ちていた。

「こんなものも見つけたよ!」

ミランダが持って来たのは、足だった。膝から下、女性だと思われる。

「教え:観測:説明書」を使うと、サミフの家で揉めていた女性ジャーナリストだと分かった。殺されたのかな。


「どうも、肉が無いと霧は出ないんだな。これも、柔らかい所は食われているし」

『勘』がここは、遠回りなようでもサミフの家を家探ししろと告げている。

「………という感じなんだが、おまえの『勘』も同じか?」

「これって『勘』っていうより『予感』だよねー。一緒だよ。でも肉は惜しかったね、さっきの目撃者、肉として使えたかもだったのに」

「どこの誰か調べて、問題なければだけどな。まあ、それもサミフの家で解決しそうな気がするし、横に置いといてサミフの家?に行くぞ」


サミフの家?に到着した。分かってはいるんだが、どうもここは家っぽくない。

気配がないから、少なくとも生きた人間はいないのが分かる。

あと、魔法でカギがかかってるが、解いて入れる………『勘』でもそれでOKだ。

「よし、解除した。埃が凄いから、滑るなよミランダ」

「それぐらい平気だよ、うっわ、何この絵!きもっ!」


電気がないのは障害にならないが、絵は確かに一際不気味に見えるよな。

俺達は、手分けして何かないか探す事にした。お互いに『勘』頼りである。

俺は、台所に入った。ゴミをまとめた袋から血臭がするのだ。

中をかき回してギョッとした。いきなり生首と対面したからである。

それぐらいでは驚かないはずが、邪神絡みだと驚いてしまう。


「ねーこっち、同族の内臓とかがぶちまけられてるよ」

「こっちは生首だ。サミフと揉めてたジャーナリストの女の人だな」

「こっち、勿体ないよ。食用にできる所、まだまだあるもん」

「ああ、ならそれを使って「呼び出す」か?」

「それで行けそうな感じだね」

「後は何もなさそうだな………」


俺達は、内臓(腸以外)をポリ袋に詰め、ルーピー家の墓に戻った。

墓全体に満遍なく内臓を撒いておく。

―――霧が、出始めた。

俺達は適当な場所に隠れ、状況を見ている。


墓が動いた。動いた形跡すらなかった墓が、滑らかに。

そこから、「卑しい犬のような顔」をした、「皮膚がゴムっぽい」怪物が現れた。

目撃者の言っていた通りの光景である。

モーリッツの靴があったところに近い墓に『無属性魔法:インビジビリティ』で透明化して侵入する。すんなり侵入できた。


入った先は、驚くほど広いドーム型の空間だった。

ぎしっ!空間がきしんだ。何かの装置でここが制限空間になったのだ。

侵入がバレたらしい。急いでモーリッツを探さなければ。

「雷鳴、あっちにいるような気がしない?」

する。そっちは大きな亀裂が入っている方向だ、崖になっている。

その淵まで行き、呼びかける。


「モーリッツ!」

「先輩、こっちです!来てくれたんですね!」

モーリッツは、崖の途中の岩棚にいた。横には生肉が山と積まれた銀盆がある。

絵の再現のためか、モーリッツは全裸である。


モーリッツを探し当てると同時に、暗がりから何か出て来た………ボロボロの貴族服を着た「犬のような顔をした怪物―――もう屍食鬼でいいだろう―――だ」


「ミランダ、あいつらは俺が引き受けるから、モーリッツを頼む」

「了解、剛力は多少使えるから、背負って登攀ぐらいはできるよ」

ミランダにモーリッツを任せ、俺は戦闘―――足止めに専念する。

モーリッツが「あいつらが同族喰いしろって、肉を押し付けて来たんだ」と言っているのが聞こえて来た。屍食鬼を作る気だったのか?


戦局は俺が多少有利だ。相手の怪力と鋭いカギ爪は脅威だが、俺には『教え』がある。『教え』は制限空間でも有効だ。

3体もいるが、全面戦争は今後を考えるとゴメンだ。

手加減の為に逆に全力を出すか―――。

『剛力10』『瞬足10』『頑健10』

戦局はワンサイドゲームになった。勿論俺が押す側だ。


ミランダはかなり素早く上がって来た。

俺の戦闘を見て、目を丸くしている。そんな場合じゃない。

気配からして、ここにはまだまだ屍食鬼が居る、逃げるが勝ちだ。

「走るぞ、ミランダ!」

「うんっ!」


逃げる間中、闇の中から笑い声がした。

その中にはサミフの声もあった。

「現世に嫌気がさしたら、いつでも歓迎するから戻っておいで………」

クスクス、あははは………


俺は―――途中から俺はミランダとモーリッツ両名を抱えている―――墓地から矢のように飛び出した。不穏な気配は、綺麗に無くなっていた。

制限空間は墓だけだったらしく、外では解除されていたので、魔法でモーリッツに服を着せる。裸のまま帰るのは嫌だろう。


「悪かったな、モーリッツ。俺がもうちょっと早く気付いてたら………」

「何言ってるんですか先輩、見破られたのがショックです!」

「それはお前のコントロールが切れたからだろう」

「制限空間って嫌いです。普通の解放空間なら自分で………」

「それは無理だ。あそこには最低でも100体ぐらい奴らが居たと思う」


「私もそう思う。雷鳴が手加減していたから、向こうも遊び感覚だったんだよ」

「うん………変な因縁を作ったら、逆に兄ちゃんの迷惑になるしね」

「兄ちゃん?先輩はシュトルム家の唯一の生き残りでは?」

「ああ、養母のことを姉ちゃんって呼んでるから、義理の父親は兄ちゃんなんだ」

「紅龍殿下の事なんですか?!怒られません?」

「呆れられたよ」


ロート殿の屋敷が見えてきたので、2人を降ろし、歩きながらの会話である。

もう、本来なら子供達を寝かしつけないといけない時間だ。

もう少しスケジュールは残っているのである。


モーリッツが帰ってくるまで、子供たちは起きて待っていた。

歓迎やからかいを受けるモーリッツは憮然としていたが、一応礼は言っていた。


次の日(最終日)


朝ごはんを食べ終わり、ロート殿に「ありがとうございました!」と挨拶する。

最終日に行くところはペンギンさん達の領地である。


今、魔界は3月ぐらいの気候だ。

だが、真冬期に勢力を伸ばしたペンギンさん達は、その魔力で氷を作り出し、変わらぬ勢力を誇っている。魔帝陛下が、外見を気に入ったことも大きい。

要は、「可愛いは正義」状態である。

その外見を生かし、海魔領での観光のメッカとなっている。子供たちも来た事があるかもしれない。ちなみに魔界で生き残っているだけあって、可愛いだけでなく強い。


観光に来た俺達を、ペンギンさん達がペンギン歩きパレードで迎えてくれた。

その後は、ペンギンチョップで岩を割るパフォーマンス。

そして、巨大なモンスターが水面に飛び上がったところを、ペンギンチョップで仕留めて見せる。すげえな、結構強いぞあのモンスター。


他にはフライング・ペンギン。つるつるに磨かれた氷の坂を、腹で下って最後の上昇用の坂を使って飛び上がる。

その他様々な芸があった。みんな満足して帰路につく。


総合的には、いい旅行だったのではないだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る