第52話(エドワードside)掌の上
とんでもないことになった……
ものの数分の間にワシの屋敷が廃墟と化してしまった。
建物の損害もだが、投機対象として購入した美術品の類や契約書や手形、脱税のため保管していた現金までも吹っ飛んでしまった。
普通にやれば立て直しにどれだけの時間がかかるのやら……だが!
「ワシは負けーーーーん!! この逆境すら糧にして今まで以上に稼いでやるぞ!!」
「試算しましたが、本件での損害は127億とんで287万4500リピアにございます。これに加えて商会の機能停止による契約の不履行、機会損失が————」
「やかましい!! 計算している暇があれば瓦礫の片付けでもしていろ!! 金目のものは全部回収だ!!」
無表情で算盤を弾き続けるロックをどやしつける。
しかし、ヤツは特に気にした様子もなく、逆にワシに問いかける。
「あの車両はなんだったのでしょうか? ご存知ですか?」
「知るか! 死神か疫病神の類ではないのか!? くそっ! シンシアを失ってから悪いことばかり続く! アレさえ手に入れておけば今頃莫大な利益を————」
待てよ?
オルガが隠した魔術資材……たしか、カタリストとかいうものだったな。
たしかシンシアの調査資料の中にも出てきた言葉…………まさか!?
「ロック! シンシアが生きている可能性を算出しろ!」
「既に解を得ています。89.23%(小数点第三位以下切り捨て)です。オルガマリーの調書はデタラメだった……いえ、こちらを謀るものでしょう。続けてもう一つの計算を行います」
目にも止まらぬ速度で算盤を弾き続けるロック。
扱いにくい男だが、こやつの【運命】はワシの知る限り最高の加護を授かっている。
凡人には算盤など金勘定くらいにしか役に立たんが此奴は計算によってありとあらゆるものの解を得ることができる。
運命の名は『天地解明成し遂げし俊英』。
市場の動きは勿論、天変地異の可能性さえ読み解く。
未来予知と言ってもいい。
「出ました。シンシアはあの車両に乗っていた確率86.33%。またあの車両に乗っていた者と関係がある場所にいる確率が99.6%です」
「素晴らしい!! ロック!! 貴様がいればオルガなど這い回るだけの駄犬も同然だ!!」
運はまだ残っている!
シンシアを捕まえ、財宝を吐き出させるのだ!
拷問用に雇ったヨランが使い物にならなくなったが構わん!
世間知らずの小娘など少し嬲ってやれば————
「残念ですが、そこまで付き合う義理はありません」
「え————へぶっ!!」
ロックが算盤をワシの顔に叩きつけた。
驚いたことに算盤の玉は鋭利な金属だったようでワシの顔は肉が抉れ皮が剥がれた。
「な……何を……」
「あなたにはガッカリだ。ほぼ手中に入れていた『石』を取りこぼすなんて……せっかく情報を与えてやったというのにこの体たらく。勇爵に嗅ぎつけられてあまり派手な動きはできない。その上、別の摂理の元にある者まで呼び寄せてしまった。これ以上あなたと組んで『石』を奪還しようとしても、手に入れられる確率は二割に満たない」
ゴリゴリッ! 頭蓋の骨が削られる音が伝導して脳内に響く。
あまりの痛みに耐えきれず地面に倒れた。
薄れゆく意識の中でロックの声が聴こえる。
見えなくとも恍惚の表情を浮かべているのが分かるほど悦に浸った声。
「嗚呼……やはり人間などダメだ。神の奇跡であるアレを俗事にしか活用できない。やはり、人間はいとしき方々の管理統制があって初めて幸福になれる!」
いとしき方々……オーバーロード……人間の上位存在とされる魔性の怪物たちのことをそう崇める者どもがいるとは知っていた。
だが、まさか身内にいたとは……
どうやら……ワシも……使い捨ての駒の一つだったと————————
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