第12話(猟犬side)授かりし運命に従って

 私は目撃者であるゴロツキどもを連れてシンシア嬢が襲われた現場に来ていた。

 人間とモンスターの死骸がそこらじゅうに散らばっている。

 で、ゴロツキどもの証言通り、逃げていく馬の足跡を見つけ追跡を開始する。

 雨も降ったらしく痕跡はほとんど残っていない。

 私でなければ見落としてしまうところだろうな。



 途中、シンシア嬢が馬に振り落とされたと思われる跡があり、そこから馬の足跡と人の足跡が分かれている。

 追うのは当然、人の足跡。

 ふらつき具合から体力が尽きかけているのが見て分かる。そう遠くはない。


 それからほどなくして足跡は岩場の洞窟に辿り着いた。

 運の強いお嬢様だ。

 ここならば雨風は凌げるし、モンスターもあまり棲息していない。

 もっとも、訓練を受けているわけでもないお嬢様が何日も飲まず食わずで無事にいられるか……


「誰もいねえぞっ!」


 先に洞窟の中に進ませたゴロツキどもが声を上げた。

 追って入るとたしかにもぬけの殻だ。

 しかし、ほんの数日前まで人がいた痕跡は残っている……ん?


「ちっくしょう! あのアマどこ行きやがったんだ!」

「見つけねえとこっちの命がねえってのに!」

「いっそ逃げちまおうぜ……」


 ガタガタと騒ぐゴロツキどもに私は苛立ち声を荒げる。


「やかましい!! 黙ってじっとしていろ!!」


 すると奴らはニヤついた顔でこちらに詰め寄る。


「おいおい調子に乗るなよ、オルガさんよぉ! 三対一で勝てると思ってんのか!?」

「丸腰で俺たちを抑えられると思うなよ。すっかり油断しやがって……こんな人気のないところに連れ込むなんて誘ってやがんのか?」


 男たちの目の色が変わった。

 極度のストレス下で自分達に都合のいいシチュエーションが訪れたものだから見境無くなっているのだろう。

 こんな男もののジャケットやシャツを纏った女に発情するなんてな。


「騒ぐなと言っただろう。痕跡がなくなる」

「うるせえっ! どうせ見つかりっこねえさ! 今頃モンスターどもの腹の中だ!」


 ゴロツキの一人が怒鳴って私の肩に手を掛けた。


「手を離せ。仕事の邪魔をするな、ゴロツキ」

「へっ、ゴロツキゴロツキとお前らはバカにするけどこちとられっきとした冒険者で————」


 プシュっ。


 空気の抜けるような音がゴロツキの首からからした。

 私の暗器である髪に仕込んだ針で延髄を貫き引き抜いた音だ。


「まったく……最近の冒険者の質の低下は嘆かわしいな。腕も悪くて素行も悪いのなら生かしておく理由がなくなってしまったよ」


 仲間が死んだことで自分達の危機を感じた残りの二人はバタバタと逃げ出す。


「現場を荒らすなと、言ってるだろう!!」


 抜いた髪針をヒュッと二人に投げつける。

 頭蓋を貫き脳に突き刺さった針は瞬時に二人の命を奪い去った。


 そんなことよりこの足跡だ。

 歩幅からして170〜180センチの男……おそらく戦士の類ではない。

 シンシア嬢が外に向かう足跡はないが、この男が外に向かう足跡はある。

 土の沈み具合からしてシンシア嬢を抱いて外に出たか!


 男の足跡を追うと、それは途切れ、代わりに二列の直線の動線が彼方に向かっている。

 おそらく車輪だろうが……なんだこの跡は?


 地面の平たい石が割れていないことから柔らかい素材を使っているのだろうがとんでもない重量、喩えるなら家が丸ごと動いているみたいなものだ。

 それ以上に不可解なのは馬の足跡が見当たらないこと。

 こんな重量を運ぼうと思えば馬が十頭は必要だろうに一体どうやって…………


 ウズウズと好奇心が湧き上がってくるのを感じた。


 コイツは私が本気を出すに値する獲物だ。

 一線を退き、安寧を求めグレゴリー家に仕えるようになったがこんな謎を与えられれば解き明かしたくなる。

 追い詰めたくなる。


『地の果てまでも駆ける猟犬』


 私に与えられた【運命】の力を以て、シンシア嬢を連れ去った輩をとっ捕まえてやる!

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