第10話 チキンラーメンと目的地

「チュルチュル……ん〜〜っ!! チキンラーメンというもの! うんまいですわ! チュルチュル……」

「シンシアさん。ラーメンは音立てて食べていいんだよ。こんなふうに……ズ、バババッバッバ! ジュブブブ!」

「まぁっ! お下品ですわっ!」

「でも美味そうだろ。やってみ」

「……耳を塞いでくださいまし。ズ……ズブブブブジュバババババババ!! うーーーっ♡ ああ♡ おいし♡ 勢いよく食べることで口の中に麺だけでなくスープも含むことができる! 味はもちろん、喉越しが段違いですわっ!!」


 エルドランダーのキャビンにて、俺とシンシアはチキンラーメンを食べている。

 しかも卵も載せた。

 薄い白身の皮が破れるとトロッとした黄身が流れ麺に絡む。

 ご機嫌な昼食だ。

 ケチケチしてもさもしくなるだけなので食糧に関しては出し惜しみしないようにしようとどんどん食べる方針だ。


「このままだと私、肥えた牛のようになってしまうのではないかしら?」

「女の子はちょっとポッチャリしているくらいが可愛いから問題ない」

「かわっ……!! もーーう!! アンゴさんはお上手でございますわねっ! 女たらしですわっ!」

 ペチン、ペチンと俺の二の腕を叩くシンシア。

 体に触れるくらい気を許してもらっているようで何よりだ。



 さて、俺たちはエルドランダーに乗って東に向かっている。

 ここから馬車で五日かかる距離にシンシアの実家のある街があるという。



二時間前————


「アンゴさん、この馬なし馬車凄いですわね。馬よりずっと速い上に同じ速さで何時間も走れるなんて」

「まあな。とはいえ、それもいつまで続くか怪しいところだけど」

「そうなんですの?」

「コイツは軽油っていう油を爆発させて、そのエネルギーで走っているんだ。だからその油が尽きれば動かなくなる」

「た、大変じゃございませんこと?! こんな平原に放り出されては」

「大丈夫。あと400キロは走れるから。それまでに人里に辿り着ければなんとかなる。はずだ。こっちの世界……じゃなくて、この国で価値の有りそうな物も持っているしそれを売れば金は作れると思う」


 タネ銭さえあれば、上手く金をあつめる方法はある。ねずみ講とか賭け事のノミ行為とか。


「はず、とか思う、とか不確定要素を計画に組み込むのは大惨事の元でしてよ」

「……へえ、案外真理を突くじゃないか」

「これでもローゼンハイム家の者ですからね。先代であるお父様は国一番の錬金術師としても知られており、私も小さな頃から工房を出入りして」

「ちょっと待って。今なんだって?」


 シンシアの口からとんでもない言葉が出た。


「お父様は国一番の錬金術師で工房があって」

「それだ! 錬金術師ということは特殊な薬品や実験器具を取り揃えていたんじゃないか!?」


 錬金術はファンタジーと現実の交差点とも言える学術体系。

 科学と魔術の間にあるこの学問は決して荒唐無稽なものばかりではなく、科学的なアプローチも行われているものだ。

 俺は食い入るようにシンシアに迫る。

 彼女は少し怯みながらも、胸を張って答える。


「そ、それはもう! 錬金術は金食い虫の学問ですから! そもそもローゼンハイム家は錬金術の功績により爵位を頂いた学者の家系! 領地経営は不得手でございましたのよ……お父様はさまざまな功績を上げていたのでそちらで面目が立っていたのですが、その息子たちが非才極まれりだったので権威を失い、領地経営の実権を持っていた子爵家の連中に取って変わられてしまったわけで」


 シンシアがお家事情を語り始めたがそれはどうでもいい。


「苛性ソーダとメタノールは工房にあるか?」

「国内で使用できる薬品の類は一通り揃っているはずですわ。ご所望ですの?」

「ああ、それがあれば菜種油と合わせてバイオエタノールが作れて車が動かせる。安定供給できる量があれば移動だけでなく電気も使い放題だ!」


 ようやく、この世界に来て明確な目的地ができた。

 しかも最大の懸念だったエルドランダーの燃料問題を解決する糸口なのだから気持ちが逸るのを抑えきれなかった。





 異世界ファンタジーなら馬車で何日もかかる距離を旅すればいくつも戦闘を乗り越えたり、仲間との関係が深まったりするんだろうけど、エルドランダーがある俺の旅はただの移動だ。

 時々、モンスターに捕捉される事はあったが時速200キロ近くで走ればチギるのは難しくない。

 ものの数時間でシンシアの実家のある街に辿り着いた。

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