第17話 悲しきNTR♥︎



 有沢は片手で沙織の両手首をつかんで持ちあげ、白い姿体をのけぞらせる。やぶれた服から裸の胸があらわになった。やつはその胸をあいたほうの片手でわしづかみにする。


「やめ……ろ……」

「おっと、くたばりぞこないは黙ってみてろよ。あわてなくても、どうせ、すぐに殺してやるんだからよ」


 クソ……なんにもできない。それどころか、めまいがさらにひどくなる。天井がグルグルまわって、有沢の顔もまともに見れない。


 半分、失いそうな意識のなかで、おれはを見てた。

 八乙女さんが……が、有沢のやつになぶられるところを。

 嫌がりながらも、しだいに頬が赤くなり、声が甘くなっていく。

 有沢はさんざんゴム毬みたいな丸い胸をもてあそんだあと、沙織のスカートのなかに手をつっこんだ。下着がひきちぎられて、ハラリと床に落ちる。


 沙織の声がひときわ高くなる。あいつがスカートのなかで何をしてるのか想像がつく。そのまま、有沢は沙織を……。


 おれは心のなかでやつを罵った。殺す、殺してやると何度も叫んだ。でも、その声すら、かすれて出ない。


 泣きながら身悶える沙織。でも、床にしたたり落ちるのは、涙だけじゃない。隠せない喜びに、沙織はゆすぶられる。


 クソッ。おれ、バカだ。

 こんなことになって、やっと気づいた。


 おれ、やっぱり、好きなんだ。だまされたとか、裏切られたとか、たけど、ほんとはやっぱり、沙織が好きだ。沙織でなきゃダメなんだって。


 八乙女さんと同じ笑顔を見せてくれるのは、沙織だけ。いや、八乙女さんは死んでしまった。でも、この世界で献身的におれにつくしてくれたのは、彼女沙織なんだって。


 なんで、こんなことにならないとわからないんだよ?

 おれのバカ! おれのバカ! おれのバカ!


 有沢のやつ。ゆるさない。

 クソッ、よくもおれの……おれの沙織を!


 怒りは頂点に達する。でも、あいかわらず体は動かない。

 事を終えたあいつが、沙織の手を離した。ペタンと床に沈む沙織。


 有沢は下着のなかに自分のそれを押しこみながら、近づいてきた。冷酷な目と裏腹のいびつな笑み。今度こそ、おれを殺すつもりだ。一歩ずつ、おれの恐怖を味わいながらやってくる。


 その瞬間だった。


「逃げて! 玲音くん!」


 百合だ。あれほどヒドイこと言って追放しようとしたこのおれを、百合はかばって、有沢にしがみついた。


「離せよ。なんだ、てめぇ! ホールダーが戦えもしねぇくせに、ウゼェんだよ! ぶっ殺すぞ」

「何してるの! 早く逃げてェー!」


 ホールダーは戦えない。けど、物理的に相手をひきとめる筋力は数値ぶんあるようだ。有沢の足が止まる。百合はなぐられながら、けんめいにしがみついてる。


 そのすきに、九尾がおれのもとへやってきた。耳元でささやく。


「玲音。わらわのスキルを使うのじゃ」

「スキ……ル?」

「時止めのスキルじゃ。『時よ止まれ』と言うがよい」

「時、よ……止まれ……」


 意識がとびそうになるギリギリだった。九尾に言われるがまま復唱したとたんだ。有沢とそのホールダーたちの動きが止まった。


「今じゃ。時戻しじゃ。そのケガでは逃げおおせぬ。傷を治すのじゃ」

「どうや……」

「時よ戻れと言えばよい」

「時よ、もど……れ……」


 まるで、おれのまわりの風景がロケットのように飛んでいく。有沢やほかのみんなの姿が消えて、おれと九尾だけが廊下にいた。


「ど、どうなったんだ? なんで誰もいなくなった? あっ! ケガが治ってる!」


 今にも死にかけてたのに、どこも痛くない。息もふつうにできる。血染めの服ももとに戻ってる。


「一時間前に帰ったのじゃ。今のうちに逃げだそうぞ」

「でも、ほかのみんなは——」

「時戻しの効果は、わらわと御身にしか効いておらぬ。じゃが、案ずるな。その前にかけた時止めが敵を拘束しておる。少なくとも十分間はな。そのあいだに皆、逃げだすはずじゃ」

「そうか」


 それならいいけど。


「一時間前ってことは、今のうちに、みんなで逃げれば……」

「時戻しで戻った者は、他者の目には映らぬ。声も聞こえぬ。今の御身にできることは、ここから逃げだすことだけじゃ」


 悔しい。仲間を見すてて逃げることしかできないのか。


「ケガは治っても、過去を変えられるわけじゃないんだな」

「さあ、行くぞえ。ホールダーには主人の居場所がわかる。生きておれば、皆、追ってくる。今は逃げだし、御身は強くならねばならぬ」

「わかった」


 そうだ。今のままのおれじゃ、何度立ちむかっても、有沢には勝てない。ぜんぜん、勝負にすらならなかった。戻ったところで、なぶり殺しにされるだけだ。


 ほんとは今すぐ、沙織をつれ戻しに行きたい。

 沙織はどうなったんだろう? ちゃんと逃げれたのか? あのとき、沙織は腰がぬけてたみたいだ。自力で逃げだすことはできないんじゃないだろうか?


「玲音。我々ホールダーは主人さえ無事ならよいのじゃ。そのためのホールダーなのじゃから」

「う、うん……」


 なんかよくわからないが、九尾に手をひかれて走りだした。

 待ってろ。有沢め。

 必ず強くなって……強くなって、戻ってくる。

 おまえを倒すために!

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