第14話 ライバルってなんだよッ?



 そんな修羅場の最中だった。

 おれはもっと早くに、この事実を誰かから聞いとくべきだった。


 てかさ。なんで今まで、誰も教えてくれなかったんだよ? そりゃ、エッチに明け暮れてたおれが悪いんだけどさ。言っといてくれたら、もっと準備のしようがあったのに。


「なあ、ちょっと、変じゃね? 外、さわがしくないか?」と、言ったのは紅葉だ。


 頭に血がのぼってたおれは怒鳴りつけようとしたけど、そう言われてみると、たしかに、やけに悲鳴だのドタンバタンガシャーンだの、物を破壊する音がする。


「なんだ? あれ?」


 おれはたぶん、バカみたいにキョトン顔してたんだろうな。


 サッとおもてをひきしめたのは、九尾だ。


「いかん。奇襲じゃ。よそのおのこが玲音の存在をかぎつけて来おったのじゃ!」

「えっ!」


 おれは死ぬほどおどろいた。てっきり、この世界に男はおれしかいないと思ってたんだから、当然だろ?


「男?」

「そうじゃ。おのこじゃ」

「でも、水城はメールタイプは自分だけだって」


 九尾は首をふった。

「そうではない。そなたと同様、外の世界から呼びよせられた召喚者じゃ」

「ええーッ! 召喚者、おれ以外にもいんの?」

「おる。そなたは二十番めの召喚者じゃ」

「そ、そんな……」


 二十番って、おれのほかに十九人も男がいるってことか?

 そのなかの一人がこの都市にやってきたって?

 でも、あの感じは壁とか物とか破壊してやがるぞ? どう考えても友好的とは思えない。


「男がなんのために来たんだよ?」

「まあ、自分のなわばりの女をひととおりモノにしたんで、新しいシマを探しに来たんだろうぜ」って、もちろん、これは紅葉だ。


「でも、ここはおれのテリトリーだよな?」


 桃花が神妙な顔で告げる。

「玲音。残念ながら、領地は不定のものですわ。力のある男が奪いとる。だからこそ、自身を強くするのです」


 そうか! そのためのステータスだったのか!


「えっ? おれ、負けたら、どうなんの? まさか、殺される?」


 イヤだ。勝手に呼ばれてきたのに、負けたら死ぬとか、そんなの大迷惑だ。

 帰りたい。猛烈に帰りたい。

 誰か助けて!


「ほとんどの男は殺すまではいたしませんわ。わたくしが前に見た男は追放するだけでしたわよ」

「それにさ。ほら、同盟ってか? 不可侵なんちゃら言う男もいるよな」


 桃花や紅葉の言葉を聞いて、とりあえず、少しはホッとする。

 同盟か。それはいいな。おれはそっちのほうがむいてるかも。


 すると、ピシャンと九尾が釘をさす。


「油断してはならぬぞえ。相手によっては命を絶つ者もおる。ことに暴君と名高い殺戮者さつりくしゃアリョーシャであれば、主人はもとより、第一夫人、ホールダーも皆殺しにされる」

「そんな男いんのか?」

「おる」


 どんなだよ。コエぇー。


「アリョーシャは世界征服が野望だって話だよ」と、水城が口をはさむ。


 アリョーシャ、来んな!

 なんかガタイのデカイ、召喚前は外人部隊にいましたって感じの男? そんなイメージ。

 せめて別の男であってくれ。


「とにかく、玲音。逃げるか戦うか決めないと」


 水城の言うとおりだ。すぐ逃げださないと。

 暮らしやすい都市だけど、殺されるよりマシ。とにかく、まだレベル1なんで、ちょっとレベリングして強くなるまでは逃亡の道を迷わず選ぶ!


「逃げるぞ」


 修羅場どころじゃない。そんなのあとまわしだ。

 おれがそう言って立ちあがった瞬間だった。激しくビービーと音が響きわたった。非常ベル的な? 同時にスプリンクラーが室内に大雨を降らせる。が火をつけたんだ。


 どっか遠く(と言っても、そこそこ近い)から、大声で叫ぶ声が聞こえる。


「おら、出て来いや!」


 うわー。これ以上ないほどの典型的な悪役ヒールのセリフ。イヤだ。こんなやつと戦いたくない。てか、おれ、戦いかたさえ知らないんだけど?


 おれはあわててハッチをあけて、廊下にとびだした。

 けど、どこまで運悪いんだ?

 そのとたん、廊下の端にいた集団を見つける。

 まんなかに男。そのまわりに全部で五十人は女の子をひきつれてる。もしかして、あれ全部、あいつのホールダーか? てことは、少なくとも、あいつのレベルは50。

 おれ、絶対絶命!

 かなうはずないじゃん。


「見ぃっけ! 玲音くーん」


 ヒイッ。あいつ、なんで、おれの名前知ってるんだよ。

 スゴイ勢いでこっちに走ってくる。


「来んな、バカー!」


 おれ、みっともないことこの上ない。

 でも、まだ死にたくねぇんだもん。まだ十六なんだよ。人生十六年しか生きてないんだかんな。まだまだエッチして、やりたいこといっぱいあって、八乙女さん……デートしたかったし。美術館行って、風景画もいいねとか、うふふ、あははして、手つないで、いっしょにカフェして、帰りにチューくらいしたかった。


 こんなとこで死にたくない!

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