三章 修羅場! バトル開始!
第13話 おまえが犯人だろ?
疲れはててたんで、くずれるように、おれは朝まで寝た。リビングルームで、九尾に守ってもらう形で失神したというほうが正しいかも。
翌朝。
いつものように、沙織が皿やトレーに載せた料理をワゴンで運んでくる。
今日もまた朝から肉だ。そりゃ男だから、肉は好きだ。でも、さすがになんか別のもの食いたい。せめてハンバーグとか、ビーフシチューとか味変してくれ。
「また肉か」
「ごめんなさい。わたしたちの世界では、食糧が不足してるのよ。とくに農作物は貴重で……」
沙織が申しわけなさそうに弁明する。
まあ、沙織にあたっても、手に入らないんじゃしょうがない。できるかぎりのことはやってくれてるんだろう。
じっさい、最初の一回以来、手もにぎらないし、言葉をかわすこともほとんどないのに、せっせとおれの面倒見てくれるとこは、けなげだなと思わなくもないんだが……。
カスタムゼロの沙織には、ほかに特技もないし、こうすることでしかおれの役に立たないってことを、本人も自覚してるせいなんじゃないかな。
部屋のなかから血の匂いはなくなってた。寝室はとてものぞけないけど、おれが寝てるうちに、キャットの遺体が片づけられたんだろう。
だけど、ロロとキャットを殺した犯人はゆるせない。
食欲のないおれは、ほんの二、三口、肉をかじると、言い放った。もう我慢できない。
「百合。おまえだろ? おまえがロロとキャットを殺したんだ!」
百合はとたんに顔をひきつらせる。
「違うよ。あたし、やってないし」
おれは前に考えた推理を聞かせてやった。おれとやってないのはリタと百合だけ。リタなわけがないから、百合だっていう論法だ。
「だから、おまえが犯人だ!」
「違う。たしかに、ヤキモチは妬いてたよ。あたしだけ、みんなみたいにしてもらえなくて。玲音、あたしが目の前で分裂したから、イヤなんでしょ? そうでしょ?」
「だからなんだよ? おまえ、もういらない。おまえがいなくなって殺人がやんだら、犯人はおまえだったってことになる」
そうだ。そうすればよかったんだ。ホールダーじゃない女はホールダーを傷つけることはできない。追放しちまえば、もう百合におれのホールダーを殺すことはできなくなるんだ。
「百合、追放」
「やめてぇー! お願い。あたし、玲音のためならなんだってするからぁー! お願い。すてないで!」
百合がすがりついてきた。アップで見ると、やっぱり分裂しかけたときの顔を思いだす。吐き気がして、おれは百合の胸に思いっきりゲロッた。一瞬、百合はひるんだ。でも、キッと目をつりあげて、ふたたび、しがみついてくる。
「ウワーッ! 離せよ! キモイんだよ」
「ヤダー! すてないでぇー!」
動物みたいにキイキイわめきちらす百合をふんだりけったり、つきとばしたり……。
「玲音。ステータス画面でホールダー解除したら、百合はイヤでも出ていかなきゃいけなくなるよ。それに、ホールダーでなくなれば、わたしたちで処分もできるし」と、言ったのは沙織だ。
「そうなのか!」
「ホールダーの入れ替えはステータス画面でできるから」
ホールダーにするときは口で「する」って言っただけでなったんだけどな。解除するには、それなりの手順をふまないといけないのか。誤作動防止措置かな。
おれは自分の胸を押そうとした。クソ。百合の胸にかかったゲロがこびりついてやがる。きたねぇ。自分が吐いたけど。
タオル、タオル、いやシャワーだとおれがさわいでると、百合が冷たい声で言いだした。これまでの百合のゆるい口調とは似ても似つかない。
「じゃあ、言わしてもらうけど、沙織。あんただよね? いつも、みんなの食事、用意してるの。料理に睡眠薬まぜこむことができるの、あんただけなんじゃないの?」
言われて、ギョッとした。
たしかに、そうだ。
料理のなかに何か入れるとしたら、みんなが見てる前でやらざるを得ない。でも、沙織ならここに運ぶまでのあいだにコッソリそれができるのだ。
えっ? 沙織? まさか、犯人は沙織か?
おれが沙織を見ると、彼女は必死に首をふった。あんまりふりすぎて、首がもげてしまうんじゃないかと心配になるほどだ。
「わたし、そんなことしない。信じて。玲音」
ほんと? 嘘?
沙織は前にも嘘をついた……。
「沙織はさ。自分がカスタムゼロだってこと隠して、おれをだまして第一夫人になったんだよな?」
「ご……ごめんなさい。そのことはあやまる。わたし、どうしても、あなたの妻になりたかったの」
「なんでだよ? おれが数少ない男だから?」
沙織は目をうるませながら、ふるふると二、三回、頭をふった。
「わたしにはオリジナル沙織の記憶があるの。もうとっくに終わってしまったことだけど、この世界が平和だったころ、あなたたちの世界と同じように、わたしたちは毎日学校に通ってた。クラスメイトの山田玲音くんのこと、オリジナル沙織は好きだったんだよ。だから……どうしても、あなたでなければいけなかった」
この世界のおれ。
もとの世界の八乙女さん。
二人とも死んでしまった。
こっちの世界の八乙女さん。
あっちの世界のおれ。
好きな人を亡くしたどうしが、面影を求めて、いびつにつながりあっただけ。
「そんなの、こっちの世界のおれだろ。おれじゃない! おまえが好きなのは、おれじゃない!」
もしかしたら、嫉妬だったのかもしれない。ただ、そのときは感情の爆発をどうしようもなかった。
「もういいよ。沙織。おまえもいらない。第一夫人は九尾にする」
ところがだ。
おれは思いがけない事実を知った。
説明したのは、とうの九尾だ。
「玲音。それはできぬ。ホールダーはすげかえできる。じゃが、第一夫人は交代できぬのじゃ。一度決めたら、ずっと代えられぬ」
なんてことだ。
そんな縛り、聞いてないぞ。
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