第12話 疑心暗鬼♡



 このなかに、ロロを殺した犯人がいる——

 そう思って暮らす毎日。

 前ほど楽しくない。

 おれはホールダーたちとのあいだに、ぎこちなさを感じた。


 もちろん、容疑者第一候補は百合なんだが、ほかのやつらも信用はできない。

 おれが絶対にすてないことを自覚してる子は、たぶん自信があるから、やってないだろう。そういう意味で、九尾と水城は99%安全圏な気がする。それに、リタ。

 そのほかのやつらは、どいつもこいつもグレーだ。なかでも、ほぼ黒よりのダークグレーな百合。百合がいると安心できない。


「にゃーん。ご主人さまぁん。玲音。するにゃー? にゃー、にゃー。しようにゃーん」


 そんななかでも、キャットがとびついてくる。猫耳フェチじゃないし、おバカキャラっぽいし、あんましなぁと思ってたけど、こんなときは、こういう軽さと明るさに、めちゃくちゃ救われた。悩んでるのがバカらしくなる感じ。


 それに、キャットは腹芸のできるタイプじゃないもんな。無邪気で嘘がつけない。猫だから。


「ん、よし。やろう。たまには発散しないとな」


 ウジウジしてると、よけいイライラするんで、おれはキャットをつれて寝室にこもった。もちろん、前の部屋とは別だ。ロロが殺されたあの部屋は、血の匂いがスゴイんで、もう暮らせない。


 新しい部屋だが、間取りは前と同じだ。たぶんだけど、この都市にはこんな感じの似た部屋しかないんだろう。

 そういえば、まだ都市のなか、ほとんど歩いてみたことないけどさ。


「にゃ〜ん。ご主人さまぁ」

「よしよし。可愛いなぁ。キャット」

「ほんとにゃ? キャット可愛いにゃ?」

「おまえはおれに嘘つかないよな?」

「キャット、嘘つけない!」


 だろうな。コイツの頭脳値10だしな。リタでさえ35なのに、子どもに負けてるよ。いわゆる脳筋ってやつか。筋力だけは、やたらに高い。

 うん、安心だ。


「にゃ〜ん。玲音。来るにゃ。来るにゃ」

「そ〜れ、行っくぞぉー」


 またまた女豹か! 猫だもんな!


 ところが、真夜中だ。

 おれはまたもや、目がさめた。この前のときと、まったく同じだ。薄気味悪いほどの睡魔に襲われて、前後不覚に寝落ちしたあと、とつぜんの覚醒。んで、血の匂い……。


 イヤな予感。

 この時点で全身がガクガクふるえてる。

 もう怖くて見られない。

 足元、ぬれてる。

 前と同じだ。ロロのときと。


 う、嘘だろ? またなのか?

 キャットまで?


「キャ……キャット? へ、返事しろよ」


 頼む。いつもみたいにバカっぽく、「にゃ〜ん。ご主人さま」って言ってくれ!


 でも、返事はない。

 しんと静まりかえって、空気がピリピリしてる。

 おれはどうしても視線を動かすことができなかった。そのままの体勢で、ずっとかたまってた。たぶん、一時間か二時間は。


 あんまりふるえて、歯の根があわない。嘘みたいにガチガチ鳴って、このままじゃ舌かんじまいそうだ。


 さらには緊張しすぎてたせいか、ちぢこまった筋肉が急にビクビクして、こむらがえりを起こした。


「イテテ……イテェ、イテェよ……」


 幼稚園児みたいに涙がボロボロ出て、おれは恐怖と痛みに悶え苦しんだ。

 そのときだ。

 部屋のハッチがひらいた。


「玲音! 大事ないか?」


 九尾だ。なんか彼女自身もフラフラしながら入ってくる。


「九尾!」


 助けに来てくれたんだ。おれを。

 おれは嬉しさでまた涙があふれた。


「大事なきか? わらわも、ほかの皆も眠り薬を盛られておる。今しがた、心づいた」

「九尾ィ……」


 もう恥ずかしいとかなんとか言ってられない。おれは女の子に抱きついて泣きじゃくった。


 そのとき初めて、チロリと足元を見た。キャットが血だらけでスゴイありさまになってる。すぐに目をそらしたけど、臓物がはみだして、手足がグチャグチャになってるみたいだった。生きてないのは、もうわかる。


 殺されたんだ。ロロに続いて、キャットまで。

 いったい、誰がこんなことを?


「みんな……眠り薬を?」

「おそらくな。先夜のおりも、わらわは何やら頭の重く、なみのことではないようじゃった。あの夜も薬だったのじゃろうのう」


 九尾はステータスが一人、ずばぬけて高い。ジャマされたら困るって理由で、犯人が用心したんだろう。


 おれはよろめきながら、リビングルームへ行ってみた。みんな、たしかに寝てる。口あけてヨダレたらしてるようすからして、ほんとに薬のせいっぽい。


 だけど、このなかに一人は、確実に殺人犯がいる。

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