第14話


「ももちゃん、朝だよ」


 冬馬さんの声で目が覚めた。

 私は目を隣に向けると冬馬さんが肘枕をしてこちらを見ていた。


「おはようございます」


「今日が土曜日でよかったね。平日なら寝坊だよ」


「なんだか凄くよく寝れました」


「それはよかった」


 私は冬馬さんの腕に擦り寄りもう一度目を閉じた。程よく筋肉のついた二の腕、冬馬さんの匂い、少し前の自分には想像もつかないほど冬馬さんの全てが愛おしい。

 体の関係がなければこんな気持ちにも多分なっていなかっただろう。


 私の頭を優しく撫でる冬馬さん。

 

「冬馬さん、何時まで居てもいいですか?」


「店の準備があるから後1時間ぐらいかな。ももちゃんも一旦帰らないとダメでしょ?」


「そうなんですけど‥‥う〜ん」


 私は帰りたくなさすぎて布団を被る。

 すると、冬馬さんも布団を被った。


「ほら、朝ごはん食べて帰る支度しよ?」


 そう言って微笑みながら冬馬さんがおでこをくっつけてきた。


「帰りたくない‥‥です」


「俺も帰って欲しくないよ。でも仕方ないでしょ?ほら、起きるよ」


 冬馬さんが布団を取り私の両手を持ち起き上がらせる。渋々ベットから降り、顔を洗ったりしている間に冬馬さんが用意してくれた朝食を食べ、着て来ていた制服に着替えた。


「そんな顔しないで?後でまた会えるじゃん」

 

 冬馬さんが私の顔を覗いて言った。

 玄関で靴を履き座ったままだった私は帰りたくないとまた顔に出ていたのだろう、優しく抱きしめ頭を撫でてくれた。

 私も強く抱きしめ返した。


「分かりました。じゃあお店で」


「うん、気をつけてね」


 玄関を出て振り返ると、冬馬さんは私が見えなくなるまでドアを開けて見ていた。


 寒いから早く行きな。声は聞こえなかったがそう言っているように見えた。


 

 帰りの電車でスマホを開くと柊生から連絡が来ていた。マナーモードにしていて気付かなかった。家に帰ってからかけ直そうかな。

 

 最寄駅に着き、歩いて家まで帰る。


 歩いている途中も考えるのは冬馬さんの事。


 私は女子の中では背が高い方だが、それでも少し見上げるくらいの身長で、肩幅が広い。少し目にかかった前髪にウェーブのかかった髪。私の嫌いなタバコも吸わない。いつも優しい。


 あげればキリがないほど出てくる。

 冬馬さんの事を考えているとあっという間に家に着いた。


 部屋で私服に着替えながら柊生に電話をかける。


「ごめん昨日寝てて気付かなかった」


「ももちゃん昨日って家に居た?」


 もしかしたら見られてたのかもと一瞬ドキッとした。


「‥‥いたよ。なんで?」


「俺の友達がももちゃんの事見たかもって言ってたから」


「人間違えじゃない?」


 迂闊だった。

 店がある街と柊生が住んでいる所は同じ街だ、友達ならまだ誤魔化せても柊生に見られていたと思うと‥‥。


「そうだよね。そうだ、今日バイト夕方からでしょ?会えない?」


「あ、うん。いいよ」


 冬馬さんに早く会いたいから早めに店に行こうと思っていたのに‥‥。


「じゃあいつもの公園に2時でいい?」


「うん、分かった。じゃあ後でね」


 

 はぁ。私って本当に最低だと思う。

 こんなに簡単に心変わりするなんて‥‥。

 柊生とは終わりにした方がいいのかな。

 

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