55話:突然の危機
これがドラマ・
そして自分はドラマの最終回のように無風に殺されないために、これまで努力をしてきた。その甲斐あって無風に憎まれる未来は限りなく回避できた、と思っている。
しかしいくら努力しても絶対に変えられない未来はある。そんな残酷な事実を、思いきり叩きつけられた気分だ。
「どれだけ運命を変えても、結局無風と隣陽は結ばれる運命なんだな……」
二人が仲睦まじくする様子が見ていられなくて、思わず彩李から逃げ帰ってきてしまってから早一刻。邪界の森の小岩の上で一人佇みながら、蒼翠は溜め息を吐く。
ドラマを見ていた時は二人の恋が成就することを楽しみにしていたのに、今は胸全体が軋んで痛み、知らぬ間に拳を強く握りしめてしまう。
「俺、けっこう無風のこと好きだったんだ……」
「なんじゃ、今ごろ気づいたのか?」
「へ? えっ? うわぁっ!」
いきなり誰もいないはずの場所から声が聞こえてきて慌てて振り向くと、目と鼻の距離に白く長い眉毛と髭が飛び込んできて、蒼翠は鳥が一斉に飛び立つほどの声で叫んでしまった。
「せ、せ、せ、せ、仙人っ?」
もうかれこれ十数年の見慣れたものだが、毛むくじゃらに近い顔が間近にあれば誰だって驚く。というか、本当に心臓が止まるかと思った。
「どうしてこんな場所に? ってか、よく俺がここにいるって分かりましたね」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。ワシの手にかかれば不可能なことはないわ。……と、今はいいとして、ここに来たのはお前さんに急ぎ確認したいことがあったからじゃ」
「知らせたいこと?」
「無風のことじゃが、あやつ、なにかしでかしでもしたか?」
「え? それどういうことです?」
無風に限ってしでかす、なんてことをするはずがない。それは仙人自身も分かっていることだ。
「実はな、無風がお前さんところの皇太子に連れて行かれたんじゃ」
「無風が
「ワシにも分からん。聖界と邪界の狭間あたりを一人で歩いていた無風を見かけて声をかけようとしたら、突然皇太子が配下を連れて現れて無理矢理連れ去ったんじゃ」
炎禍が無風を連行したなんて、ただごとではない。一気に嫌な鼓動を立てはじめた心臓に息苦しさを覚えながらも、立ち上がり仙人に詰め寄る。
「それで、無風はどこに連れて行かれたんですかっ!」
「無風はここから北に五里ほど行ったところにある岩場の辺りにいるはずじゃ」
「ありがとうございますっ、俺行ってきます」
「待て、ワシもともに行こう」
「え、仙人も来てくださるんですか?」
「ワシだってあやつの師じゃ。弟子の窮地かもしれんのなら、動かねばな」
言いながら仙人がその場から飛び立つ。と、その姿は一瞬で木の上まで移動していて、蒼翠はあらためて仙人という存在に驚かされた。
しかし、今はそれに驚いている暇はない。一刻も早く無風の元へ向かわなければとすぐに我を取り戻した蒼翠は、仙人の後に続くようにして地を蹴って大きく飛び立った。
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