第5話 ギルドの仕組み
カエデはまたしても、無言のままブレンの後ろを着いていくだけの関係に戻った。
さっきはこれから、二人で頑張っていこうとなった所ではあるが、果たしてこれからどうなるのだろうか。
そんなことを思いながら歩いていると、カエデの目に人工物のようなものが見え始めてきた。
「ブレンさん。あれは……」
「ああ、そろそろだな」
カエデを遮るかのように、ブレンが答えをくれた。どうやら、あれが目的地である町のようだ。
「結果報告よりも先にまず、お前をどうにかしないとだな」
「え?」
「そんな変な格好しているようじゃ目立ってしょうがない」
魔装を解いた姿は、日本では可もなく不可もなし。特別変わった格好ではないがこの世界だと、目立つもののようだ。
カエデにとっては、まだブレンとしか会っていため、ブレンが変わっているのか自身が変わっているのかの判断がつかなかった。
「おやじ! これ一枚くれ」
そう言ってブレンは何かを手に取り、硬貨のようなものと交換した。
「ほれ、これを上からでも羽織っておけ」
ブレンはこちらを見ると同時に、手に取ったものをこちらに投げ渡してきた。
「あ、ありがとうございます」
軽く手を出しただけで、それはカエデの手の内に収まる。それは、ブレンが着ているフード付きのマントと同じもののようだった。
ブレンの方を見ると、すぐに着てみるように促された。グチャグチャに受け取ったため、一度服をただすように地面につかないよう重力に従い伸ばす。
それを背負うように羽織る。
「うん。ちょっとデカいがいいだろ」
ブレンの言うとおり、袖は完全に隠れフードは鼻まで隠れるほどだ。
(受け取ったときにも思ったけど、凄い軽い素材なのに結構しっかりしてるなぁ)
年頃の少女がするオシャレとはかけ離れた、そのマントを少女は存外気に入ったようだ。
「じゃあ、今日の報告しにいくぞ。その後は飯食って宿だな」
そう言って、カエデの返事を待つことなく歩き始めた。
ブレンはよそ見をなどはせず、目的地に一直線に向かっていく。それに対して、カエデは周りをキョロキョロしながら危なっかしく歩く。すれ違う人や露店のようなものの店主などが通り過ぎる2人を見ている。
周りは、日本にある住宅やマンションなどとは違い、簡易テントのようなものや非常に簡単な作りの家ばかりだ。
すれ違う多くの人も、何かしらの武器を持っており見るもの全てが、異様なものだ。
それにカエデとブレンのように二人っきりで、行動している人達はほとんどいない。みんな最低でも5人。もっと多くの人数で行動している人たちもいる。そんな中で、カエデと行動を共にする前はブレンは1人っきりだったことを考えると、異質なことだとよく分かる。
「おい! 嬢ちゃん! 早くこい」
カエデは声がする方を反射的に向く。すると2人の距離は見失ってもおかしくないくらいには離れていた。ブレンは人混みもある中で、よくすぐにカエデの場所を見つけられたなと思うほどだ。そう言った意味もあり、お揃いのマントだったのかもしれない。
「は、はい!」
カエデもブレンの姿を見つけると、そちらに駆け寄る。魔装を纏っていなければ普通以下の運動能力しかないカエデにとっては、人混みの中を走ることはそこそこの苦労を要する。自身の反対方向に進む人たちとぶつかりながらカエデの方へ近づいて行く。
「あ!」
すると、小柄なカエデは突き飛ばされるように転んだ。その姿は空を浮遊する魔法少女とはかけ離れたものだった。
「何やってんだ。お前は」
転んだカエデのすぐ目の前にはブレンの姿があった。だからといってカエデに手を差し伸べる訳でもなく、見下ろしたまま早く立つように促すだけだった。
「これだから、魔法士は嫌なんだよな。戦闘の時だけでかい顔しやがって」
立ち上がりマントについた土埃を払っているカエデをよそに、本人には聞こえないような小さな声でブレンがつぶやく。
本来であれば、大きな声でその苛立ちをぶつけたところであるが、ここは人が多すぎるし、何よりこの目の前にいる少女がどれほど優秀な魔法しかも理解している。自分のためにも、子供じみた行動をグッと我慢している。
「すみません。ありがとうございます!」
「いくぞ」
カエデは、自分を待ってくれていたブレンにお礼をする。ブレンはその行為を見て、なんだかなんだかしっくりこない感じでそっけなく対応する。
そして、2人は再び歩き出した。
「嬢ちゃん。本当に気をつけろよ。ここにいるような奴らなんて、ろくな奴がいないんだから」
「はい! わかりました!」
先ほどまでの素っ気無い態度に、少し戸惑いを感じていたカエデだった。しかし、今自分のことを心配してくれた声は、明らかに優しさに包まれたものだと受け取った。
「よし! 着いたな」
ブレンの声で、自分達のとりあえずの目的地に着いたことを知る。ここに来るまでに、見た多くの簡易的な建物とは裏腹に、しっかりとした佇まいの建物が目に入った。その周りにも多くの人が集まっているのが、わかる。
パッと見ただけで、ここが、ここにいる人達にとって特別な場所だということが分かる。
その建物に入るブレンの跡をカエデも追って入る。
入ると正面にカウンターのようなものがいくつかある。しかし、そこに均等に人が並んでいるのではなく、多くは一番端っこに偏っている。そこにいる人たちの様子は、なにか恐怖を感じるほどに必死だった。しかし、カエデはそれに既視感のようなものを感じていた。本来であれば、平和な日本では感じることがないにも関わらず。
しかし、そんな光景もブレンには非日常ではないようで、特に目もくれずそのまま歩んでいく。いくつかあるうちの、1つのカウンターの前で立ち止まり、そのまま肩肘をツク
「ご依頼はなんですか?」
ブレンが何かを言う前に先に声をかけられた。これがここでの日常なのだろう。
「こんなこと今までなかったんだがな、倒した後にコアが出てこなかったんだ」
カエデには何の話をしているか、全くわからないがとりあえず、ブレンの一歩後ろでカウンター越しにいる女性との会話を聞いている。
「まさか? そんなことあるはずがありませんよ」
その女性の態度は、とてもいいものでないことは見ればすぐに分かるものだった。この建物に集まっている人たちとは比べものにならないほど身だしなみが整っており、ブレンと比べても言葉遣いもしっかりしている。
「本当なんだって!」
「あなたが依頼をこなした証拠がなければ、こちらも報酬をお支払いすることはできません」
カエデとブレンが異物を倒したのは事実だ。しかし、ブレンの言うコアと言うものに、カエデは一度も出会ったことはない。それはただ、見落としていただけなのか、それともそれはまた別のものなのか。
「じゃあ、どうすればいいんだよ!?」
「異成の獣であれば、倒せばコアが出てくるのが普通です。もし、この先似たような例が何件かあり、特殊個体が出て来たことが認められれば、その時に今回の報酬をお支払いしましょう」
「チッ!」
「では、今回の依頼不達成として再依頼をしておきます。ご無事に帰って来られてなによりです。それでは」
カウンターの女性は微動だにせず、ブレンとの会話を強引に打ち切った。しばしの間ブレンはその女性を威嚇するように睨みつけていた。対する女性は要件は済んだから、もう用はない言わんばかりに無視している。
どうすればいいのか分からないカエデは、オロオロしながらブレンとその女性を交互に見つめる。
それに気がついたブレンも、諦めがついたのかカウンターに大きく拳を振るって、その場を後にする。
「あいつらを見ると、嬢ちゃんのことを嬢ちゃんって呼ぶのが申し訳なくなるぜ!」
建物を出てすぐに、苛立ちを吐き捨てるかのようにブレンは言った。
「……あははは」
カエデはその姿を見て、苦笑いをするしかない。一連のやり取りを見てなんとなく思い当たる節もあるのだろう。
しかしながら、命がけで異物と戦う者もいれば、そんな事とは無縁な生活を送っているものもいる。あの場所で見た光景だけで、この世界がどんな所かある程度には分かるものだった。
「あいつらは、たまたま親が権力者だっただけの自身には、なんの価値もない奴らだ。身なりと言葉遣いだけは小綺麗にしていれば、その立場にふさわしいと思いやがって」
いまだに苛立ちが収まっていないのはブレンの性格もあるのだろうが、ああいった態度が珍しいことでは無いことを確定づけている。
「もういい! 飯食いに行くぞ。お前も腹が減ってるだろ」
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