第27話 暴走
「よーし、お前ら! 今回は一気に進めるぞ」
「またリーダーの都合で止めたりしないか?」
「ああ、今回はきちんと対策を練ってきたぜ。だからって正気度をみすみす減らすこともねぇ。パスカルの心配することもないぞ」
「モーバ殿は新しい力を得たでござるからな!」
「わんわん(マスター、僕の台詞これだけって正気ですか?)」
「なんか犬が紛れ込んでるぞ?」
「ああ、パスカルには見えるんだったか。村正も正式に聖典のマスターになったんだよ。な?」
「|◉〻◉)僕のように誰からでも見えるようには至れてないみたいですけどね? シュッシュッ」
リリーが威嚇するように三又の矛をヴェーダの前で振って見せる。当たりはしないが、鬱陶しそうな顔をしていた。
「こらこら、煽るな」
「モーバの方も随分強くなったな」
「そう見えるか?」
パスカルからの指摘にまんざらでもない気分になる。
「ああ、背景に海を背負ってるって言うのか? アキカゼさんも一時期そんな気配を漂わせていたよ。お前もその地位に着いたんだな」
「領域展開の事か? 確かにできるようにはなったが、よくわかったな」
「俺くらいになれば見ればわかるのさ」
【今どこまで進んでるんだっけ?】
【確か5の契り重ねたところだ】
【なんかリリーちゃん三人いない?】
「|◉〻◉)|◉〻◉)|◉〻◉)分身できるようになりました」
【ウザさ三倍界王拳かよ】
【何その例え?】
【古のアニメの運用法だぞ。元ネタは知らん】
リスナーの入りはぼちぼちだ。
他の配信者と違って一日空けたのが悪かったのか、コメントと同等の視聴数となっている。
「取り敢えず5まで進んだ物を7まで進めてしまうぞ」
「8に至れるのは1箇所だけなんだっけか?」
「そう聞いてるし、何個も得られたら楽になっちまうだろ」
「じゃあ火から埋めてくか最悪水は俺一人で行くわ。新能力のお披露目も兼ねてな」
「一気に9まで進めそうだな?」
「その方が気兼ねなく手伝いに回れるだろ?」
「なら先に水を9まで決めてしまった方がいいのでは?」
そう言う見解もあるか。
俺を戦力として見てくれてるって事かな?
それとも陸ルート的に気を使ってくれたのかもな。
新能力のお披露目を先にした方が少なめのリスナーの興味を一気に惹きつける的な。
「みんながそれでいいなら俺は構わんぞ。パスカル、水の大精霊の案内頼むわ」
「二つは近くにないぞ?」
「多少離れてたって問題はねーよ。な、リリー?」
「|◉〻◉)僕たちが」
「|>〻<)みんなの相手をするよー」
「|◎〻◎)聞いてません!」
【おい、この三人性格一致してないぞ】
【一人怠けようとしてるやつ発見】
【平常運転だな】
【圧倒的信頼度!】
水の大精霊の前のアトラクションは激流タイプのものが多いな。しかしこれも……
「そらよ!」
弓を射る。飛んでった矢に掌握領域を挟んでいるので当たった場所の属性が停止するって寸法だ。
俺が単独で使えば手の触れた場所でしか発動しないが、当たった場所を停止するのなら矢で当てた場所にその効果が発揮する。
矢を射った場所は溢れ出るマグマとすごい速さで流れる足場、岩である。
「オラ、今のうちに進むぞ。一応追撃はしとくからよ」
「その能力便利だよな」
「俺の能力は火力がないからな。足止め特化だ」
「にしたって便利すぎる」
「いいからさっさと渡れ。矢が勿体無いだろ!」
「肝心なところでケチだし」
道中でそんなやりとりをしつつ、精霊戦。
「おーし、いっちょやったるか。領域展開!」
グオン!
周囲の背景があの時見たような光景へと変貌する。
どこか懐かしいような雰囲気。
そして力場に水が多いからか、俺との相性も完璧だ。
「掌握合体、リリーティア! いくぜぇ!」
二体のリリーと合体して、武器と防具の役割を与える。
残った一匹は遊撃だ。
単体で優秀な斥候役なり得るからな。
三匹に増えた時はどうしたもんかと思ったが、合体前提で考えたら確かにこいつは有効だ。
「|◉〻◉)ギョーギョッギョッギョ! 水場で僕の動きを捉えられるとでも?」
【リリーちゃん、いつの間に空中を泳げるように?】
【前から泳げた件】
【バタ脚ではなかったんだよなぁ】
【以前は飛んでた。今では泳いでる】
「俺の領域展開のおかげだな。目には見えんが掴める空間が出来上がってる。こんなふうにな!」
掌握領域を展開して引き寄せれば、空間を固定化させて水精霊を手繰り寄せることもできるのだ。
まさに理想の空間。
「オラ! リリーショット!」
「|◉〻◉)!?」
武器化したリリーを弓で射る。
撃つ手前で顔がこっち向いて嘆願するような表情を見せるが迷わず撃った。
武器化してるのに表情豊かだよな、こいつ。
「|◉〻◉)アバー! サヨナラ!」
爆発四散!
宴会芸でさらにダメージは加速した。
更に追撃でリリーショット。
俺の弓術に威力は期待できないが、矢の爆発力で精霊にダメージは通る模様だ。
というか属性停止の効果も付与してるので、拘束中に遊撃させてるリリーが不意打ちでダメージを与えていく。
戦闘時間はおおよそ20分くらいか。
村正の武器化なら高火力で屠れるが、今は前と色々変わってしまったからな。再び武器化できるかどうかも怪しい。
「おっし、次行くぞー」
【強い】
【以前までのモーバと思わない方がいいな】
【というか、つい最近ライダー化したのに強すぎない?】
【これは本戦参加待ったなしですわ】
あん? 聞き捨てならないコメントが見えた。
本戦参加?
いやいや、流石にまだ未熟っしょ。
そして水精霊第二戦。
先ほどと同様領域展開。
一度開いてコツは得た。
わざわざ構えなくたって、意識を集中させれば展開できた。
掌握合体さえも、呼吸をする様に手に吸い付いた。
あとはそれを弓に番えて放てばいい。
領域内ではわざわざ掌握領域をスキルとして扱わずとも、目視のみで行使できる気がした。
直感に従えば、思考の通りに束縛できた。
リリーショット、乱れ打ち。
拘束できちまえばこっちのもんだ。
いや、弓なんていちいち番える必要なんてあるのか?
それは気づきだった。
そして……
世界は青に染まる。
大海と一つになったような感覚。
海が、母なる海が呼びかけてくる。
「────!」
何を言ってる? 耳を澄ませどもよく聞こえない。
「────殿!」
あん? そんな呼び方するのは村正くらい。
そういやあいつらどこ行った?
俺は確か……あれ?
思い出せない。
俺は今何をしていた?
大海からの呼びかけに耳を傾けて以降の記憶がない。
そうだ、確か弓を手放してからの記憶がない。
「モーバ殿!」
「村、まさ?」
気がつけば目の前に泣きじゃくる村正の姿があった。
そして俺はタコのような触手が横たわる世界で放心していた。
なんだこれは?
領域内は正気度が回復するんじゃなかったのか?
そのつもりで使っていたのだが、気がつけば正気度は1まで減少していた。
他の奴から話を聞けば、どうも俺は戦闘中に力を暴走させてしまったそうだ。
突然身体中のあちこちからタコの触手が生えてきて、それを器用に操って精霊を滅多殴りにしていたようだ。
確かに武器を使うのは馬鹿らしい。
殴った方が早いんじゃないかという気持ちはあった。
が、実際は暴走していて。
暴走中、村正のしていたお揃いのリングが輝いたらしい。
その中に俺を見たのだとか。
まるでリングに意識を封じ込められ、暴走しても正気度が1残ってる限り復活できる安全装置のようなもののように。
「良かったでござる、もう元のモーバ殿に出会えないんじゃないかと……」
「迷惑かけちまったな。これからは能力の使いすぎには気をつけるわ。でも、よくリングに俺が封じ込められてるってわかったな?」
「それは、ヴェーダ君が教えてくれたのでござるよ。そのリングに禍々しい存在が封されてると」
「それが俺だったってわけか」
「もうその力は使わないでほしいござる。便利ではあるのだろうが、見ているこっちが気が気ではござらんからな」
「気ぃつけるよ。謎の万能感に溺れちまった」
「|◉〻◉)マスター、さっきので僕との親密度が150になりましたよ?」
まじかよ。
そう言えば親密度って言葉で濁してたけど、これ普通に侵食度なんだよな。やばいじゃん。
どうりで暴走する訳だよ。
謎の指輪も割と有能だったが、これ指輪もらう前だったら普通に詰んでたんじゃね?」
「ふふん、某はとっくに250%あるでござるがな?」
「わんわん(虚勢はみっともないですよマスター)」
「ヴェーダ君、伏せ」
「きゃいん(反省してまーす)」
「|◉〻◉)新しい能力、聞きたいです?」
「後でな? とりま俺の能力は利便性の良さの反面、暴走しやすいことが判明した」
「早めにわかって良かったじゃん」
【良かったのか?】
【これ、ソロだと実際詰むんじゃ?】
【村正ちゃんのリングが命綱?】
【お揃いのリングとかカップルかよ、爆発しろ】
「|◎〻◎)アバーッ、サヨナラ!」
「|◉〻◉)サヨナラ!」
「|>〻<)サヨナラ!」
【リリーちゃんwww】
【リリーちゃんが巻き添え自爆したぞ!】
「|◉〻◉)僕の新しい能力はチェイン! 一体が爆発すると、残りの二体も爆発します」
【自爆技が増えただと!? なんで宴会芸が成長してんだ】
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