第25話 リリー三姉妹

「|◉〻◉)マスター! 親密度が100になりました! 100ですよ、100!」


「ふぅん」


「|◎〻◎)もっと関心持って!」


「良かったでござるなリリー殿。しかし某の親密度は既に200%を越えているでござるがな?」


「|◉〻◉)ふぅん」


「なんでござるかその余裕は! ええい、やはり邪悪な使徒でござるな? その性根、叩き直してくれる!」


「やめろやめろ。沸点低いやつだな」


「ええい、離すでござるモーバ殿! その素っ首切り落として三枚に下ろすでござるよー!」



 素早く村正の背後に忍び寄って羽交い締めにする。

 刀をぶんぶん振って危ないので俺が身を挺して前に出る必要があるんだ。

 俺が関われば村正も真人間になるからな。



「で、リリー。どんな能力が増えたんだ?」


「|◉〻◉)ふっふっふ」


「|◉〻◉)今の僕ならなんと分身できます」


「|◉〻◉)今ならなんと三人!」


「ウザさも三倍なのか」



 その上で復活も即時で三人分の働きを見せるとのこと。



「じゃあファストリアのもう一個のサブクエストも進めそうか?」


「|◉〻◉)黄金宮殿ですか?」


「そこ」


「|ー〻ー)マスターは平気だけど、村正さんは息続くんですか?」


「あー、海の底なんだっけか?」


「|◉〻◉)一つ、手がない訳でもないですが」


「モーバ殿と一緒ならどんな物でも受け入れられるでござるが?」


「|◉〻◉)じゃあドリンクどぞー」


「うむ、なんぞしょっぱいな。これは例の? ふむ!」



 なんと! 村正はハーフビーストからクォータービーストになった。

 人のベースに獣の耳と尻尾。

 そこに足を自在に魚のものへと変化させることができる様になった。

 ただ問題はそこではなく……

 

 背丈が今まで抱えられる程度の状態から、俺の首近くまである美少女へと変貌したら誰だって驚くだろう。

 黒く艶のある背中まで伸ばされた髪。

 顔の作りはおっとりとしているが、瞳だけが力強い。

 ピンと吊った眉のみが気の強さを表していた。



「お前、村正なのか?」


「ふむ、どうやらモーバ殿はようやく某の魅力に気付いたでござるな?」


「お前! 小学生じゃなかったのかよ!」


「だから言ってるでござろう? 某は高校生であると」


「だってあんなちんちくりんだったじゃねーか! てっきり小学生かと、あんなナリで高校生と言われて信じられるか!」


「ふふーん、それで今の某はどうでござるか? モーバ殿のお眼鏡に叶うでござるか?」


「チッ」



 俺は咄嗟に視線を外した。

 直視できない程の二つの双丘に視線が惹きつけられるのを誤魔化すためだ。

 だがしかし、俺が視線を避けても村正が肉薄してくるからいやでも柔らかな感触が……



「|◉〻◉)[_◎_]パシャー」


「おいコラ画像保存すんな。プライバシーの侵害だぞ?」


「|◉〻◉)いやー、お熱いですね」


「|◉〻◉)でもこれ、試作品なんで10時間で効果が切れます」


「追加で飲めば効果を延長出来ぬでござるか?」


「|⌒〻⌒)お値段は別料金となっております」


「|◉〻◉)取り敢えずヴェーダ君が襲ってこないように躾けてくれたら便宜してやってもいいですねー」



 早速リリー三姉妹にぼったくられてる村正。

 謎の上から目線である。


 定期的に購入して俺を悩殺する目論見を企んでいるのだろう、ヴェーダの躾はより激しくなったのは確かである。

 自分の知らないところで進退決められてるあたり、あいつも俺と一緒でそんな役割なのかもな。



 早速ファストリアにワープポータルで飛んでサブクエストを受注。

 パーティを組んでドブ攫いはリリー三姉妹にやって貰った。

 先に進む時だけ綺麗な水を水操作で作り出し、奥に進む。


 空気の確保は息継ぎポイントから掌握領域で空気を固定化して飲み込めば平気だった。

 リリー曰く、そんな事しなくても水/海はマスターを攻撃しないとのことだが、俺は心配性なんだよ。



「モーバ殿! 見ていてくれてるでござるか!」



 マーメイド姿の村正はいつにも増して俺へのアピールが激しい。もしこの姿を親父さんに見られていたと思うとゾッとするね。

 だが同時に、この子が俺に惚れているという事実を加味してもニヤける要素しかなかった。


 我が世の春が来た!

 そう思ってしまう俺をどん底へと突き落としたのが二枚目の断片だった。


 クエストをチェインさせていった先にあった黄金宮殿。

 奥にあった図書館で、俺たちはもう一人の存在と出会った。

 出会ってしまった。



[よう、待ってたぜ?]



 それはもう一人の俺だった。

 ただ、髪の配色や服装の色合いが違うもう一人の俺が、リリーにそっくりなサハギンを侍らせて食事をしていた。

 正気を疑う姿だったが、なんとなく察する。



「あんたが、神様か? 聞いていた人相とだいぶ違うが」


[神格は自ずとプレイヤーに似るものだ。幻影もな。お前はお前の道を歩み、こいつに気に入られた]


「あんたが出張ってきたってことは認められたのか、俺は?」


[さてな?]


「おい……」



 こいつ、肝心なところが俺とそっくりすぎる。

 基本的に飄々としていて行き当たりばったり。

 そのくせ肝心なところはぼかして語らず。



「|◉〻◉)ダメですよクトゥルフ様。マスター困ってます」



 よく見たら侍らせてるリリーは最近分裂したリリー三姉妹だった。最終的に俺の行き着く先がここなのだろうか?

 終着点を見せつけることで俺を試している?



[リリーティア、お前はどっちの味方だ?]


「|◉〻◉)それは、クトゥルフ様ですけどー。でもマスターも同じくらい大事なんですよ。ね?」



 まるで親に話しを聞いて欲しそうに語らう少女が、連れてきた友達、いや……この場合は彼氏か? を見極めるための無理難題をふっかける状況に似ていた。



[ふん、気に入らん。ウチのリリーティアを唆しやがって]


「唆した覚えはないんだが。村正はどうした?」


[今は俺様との語らいだぜ? 他者の、それも聖典陣営の小娘の心配をしてる場合か?]



 つまりここは精神世界。

 あの日、風の精霊姫との戦闘時に入ってきたアキカゼさんと同じ状況下って事か。

 ちっとは頭が冴えてきたぜ?


 正気度は15まで回復していた。

 おかしい。さっきまで2、3しかなかったんだぞ?

 どうして回復していやがる?



[不思議そうな顔をしているな、小僧?]


「もし俺の予測が正しいのなら、ここがお前の領域なのか? 領域内だと正気度の回復も早い。そうなんだな?」


[少しは頭が回るらしい。いいぜ、お前ならリリーティアを任せられそうだ。上手く使え。あいつは俺のお気に入りだからな。もしも泣かせたら、それなりの報いを受ける覚悟を決めておけ]



 そう言ってクトゥルフと思しき俺の2Pカラーは消えた。

 俺はほんの数秒、立ち止まっていたようだ。

 マーメイド姿の村正が心配そうに顔を覗き込んでいた。



「モーバ殿ー? ぼーっとしてどうしたでござるか?」


「ああ、ちょっとな。ここは随分と居心地がいい。もう少しここにいていいか?」


「勿論でござるよ。一緒に景色でも見るでござるか?」


「そうだな。お前さえ良ければ付き合ってやるよ」


「ふふふ、言質は取ったでござるぞ?」


「リリーティア、お前も来い」


「|◉〻◉)その名前、どこで知ったんですか?」


「別にどこだっていいだろ?」


「|◉〻◉)えー教えてくださいよー」


「|◉〻◉)教えて教えてー」


「|◉〻◉)教えてくれないと付き纏いますよー?」



 ウザさ三倍界王拳のリリーティアに今後も悩まされそうな予感を覚えつつ、適当にあしらった。

 ここは当分通うことになりそうだ。


 棚からぼたもちっつーのかな?

 よもやこんな所で正気度が回復するスポットが見つかるとは思わなかった。

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