第22話 相入れぬマスコット達
さて、一度ログアウトしてから再度ログインすると、思ったほど正気度の回復がされてなかった。
一日経過しているのだが、もしかしてこれ……ログアウト中は回復速度止まるのか? ってぐらい回復が遅い。
今現在の正気度は15だ。
侵食度は逆に85と何故か5も増えている。
バグってんのか?
「リリー、侵食度の増加について何か知ってるか?」
「|◉〻◉)僕と二人きりの時間が多いと増えます」
「そっか、村正呼ぶわ」
「|>〻<)わー、嘘です嘘です」
ひっしと抱きついてくるリリー。
えーい、ひっつくな鬱陶しい。
無理矢理剥がそうとひっぺがしてる最中でそいつは現れた。
まるで浮気現場でも目撃したかのように、物陰から顔を覗かせてはわなわなと震えている。
「何をしているでござるか、モーバ殿?」
「そう言うお前こそ、どうしてここがわかった?」
まだ呼んでないのに村正がなんとも言えない顔でこっちを見ている。
出遅れた! と言う顔を貼り付けているが今更か。
「似合わないベルトしてるが、どうした?」
「これでござるか? どうやらリリー殿の警戒心が具現化したようでござるな」
成る程、聖典のライダーに任命されるって言うアレか。
きらきら光ってて殺伐としてる普段の村正からは程遠いオシャレアイテムと化してるが、いったいなんの神様が宿っているのかわからんのだよなぁ。
「それで、でござるが……」
「あん?」
もじもじしながらこちらをチラチラ見てくる村正。
いつもはしつこいくらいにぐいぐいくるのに、何を遠慮してるんだろうねぇ。
「某はまだモーバ殿と一緒にいてもいいのでござろうか?」
「何言ってんだ。コンビだろ? 勝手にやめられちゃ困るぞ? 親父さんに俺たちがアキカゼさんを追い抜くほどの結果を見せつけるんだって言ってたじゃないか。違うのか?」
「そうではござらん。だが……某のイベントでモーバ殿のただでさえ低い正気度が枯渇するんじゃないかと思って、心配で」
「ばーか」
俺は呆れたように言った。
「な!? バカって言った方がバカだと相場が決まっているでござるよ?」
「アホ、わざわざそんな報告せんでも、お前が聖典側だからって切るような真似するかよ。俺はな、身内にシリアルキラーがいようが、フレンドリーファイアがいようが、うまいこと使って楽するような奴だぜ? たかが正気度が減るくらいなんだ。こっちは仲間を救うために正気度1まで減らせるっつーの」
コツン、と鉢金の上からデコピンを喰らわせる。
打ち込まれた場所をさすりながら、村正が俺の顔を覗き込む。
何故かリリーが槍を磨き上げて村正に向けてシュッシュと威嚇してるがそれは無視した。
「モーバ殿……某は、モーバ殿を選んで本当に良かったでござる」
「バカ、往来で泣く奴があるか。あとリリー、威嚇するのはやめてやれ。こいつなりに考えての告白だ。
「|◉〻◉)フシャーッ」
魚なのに、威嚇する姿は猫っぽいのなんなの?
「|◉〻◉)マスター、そいつは危険です」
「見た目の危険度ならお前の方が上だぞ?」
「|◎〻◎)ひどい……なら真の姿で魅了するしかないですね」
どっこいせ、とおっさんくさい動きで着ぐるみを脱ぎ捨てアイドルモードのリリーが現れる。
アキカゼさんところのと比べて髪色は艶のあるプラチナブランドだ。
はっきり言って村正が霞むほどの美少女である。
だが残念ながら見た目が幼いのが玉に瑕。
正直もうちょっと年齢層が上の方が嬉しいのだが、人間に近しいと言う意味では村正には勝っていた。
今の村正、抱き心地のいい毛玉だもんな。
「|◉〻◉)ふふふ、どうですか? 僕もなかなか捨てた物でもないでしょう?」
「ぐぬぬ、卑怯でござるぞリリー殿! 某だってリアルに戻ればそれはもう、凄いんでござるぞ?」
「あーはいはい。ありもしない机上の空論でいがみ合うのはやめなさい。お前らのようなちびっこに付き纏われて俺も正直困ってるんだわ」
「チビッ!?」
「|◎〻◎)!?」
何故か自信満々だったリリーまでもがショックを受けている。
「いいか? 以前から言ってるが俺はボンッキュッボンッのお姉さんが好みのタイプなの。それに比べて君らときたらツルッ、ストーンと寂しいほどに魅力薄じゃない?」
「そ、某は成長期ゆえ! こ、これからでござるぞ!」
「|◎〻◎)僕は……色は変えられるけど体型は……ううっ、マスターの期待に沿えられず済みません」
「だから張り合うなっつーの。お前はいつも通り魚スーツに入って俺のサポートしてろよ。俺はそれで満足してるんだ。恋人にまでとって代わろうとしなくていいんだぞ? アキカゼさんの様な特殊性癖を俺に求めてるのかもしれないが、俺はそう言うの無理な人だから」
「プークスクス、残念だったでござるなぁ? リリー殿」
「お前も、無理に張り合わなくたっていいからな? 相棒」
「そ、そうやって特別扱いするから勘違いしてしまうんでござるぞ?」
いや、特別扱いも何もさぁ。
お前の持ってきた案件だからね?
訳もわからず上位クランから圧力かけられまくってる俺の気持ちも考えろよ。お陰でクランでの立場ないんだぜ?
関係を改善するまで戻ってくるなと言うお達しだ。
要はお前の責任だからお前が解決しろと追い出されたわけである。
そういう意味で俺は村正を切れずにいた。
エルフしかいないクラン、森林組合は今じゃ数を減らしている一方。
皆が環境に適応してハーフマリナー化してるので純粋種である俺なんかはクランにとって唯一のエルフであるのにこの始末。
「でさ、今日は配信やめて正気度の回復を図りたいんだが付き合ってくれるか?」
「某でよければ?」
「|◉〻◉)僕もいますよー」
「お前は呼んでない」
「|◎〻◎)!」
「モーバ殿、そこまで嫌わんでも良かろう? リリー殿も来るでござるか?」
「|◉〻◉)い、良いんですか? 僕がついてっても」
「構わぬでござるよ。のう、モーバ殿?」
こいつ、自分の方が優先されてるからとリリーに余裕を見せて。
あとで取っ組み合いに喧嘩になるのが見えてるんだからそんなに優しくしてやらなくても良いんだぞ?
リリーをいじめてたら何故か正気度が1減っていた。
なんでだよ!
増えるのは侵食度だけにしろって!
正気度は増えろ! 回復しろぉおおお!!
俺の叫びは街の雑踏の中に虚しく消えた。
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