第13話 幻影

 アキカゼさんの説明によるならば、幻影とは己の相棒になる代わりに不死へと変貌する。

 魂で結ばれた関係と言えばいいのか?

 手足のように扱き使える代わりに、耐性関連が初期化されると聞いて大いに悩んでいた。


 今までの過剰スペックは仮契約児の能力説明ときた。

 このように成長させることが可能。

 そこへ至らせるのはマスター次第。

 全く面倒なことになりやがった。



『|◉〻◉)何か問題が?』


『お前まで心に話しかけてくんじゃねーよ』


『|⌒〻⌒)失敬』



 幻影となれたことが嬉しいのか、いままで以上に気安い。

 ニコニコするリリーと打って変わって、自分の場所を取られたと村正の焦り具合が手にとるようにわかった。

 アキカゼさんはもう居ない。

 今後俺があそこまで活躍できるフィールドも無い。

 だが、これだけは言っておこうと思う。



「俺の相棒は初めて組んだ時からお前だけだよ、村正。こいつはペット枠だ」


「モーバ殿! 信じておったぞ!」



 ひっしと抱きつく村正と、ペット枠と聞いてガビーンとショックを受けるリリー。



『|◉〻◉)聞き捨てなりません、マスター! 僕のどこに不満が?』


『全部』


『|◎〻◎)全部!?』


『そもそもお前のお試し期間は終了し、耐性が初期化。不死になった代わりに弱くなるとか雇用終了したいレベルなんだが?』


『|◉〻◉)え、アキカゼさんそんなこと言ったんですか? やだなぁ、僕の強さはマスターと出会った時の基準で、そこからの成長はお姉ちゃんと違いが出るって意味ですよぉ』


『あん? じゃあお前。今現在もマグマ耐性あるし、意味不明な自爆技使えんのか?』


『|ー〻ー)標準装備ですが?』



 あれ? じゃあこいつ普通に強くね?

 と言っても役割は変わらないんだが。

 レンタル中はその耐性をアテにした威力偵察と囮役。

 正直幻影化してもこいつの能力が一切見えねぇってのが不可解すぎるし。



「取り敢えずみんなに聞いてほしい。あ、歩きながらで良いぞ」


「いきなり無言になったかと思えば急に喋り出す。不気味極まりないぞ、モーバ」


「うるさいぞパスカル」


「はいはい、案内人は黙ってますよ」



 パスカルはまたも音の精霊の上位種の場所へと案内しているのだろう、新たなアトラクションマップが眼前に現れる。

 誰だ、こいつに道案内を任せたのは!

 そうだよ俺だよ!



「オメガキャノンは冷凍ビーム、ジャスミンはナビゲートフェアリー。それ以外は妖精誘引で警戒しててくれ」


「了解」


「なんだかんだで指示は出すのな?」


「名目上はリーダーだしな。あと配信中だ、恥は晒せねぇんだよ。察しろ」


【意外と苦労人だよな、モーバ】

【リーダーなんてなるべくゴメンしたいもんだぞ?】

【不定期でクレクレして来る言うこと聞かないメンバー居れば誰でもリーダーしたくないだろ】

【烏合の衆なんだよなぁ】

【よく纏まってる方だよ、このメンツにしては】

【ある意味で俺らスペックだから心配なんだよ】

【だがそこが良い!】



 なんだか変なリスナーがついたもんだぜ。

 だがそれで良いわ。肩の力も抜けるし、なんだかんだ過剰に期待される方が疲れるし。



「あ、あとこれは俺の見解だが、妖精誘引は手のひらから自分の周囲に広げる感覚で使えば被弾はしない」


「マジか?」


「さっきの受け流しはそれだ。今まではどっちかと言えば手元に集める感覚で使ってなかったか?」


「そりゃ読んで字の如くって奴だ。だがそうか、防御結界みたいに使えば良いんだな?」


「その方がコストが安く済むってだけだ。回復手段はあるが、同時に上限もある。自動回復で収めたいもんだぜ。な、陸ルート?」


「つまり不可視の攻撃もそれで防げたと?」


「次は気をつけろって意味だよ」


「了解した」



 足は飾りだとばかりに下半身をパージし、ジェット噴射で胴体だけついて来る陸ルートは返事だけはしっかりと返す。

 ボソボソ言わなくなったのだけが救いだよ、マジ。



「じゃあ攻撃も妖精誘引を纏わせれば貫通するのでは?」



 それは村正の閃きだった。

 たしかに、それも可能だろう。



「余裕が有ればしても構わないが、自然回復推奨派のお前が珍しいな? やっぱ自分の斬撃が弾かれたのが悔しいか?」


「それもある、が本心は少し異なる。これは某の見解なのだが、もしそれが可能ならば地下攻略の鍵となるのは水の精霊ではないかと思ってな」


【マジならこれ以上ないってほどの情報だわ】

【マジならな】

【精巧超人もアキカゼさんも出してねーよな、コレ?】

【あの人達は基本スペックが化け物すぎてなんの参考にもならないから】

【それwww】

【一見して素人レベルのアキカゼさんはいつも訳わかんないことやってるから】

【引きが異常なんよ、あの人】

【雑談枠で攻略するなってあれほど】


「まぁ、村正がそう思うなら俺はそれでも良いと思うぜ? 回避は俺に任せな?」


「無論! モーバ殿が背を守ってくれると信頼してくれるからこその提案だ」


【こいつら仲良いよな】

【親公認だぞ】

【公認はしてないが?(全ギレ)】

【やべ、親が出てきた】

【これがニャル様だったら死人出てたぞ?】

【先程は災難でしたね】

【こんな初心者配信にまさか来るとは思わんやろwww】

【アキカゼさんとこの常連でさえも無慈悲に死ぬからな】

【あそこでボケかますの上級者しかおらんやろ】

【上級者の集まる配信】

【類友って奴だよ】

【何を言っても許してくれる配信者だから居心地いいんだよ、あそこ】

【いまだに収益化してないの意味不明だけどな】

【とっくに基準満たしてるやろ】

【ご本人曰く趣味らしい。趣味で本気勢の稼ぎを奪うのは気がひけるらしい】

【配信ガチ勢は涙拭けよ】



 いつの世も雑談は話しが脱線する物だが、この脱線具合はアキカゼさんところの影響もあるのか?

 村正と仲良しムーブしてて良かったぜ。案の定親父さんが閲覧、もとい偵察してやがる。

 実は地下まで見学に来てるんじゃねーか?

 物資搬入係って言ってたけど、契りくらいは交わしてるだろうと推測してる。



「リーダー、朗報と悲報どっちから聞く?」



 そこでアトラクションゴリ押し担当のオメガキャノンが弱音とも強気の発言とも取れる提案をして来る。



「じゃあ朗報から」


「俺の武器が目の前のアトラクションに一切効果がない。回り道を提案する」


「おい、それのどこが朗報だ?」


「危険が少ない提案だ」


【確かに極悪非道のオメガキャノンらしくないな】

【こいつ自分の武器が強化されるなら仲間の犠牲も厭わないからな】

【まさにマッドサイエンティスト】


「お前らからの俺への信頼をどうも」


「それで悲報の方は?」


「音の精霊に捕捉された。迂回しても接触するのは時間の問題だろう、どうする?」


【草www】

【もう逃げ場はないぞってか】

【そもそも音の精霊ってどんな奴?】

【情報不足なんだわ】

【音の精霊だけ徘徊型だったか】


「向こうから来てくれるんなら無理して渡る必要ねーだろ、安全地帯まで引くぞ」


「いや、リーダー。アキカゼさんからの情報では音の精霊はエリアを使った攻撃をして来るポルターガイスト系だと聞く」


「聞いてないんだが? 情報出すのが遅いぞパスカル」


「聞かれなかったからな」


【こいつwww】

【こんな奴らをまとめなきゃいけないリーダーかわいそう】

【ハマれば強いがそれ以外だと胃がマッハで死ぬ件】

【モーバ可哀想】

【同情するな、こいつ褒めると調子に乗るタイプだからな】


「取り敢えずリリー、お前の力を発揮する時が来たぞ」


「|◉〻◉)なんだってやってやりますよ! で、何をすれば良いんです?」


「囮役」



 リリーに肩(?)ポンしながらにっこりと微笑む。

 外道な作戦内容だが本人はやる気を示す。

 それでこそだ!

 ここで不死を生かさないでどうするっつー奴だな。


 なるべくなら犠牲は少なく行きたいからな。



「リーダー、接敵まであと30秒!」


「さぁて総員、戦闘態勢だ。リリー、ここから先はお前の宴会芸の出番だ。期待してるぜぇ!?」


「|◉〻◉)僕が一番輝ける場所ですね? 任せてください」


「リリー殿、頑張るでござるぞ? 決して無理はせぬようにな?」


「|◉〻◉)ええ、マスターからの信頼は僕だけが引き取りますから、村正さんは安全地帯で僕の勇姿を見守っててください!」


「は?」



 それはまさに火に油を注ぐと言った風。

 冷え切ったガチトーンの村正が、心配していた表情を一変させてリリーの横に立つ。

 おいおいおい、そこで張り合う必要ねーだろ。

 ったく、沸点の低い奴らだ。

 はぁ、こうなったら俺も出るしかない。


 もうどうにでもなれ!



「接敵!」



 オメガキャノンの報告と同時、ドシン! とエリア全体が縦揺れを起こした。

 地の契りを3つ結んだ俺たちでさえその姿を見抜くことはできず、ただただ立ち尽くす俺たち。

 故に上位精霊。


 見えない、故に攻撃手段が理解できない。

 これが風の精霊ならば本体が見えたが、今度はマジで何も、気配すらありゃしなかった。

 こんなのどうやって攻略すりゃ良いんだよ!

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