第31話
朝ご飯は冷蔵庫の中にあったジュリの作り置きの一つの味玉、昨日の残りの白飯、味噌汁、唐揚げにした。唐揚げはきっと朝ご飯用にとジュリが気を利かせて残してくれたのだろう。
キャベツもあったためシバがざっくりと刻んでさらにどんと盛った。
「すごい量だな」
朝から栄養は大事だぞ。ふと思ったがジュリはどこに行ったのかとシバはスマホをようやく確認してみると案の定ジュリからのメールがあった。
朝ご飯は作り置きから適当に食べておいて、そして遅刻だけはしないでとのことだった。
きっと校内にあるジュリの寝泊まりする部屋にでも帰ったのだろうかと一応メールに返信した。
『ありがとう。ちゃんと起きましたよ。ご飯も食べたら朝練前に開校準備します。昨晩はご馳走様でした』
と。
「いただきます」
「いただきます」
とくにふたりは昨晩何があったとか先程の浴室での出来事のことを言うわけでもなく、朝ご飯を食べ始める。
だが1分もしないうちにシバは
「あのさ……」
と声を発した。
「なんだ」
シバの方を見ずに食をすすめる。
「昨晩のことは、その……また事故案件か」
「……」
「その、俺珍しく酔い潰れたみたいでさ……気づいたら意識なくなってさ。珍しいんだよこんなこと。んで全裸でお前も全裸でさ。コンドームも二つ使ってあったし……そのさ、あの……」
珍しく狼狽えるシバ。相反して湊音は今回は冷静のようだ。
「……さっきあんなことして昨晩のことは事故ってことか?」
「……だな」
「だな、じゃないだろ」
「へへへっ、あーうまいうまい」
すると湊音がシバをすごく睨んでいる。
「まずは昨日の夜のこと、教えてくれないか」
そうシバは聞くしかなかった。
話を要約すると途中で意識を失ったシバ。息はしていたため湊音とジュリがベッドまで運んでジュリがタオルを濡らしに行っている間にシバの意識が戻ったところ湊音を何を思ってか押し倒してそのままセックスをしたとのことである。
「……そうだったのか」
「本当に記憶になかったのか」
「あぁ。てかお前は今回記憶にあったのか」
と言った瞬間に湊音はキッと顔をしかめた。
「こっちは鮮明に覚えている……珍しく酒に酔わなかったんだ。なのにあんたは」
「すまん、ひどいことはしなかったか」
「……」
湊音は顔を赤らめた。表情でわかりやすい男である。
「理事長が部屋に入ろうとしたと思うんだけど入らずにそのまま帰っちゃったから……きっとその、見られたか聞かれたか」
「それは気まずいなぁ。メールの感じではそこまで怒ってなさそうだったけど」
「……気まずいどころじゃないだろ」
「だなぁ」
湊音はあっという間に自分の分をたいらげた。
「押し倒したってことは無理矢理だったろ、すまん」
「なぜかベッドのところにローションとコンドームあったからべつにいい」
はっとシバは思い出した。ベッドのところに置いてあるのはジュリが勝手に置いたものである。まさかそれを使ったのか……自分はと。
「……相手は理事長だろ」
「えっ」
「ずっと理事長はシバの横でいろいろやってたし、あの作り置きも……愛人か? そういう関係だったのか。そうじゃないとお前みたいな野蛮な男は採用されないもんな」
「あ、愛人だなんて!!! た、ただジュリが……居候っていうかなんというか……って俺のことを野蛮だなんて」
「野蛮だろ!さっきもずっと俺の身体を匂って……しかも触って……」
シバはさっきの浴室内のことを思い出した。匂った後に湊音のものが反応していて……あぁとシバは頭を抱えた。
「つい欲望のままに……」
「欲望のままにって本当に最低だな! あぁ、そうだ。こないだのも今回の件も事故だ。しかも今朝のは完全に自覚ありの事故だ!!!」
顔を真っ赤に湊音は立ち上がって大声を出す。だがシバが蘇った記憶では
『もっと抱いてっ……抱いて……』
と目をとろんとさせてシバを見つめて求めている湊音がいた。
「何を言う! 事故とかいうけどそんなに俺に抱かれるのが嫌か?! あんなに求めてたのに」
「……そ、それは理性がぐちゃぐちゃでうっかり」
「うっかりってなんだよ……お前大丈夫か? って俺に言われたくないか」
湊音は顔を背け食器を流し場まで持っていく。荒く食器を洗う。シバもついていく。
「……お前は同性の恋人いるんだろ。そういう関係も……」
「ああいるさ、でも……でも」
シバが湊音の手を掴む。
「ちゃんとお前ははっきり言えよ。でもでもとか……」
「やめてよ!」
と湊音が手を振り払った瞬間、持っていたグラスを割ってしまった。
「ああっ」
「素手で触るな、湊音」
「……」
再びシバは湊音の泡だらけの手を掴んだ。じっと二人見つめ合う。
「男と付き合うの初めてでさ。今まで女だけだったのに……なんで僕は男をって」
湊音がそう言った。
「不思議とそいつのこと……好きになってキスしたくなって、身体を委ねた。抱かれて、キスして幸せな気持ちだったけどまだ自分の中でなんで僕は男と……て葛藤してる」
「受け入れられないのか」
「……」
「だから今うまくいってないのか、恋人と」
なんで知ってるのか? という顔をしながらもうん、と湊音は首を縦に振った。
「久しぶりのセックスだったから……、気持ちいことは気持ちいんだけども複雑なんだ。お前はどうなんだ……?」
シバはウーンと考えてから
「ん? 俺は女が好きだし、もっぱら女としかやんねぇけど穴あればまぁ……ゲイではないがな」
「最低」
湊音に手を振り解かれた。
「ああ、最低ですもの。わかってる」
シバは笑った。
「相手が異性だろうが同性だろうが通じ合ってればいいんじゃね? 異性でもうまくいかない奴もいるし、もちろん同性でも」
と、シバは言うが。
「お前は異種混合、穴があればいい奴だもんな」
「うわ、そんなイメージついちまったか」
「……ああ」
「そんな俺を受け入れてくれてありがとうな」
「……」
それ以降湊音は喋らなかった。
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