スタート!
第23話
休み明けの朝。先に起きていた朝ご飯はジュリに作ってもらいそのまま二人で寮の部屋を出る。まだ一人では学校を開ける準備ができないシバ。
ジュリはもうシバの部屋に居座るようだ。でもある意味曰く付きのこの部屋だが……シバもまぁいいかと思っている。
階段を降りるとちょうど弥富が出てきた。きっとジュリのヒールの音が階段で響いたかもしれない。
「おはようございます、シバさ……んと理事長!」
弥富はびっくりしている。寝癖だらけ。前日は家族が遠くから泊まりに来ていて家族サービスをしていた彼だったが家族が帰った後にお気に入りの女の子を呼び寄せて、朝早いうちに帰えしているのはシバもジュリも知っている。
シバと一緒にジュリが降りてきたのを見た弥富は混乱している。
「……理事長がなぜシバさんと」
シバはヤバっと思ったが、ジュリは余裕そうに微笑む。
「おはよう、弥富先生。寮の点検をしてましたのよ。あなたも朝早いのですね」
「あ、それはお疲れ様です!」
「シバさんも用務員の仕事始めたばかりですし色々アレやらこれやら教えてあげてるのよ、ねぇ」
シバは大きく縦に頷いた。弥富は首を傾げる。
「てかさぁ、シバちゃん……昨晩も女の子連れ込んで。味しめちゃってるんじゃないの?」
「……さぁ、弥富さんほどではないですけどね。昨晩お互いにお疲れ様でした」
とシバが返すと互いに笑い合う。
ジュリがシバの腕を掴む。
「さっさと行くわよ」
「ハイハイ」
「まぁあいつの弱み握っているから何か言われたら任せておいて」
「ああ、女の子連れ込んでる件ね」
「違う違う、あの人は前の学校で不倫して解雇されてるのよ」
「うへへー、なんかますます親近感ーいてて」
ジュリはシバの耳を引っ張る。
「でも何で雇ったんだよ、あいつを」
「弥富先生はクイズ王で実はその全国大会に3年連続出場して最後は優勝しているのよ。基礎学力だけでなくて雑学から芸能にも長けてて、なおかつ瞬発力と運を併せ持っていたのよ。でクイズ研究部顧問として去年から来てもらってるんだけど今年ようやく全国大会に行けたって訳」
「ふぅん……てかまずクイズ大会遠征費から削りましょうよ」
「え」
シバはニヤッと笑った。
「あいつの弱み握ってるから」
朝の施錠解除や支度が終わったシバは次に剣道場に行く。そこにはなんと部員全員が既にきていた。
シバは遠くから見守ってる。宮部が真ん中に立ち部員たち全員に指導する。
「まずは準備体操は念入りに。ストレッチも。あとは走り込みだ。どうだ、こないだのシバ先生の指導で痛めたところはもうなおむてるだろ。二日もあれば。まずは打倒、冬月シバ! 気を抜くな!」
「おっす!!!」
前よりも明らかに気合の入れ方が違う剣道部部員たち。
「なにそこにいんの」
湊音がシバの後ろから急に現れてシバはびっくりして隠れていたところから出てしまった。
「おはようございます!」
シバと湊音の姿に気づいた部員たちが大きな声で挨拶する。この間はそんな元気な大きな挨拶ではなかった。
それには流石に二人は驚くがシバも
「おはよう! みんな元気だなぁーゾンビが生き返ったな!」
と返す。湊音がおいおいという顔をしているが。
「シバ先生……先日は稽古ありがとうございました。まだまだ僕らの力が未熟すぎる、 と実感しました」
「いやいや、俺も加減しなかったのがいけなかった。怪我の方はどうか? ……一応理事長からも剣道部の顧問を正式に任された。これからもよろしくお願い、します……」
シバは珍しく深々と頭を下げた。自分自身の生活もかかっている、いつまでも自分より格下の者に教えたくないというプライドは捨てなくてはいけないと思っていたのだがなぜか部員たちの代わりっぷりにびっくりしている。
「お願いします!」
すぐ返ってくる返事も覇気がある。
「シバ先生、先日駅前のひったくり犯を捕まえた時のこと……あんなこと僕らは、警察官の兄を持つ僕ですら咄嗟に動くことができませんでした。怪我を顧みず勇敢に立ち向かう姿に心打たれました!」
「ああ、あの時の……」
シバはそこまで……と照れ臭そうにする。
「何だ、シバ先生だったのか。こないだの……」
湊音は意外なシバの行動にびっくりしていた。
「いやつい昔のクセが」
シバの元に宮野が近寄る。
「それに僕があの時右手首を捻って……それを覚えててくださったんですね。稽古の時は右手は絶対攻撃しなかった」
「いや、そりゃー怪我してたのわかってたらそこを狙うのはできないだろ。まぁ時と場合によるけど」
そのとき宮野がシバの手を掴んだ。
「この間は本当に申し訳ありませんでした! 兄はこんな素晴らしい方の元働いていたんだと……最近あなたは連絡取れませんが、なんか兄を感じます!」
「は、はぁ……」
さらに力強く握られる。かなり強い力だ。
「僕ら、心を入れ替え……シバ先生、湊音先生の指導のもと練習に励みます。よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!!」
シバも湊音もかわりっぷりに唖然とする。深々と頭を下げる部員たち。
湊音がシバの肩を叩く。
「よし、みんな。これからは僕とシバ先生二人でお前らを指導していく。次の大会は絶対優勝してまずは県大会突破、そして全国大会優勝目指すぞ!」
湊音がそう言うと
「はい!」
とすぐ大きな返事が。湊音は大島先生の代わりに一人で指導してきた時はこんなことがなかったのか少し感動している。
「あと……恐縮ですが我々にはもう一つ目標が」
と宮野。
「なんだ? 望みは大きく高く、素晴らしいことだぞ」
ニヤッとシバがいう。
「打倒! 冬月シバ! もうあれから悔しくて部員たちはうずうずしております。夕方にはまた稽古をお願いします!」
「お願いします!!」
「うえっ……」
「がんばれ、シバ先生」
湊音に肩を叩かれシバははははっと笑い
「かかってこい! 今から腹筋50回!」
「はい!!!」
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