第22話

「湊音先生の前の奥さんも同業者なのよ」

 本人に聞かなくてもジュリがそう教えてくれた。


 次の日の朝……やはり自分の部屋にはジュリはいた。夜ももちろん二人で過ごす。

 シバにとっては好都合の相手となってしまった。

 朝ご飯を食べてその延長線上で一週間の作り置きを作るジュリ。しかも二人分。


「へー、てか湊音はなんで離婚したの」

「間違ってもあなたみたいに女作って、ではないわ。あの二人は社畜のように働いてたからすれ違い、てとこかしら。奥さんの方は隣町の高校で美人教師って有名でね。今も通信塾の看板講師やってる」

 とジュリが手を止めてスマホでささっと検索してシバに見せる。


 公美の息子が通ってる通信塾の……と思いつつも確かに美人である。

「こんな美人と結婚してたのかよ……不釣り合いだな」

「でしょ。わたしも思ってた。まぁ少し湊音先生ファッションに気を使うようになったけど少し前はダサかったしね。ちなみに学生結婚」

「へーっ! デキ婚?」

「じゃないのよ」

「だって養育費払ってるって……」

「……ああ、認知した子供はいるって」

「ほぉ……なんか色々ありそーな」

「あまり深入りしないほうがいいわよ、てもう深入りしてるか」

 ジュリは笑った。後ろからシバが抱きつく。


「もぉ、なぁに? 今料理中」

「美味しそうだな、相変わらず」

「でもこれはわたしとあなたの。また勝手に部屋に入れて食べさせないでね」

 シバはジュリにキスをする。


「でも美味しいって喜んでたぞ」

「嬉しいけどさぁ……」

「ジュリだって色々あるのか?」

 ジュリの手が止まった。


「家族のところに帰らなくていいのか?」

「……」

「どうして俺とセックスするんだ?」

「もちろん、好きだからよ」

「……奥さんと子供にはもう愛はないのに離婚はしないのか?」


 シバはそういうがジュリは振り向いて


「離婚したくてもできないのよ。学校の運営上、彼女の家の資産も必要だし。あっちは一人娘だから子孫を絶やして欲しくないし、昔から色々とつながりがあるからねぇ」

 と言う。


「政略結婚か」

「まぁそういうこと。家族たちは経営重視で同性愛者であるわたしの尊重無視よ。まぁ夫婦関係崩壊してるからどっちかが切り出せばいいことなんだけどさ」

「ふぅん、でも……」


 ジュリの耳元のピアスを触る。


「会ったときに気になってはいたが三つの異なる宝石のピアス……誕生石か?」

「……」

「小さいのは子供か。やっぱり子供は特別だなぁ」

「……あんたもかい?」

「ああ。今はあっちはハワイでな。離れ離れだが……愛おしい三人の娘たち。親のいざこざというか俺の不甲斐なさで……こんな父親で申し訳ないって感じだよ。せめての償いが養育費、てとこかな」


 と、カッコよく言うが少し前に養育費と慰謝料の支払いができないとヒーヒー言ってたシバだった気もするが。


「……とにかく頑張りなさいよ、シバ。養育費とかあるけどさ。剣道部立て直しなさいよぉ」

「はいはい」

「ふふふ。剣道部顧問二人は本当に色々曰く付きで大変だわぁ」

「その剣道部のある高校の理事長であるお前もだろ」


 二人はイチャイチャ。だがシバは何かを思い出した。


「あんさぁ、剣道室のメンテナンス……どうにかならんか?」

「……ああ……あー」

「全施設に監視カメラとスピーカーシステムつけられるならあの道場の畳入れ替えだけでもしてもらえんのか? 剣道部の予算ってどうなってるのか?」

 ジュリは目が泳ぐ。


「そのね、剣道部の予算は減らしてね」

「なぬっ!」

「しょうがないのよ。理数科の生徒が全国クイズ大会の全国大会に出場決まっちゃって……あと数学オリンピックで海外大会に行く生徒が数人、今まで県大会に行ってなかった卓球部が不戦勝で出場決まってしまったのよ」

 全国クイズ大会、となると……シバはあの毎年夏過ぎにやっている高校生のクイズ大会かとすぐ思いついた。

 にしてもタイミングが重なりすぎである。


「大島先生が事故にあって一年間……弱ってしまった剣道部員たち。そこにお金かけるよりか今の日に伸びてる方にお金かけたほうがいいじゃない」

「けども……あれはひどい。稽古したくなくなる。あと……剣道場だけてなくて学校の施設所々真新しい手すりやスロープがあったが大島先生のためか?」

「そうね……卒業生徒、保護者の方々が有志で集めてくれて。それだけ優秀で慕われていたってことよ。でもあれだけ整備したけども……大島先生は亡くなってしまいましたけどね」


 ジュリの表情は暗くなる。かと思ったら

「あなたのお給料を減らしたら少しは足しにはなるかもね」

 という有様。シバはそれだけは嫌だと首を横に振る。


「……ああ、どすりゃいいんだ? その全国クイズ大会や数学オリンピックの優勝金額とかで」

「何言ってるの、そのお金はその次の出場のためのお金に回るの。まぁ残ることもあるけど……」


 ううむ、とシバは悩む。と同時にそんなカツカツなのも変に感じるシバ。

「あの監視カメラとか管理システムとかそういう先進的な流行りものに金を注ぎ込みすぎだよ。クイズ大会とか数学オリンピックとかも……しかり。それに全国から先生を集めてってなぁ……無駄なこと多すぎんだよっ……ぬぁっ!!」

 ジュリがすごく睨みつけシバの頬を片手で挟んだ。


「つべこべいうな。わたしの経営方針に口出し、ダメ出しするな。お前を首にして2年も待たずして剣道部を廃部にしてやる……!」

「それだけは……勘弁」

「冗談……いや半分は冗談ではない」

 シバは苦笑いして本当にどうにかしないとダメだと思った。


 が、そこがシバの底力。スマホを取り出して文字を打つ。

「何やってんのよ。どっかの女にメールしてんの?」

「……まぁそれはそうだけども」

「ほんといやんなっちゃう」

 だがそれはただのシバの女ではなかったりもしたり?

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