第5話

 シャワーはシンプルな作りだがきれいに掃除をこまめにしており新品そのものであった。ボディソープも高級品でシャンプートリートメント、ボディウオッシュと一本で全身洗える、顔までもOKとのことでありシバはこういうのがいいんだよなぁと一気に全身を洗う。


 セックスをする前にはしっかり体洗いなさいよ、と李仁にも言われたよな。


 男とする前は特にと言われたもののジュリとする前には洗わなかったがまぁいいかと。ジュリも清潔そのものだったからある程度気にかけているのだろう。


 ほのかにいい匂いがする。ジュリの身体からこの匂いがしたからきっとシバに会う前にシャワーでも浴びたのだろうか、そう思いながら数ヶ月前にあったきりの李仁のことをまた思い返す。


 他の男を抱いてこれまた他の男を思ってしまうのはなんてことだろうか、でもそれこそが冬月シバという男である。






 免許更新センターを辞めたあたりであったろうか。


 シバがそこの社員寮を出ることになりキャリーケースをひいて向かった先は元風俗嬢の女の子の元であったが、もう彼女は半年の間に他の男と交際しており一緒にいるところを目撃してしまい絶望を感じ、ふらふらっと立ち寄ったのが李仁のバーであった。


 シバが刑事をやめたと同時に裏のルートとのつながりを止めたらしいとは噂に聞いてはいたシバ。李仁はシバを見るなり店の鍵を閉めて2人きりになりキスをした。


 しかしどことなく寂しそうな顔をしてみている李仁に対してシバはとにかく宿を見つけたいのと性の捌け口が欲しくて李仁に求めたが平手打ちされた。そして追い出されたのだ。


 誘ってきたのはそっちの方だろ、とシバはいう前に店から出された。


 そしてバーが営業をせず数日もしないうちに店は無くなっていたのだ。





「もうあれ以来か……」

 シバはシャワーを止めて足元の泡が排水溝に流れていくのを見る。

「なんか俺はいけないことをしたのか?」

 理解できないまま李仁とは会えない、連絡も取れない。あの辺りに行っても会うこともできない。


 運良くたまたま数年前にナンパで仲良くなった大学生にしばらく泊めさせて仕事も次のものを瀧本からもらったから良かったものの、数日、いや数ヶ月経った今でも何か胸にしこりが残るほどショックであった。


 せめてシバに大して何か理由を言っていたらきっと今こんなにも思い返すこともなかったのだろう。


「タオル、持ってきたわ。もう湊音くん剣道場にいるらしいから早く着替えてちょうだい」


 声をかけずにジュリがカーテンを開けた。


「おう、てか声かけろよ」

「悪かったわね。あらシャンプーまでもしたの。髪の毛量が多いのに乾かす時間も考えなさいよ、ドライヤーないからさっさとタオルドライしないと風邪もひく」


 ジュリはかなり口調がきつめであった。


「そんなことで風邪はひかない。普通に歩いてりゃあ乾くわ」


 裸のまま外に出て保健室で堂々と歩き服を着る。さっぱりとした全身。匂いはジュリと同じ匂いになってしまったと思いながらもベッドを見るとシーツはもう入れ替えてあった。洗濯機の音も聞こえる。


 シバは着替え終わり足早にジュリはシバを剣道室に案内する。あんな高いヒールで早く歩けるなぁと思いつつもシバは校内を見渡す。


「ここはおじいちゃんの代からある学校でね。父が急に亡くなって早くに理事長の座に就任することになったけども学校運営も楽しいものよ」


 シバが聞かなくてもそうジュリは答えてくれた。


 丁寧に無駄な雑草はないが自然は残してはいる。


 そして五分ほど歩いたところに剣道室の建物が見えてきた。


「少し校門から遠いけどそこまでの距離もいい運動と思えばいいでしょ」


 ジュリが扉を開けた。かなり重々しい扉。これも古くからある建物であろう、塗り替えて入るもののすぐにシバはわかったようだ。



「湊音先生、遅くなりました。顧問をしてくれる冬月さんを連れてきましたよ」


 と部屋の中に声をかけるジュリ。シバも遅れて入る。匂いは井草の独特の匂い。悪くはない。だがもうしばらく替えてはいないのだろう。


「……どうも」


 剣道室の真ん中に座っていた1人のメガネをかけた男。ジュリを見るなり立ち上がって2人の元へ。

 立ち上がると明らかにシバよりも背が低い。ジュリも畳に上がる際にヒールを脱いだから低くはなったがさらに低い。160センチ台だろうとシバが予想した。


「初めまして、冬月さん。僕は剣道部顧問、槻山湊音です」

「冬月シバだ、よろしく」


 見上げる湊音の目はとてもクルッとして幼い顔つきである。

 目はあまり合わせない湊音に対してシバはじっと見つめるがやはり視線を逸らされた。


「少し人見知りな先生だから揶揄わないでちょうだいね」

「……揶揄ってはないです」


 湊音は俯いていた。


 それがシバと湊音の初めての出会いであった。

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