第十話 露木さん、死後の世界ってどこですか?
それでですね、皆さんも気になっていると思うんですが、ここってどこなんでしょう。
そもそも、私たちって生きているんでしょうか? それとも、もう死んでしまっているんでしょうか?
今は肉体があると感じられますよね。呼吸もしているし、少しお腹が減って来たし、喉も乾いています。筋肉も動くし、血が流れていることも実感していますよね。
ただ、私は死んだ状態というのがわかりません。死んだことなんてありませんから。いや、記憶の中では何度か死んだことになっています。でも、それは勘違いだとも考えられますし、臨死体験なんていうのも、結局は生きている人が語っていることにしか過ぎないですよね。
そのことを考えると、
え、ええ。いえいえ、だから、私は露木さんのお話を否定しているわけじゃないんです。それは理解いただきたいところです。
私も何度か死ぬような体験をしたと、お話させていただきました。
おかしいと思いますか。人間はそう何度も死ねるものじゃない。そもそも、私は死後の世界なんて知らないと言ったじゃないかと。
矛盾している。そう思いますか。私もそう思わないでもないですよ。でも、死後の世界に行ったなんて、思ったことないんです。
あなたたちはどう思うんです? 皆さん、死んだ経験がありますよね。
ああ、そう。
あれ?
そうすると、伝吉さんや降屋さんも死んでいないとは断言できないんですね。
度々ですみませんが、思い出話をさせていただきますね。
私はその時、死にました。それが、なんで死んだのかは覚えていないのです。
実験が終了したので、寄見に殺されることになったのかもしれません。それとも、敵に遭遇して喰い殺されてしまったのでしょうか。あるいは、御三方と同じように核戦争に巻き込まれたのかもしれません。
とにかく、私は死にました。その直後、私は海の中に浮かんでいました。驚くべきことに、海中だというのに呼吸をする必要がありません。いえ、それは正確ではないのですが、呼吸をする頻度が少ないことは確かでした。
「不思議だね。僕はこんなに長い間、水の中に潜っていられる」
私はどうやら幼い子供のようです。それに対して、お父さんが返事をします。
「はっはっは、何を言っているんだ、
お父さんはそんなことを言います。死後の世界では海の中で暮らすものなんでしょうか。私はしばらくのんびりしていました。
ですが、やはり人間なのです。呼吸が必要でした。海中で暮らせるわけがありません。息が苦しくなってきました。
「お父さん、僕……」
その後の言葉は言えませんでした。息が苦しいということは、生きている人間だと告白しているようなものです。それによって、どんなことが起きるのでしょうか。
お父さんは悪鬼としての本性を剥き出しにするかもしれません。鬼の仲間を呼んで折檻されるかも。
そんなことを考えると言葉に詰まります。呼吸のできない苦しさで私の頭はだんだん真っ白になりました。
真っ白な視界の中で聞こえてきた、お父さんの怒号とも慟哭とも取れない叫び声が耳の中に残っています。
ふふ、こんなものは臨死体験だ。そう言いたいですよね。私もそう思いますよ。こんなことは夢のようなものでしかないかもしれません。
死後の世界の体験なんて、そんなものでしかないんです。
うん? なんですか? 露木さん、怒っているんですか?
いやいやいや、そんなつもりじゃないんです。え? 今まで、煙に巻くような話ばかりで、全然結論に行かないですって? ま、まあ、そう取られても仕方ないかもしれませんね。
でも、次は違いますよ。
フリードさんについてのお話にはなりますが、これまでの結論とあわせて話したいと思っているんです。それと合わせて、私の結論と、この事態を解決する筋道について話させていただきます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます