ガンツ


「よし、合格だ!

許可証を持ってくるからここで待っていてくれ」

「はい!」

訓練所の講師をやっているゴンザさんに言われた。


やはり戦闘職でもないし戦闘に使えるスキルもないため、普通の人より時間がかかった。

でも今日、Dランク訓練の合格を遂にもらうことができた。


「待たせたな、これが許可証だ。

Eランクの間はこれがないとDランクの依頼は受けれないから気をつけろよ。」

「はい!師匠!」

「師匠なんて呼ぶなよ、前みたいにゴンザさんでいいよ」

「いえ、師匠の指導のおかげで人並みに戦えるようになりました!

とても感謝しています」

「そっそうか、まあトムは結構時間がかかったからな、弟子と言っても過言ではないか。


では弟子に合格祝いをやろう。

短剣だ」

師匠は左手に持っていた鞘が付いている短剣を俺の前に出した。


「えっ師匠これ結構いい物ですよね?

もらっちゃっていいんですか?」

「ああ。

もともと人一倍頑張るトムに、合格祝いに何かあげようと思っていたんだ。

それで、武器屋の店員さんにおすすめされてな。

これに決めたんだよ。

値段は気にするな、合格祝いなんだから。


あと進展したからな」

「ではありがたくいただきます。

あと進展とはなんですか?」

「きっきにするな、こっちの話だ。

ほらさっさと受け取りな」

師匠は押し付けるように短剣を渡してきた。


「よし、トムのDランク訓練を終了する。

いいか、俺の教えを守り必ず生きて帰ること。

命があればなんとかなる。」

「はい、必ず生きて帰ります!」

「よろしい、じゃあ今日の仕事は終わったから帰ることにするわ。

トムも気をつけて帰れよ、それじゃあな」

「師匠ありがとうございました」

訓練所の出口に向かっていく師匠の後ろ姿に頭を下げお礼を言った。


特に訓練所にいる理由もないので、短剣と許可証を持ち訓練所を出ると声をかけられた。


「ようトム、その紙を持っているということは、Dランクの依頼を受けられるようになったんだな」

声の主を見るとガンツがいた。


「ガンツ久しぶり!

そうなんだ、やっと合格できたんだよ」

「そうか、この日を待っていたぞ!

トム、俺たちとDランクの依頼を受けよう!」

「俺たち?」

「ああ、少しここで待っていろ俺のパーティーを紹介する」

少し待っていると女の子と男の子2人が来た。

「トム!この3人が俺のパーティーメンバーだ!」

メンバーは剣を持った身長がでかい男の子と杖を持った俺と身長が同じくらいの男の子。

そしてピンク色の髪。

「あれ?ミリメちゃんじゃん?

教会に勤めてたんじゃなかったっけ?」

「トムさんお久しぶりなのです。

トムさんの言った通り教会でお勤めしているなのですが、

ガンツさんが回復魔法を使えるメンバーが欲しいと何度も何度も教会も頼みに来たなのです。

なのでお仕事がお休みの時だけパーティーメンバーとして参加することにしたなのです」

ちょっと独特の言葉遣いをするこの子は唯一、ライトファンクラブに入らなかった女の子だ。


「そうなんだ、ガンツあんまりミリメちゃんに迷惑かけんなよ」

「ああ。あの時は完璧なパーティーを作ろうとして焦っていたからな、きちんと詫び入れてある。

ではトム、残りの2人を紹介しよう。

まずこの背の高い奴の名前はランザ、

剣を巧みに使える。

主に近距離攻撃を担当する。

そしてこのローブのやつがカイル、珍しい属性の雷を操る。

遠距離攻撃攻撃を担当する」

「ランザさん、カイルさん初めましてトムっていいます。

ガンツはよく暴走するので、ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」

ガンツは子供の頃から思い込みが強く、

よく周りに迷惑をかけていたので、

頭を下げよろしくお願いした。


「トムさんよろしく頼む。

たしかにガンツは考えなしに行動する時があるな、でも弟達を世話してる時に比べたらまだ楽だから大丈夫だよ」

「たしかに意味不明な行動するときあるよねー。

あっトムさんよろしくーカイルンって呼んでねー」

ランザさんに肯定するようなことをカイルさんが言った。


「トム、俺たちのパーティーは。

俺が敵からの攻撃を防ぎ、ランザとカイルが敵を攻撃する。そして傷ついた仲間をミリメが治す。

まさに理想的なパーティーだ。

だが欠点がある。

立ち回りが上手くいかないんだ。

ミリメは違うが、俺達は元々ソロで戦っていたから個人での戦闘はそれなりにできる。

だがパーティーになるとどう動けばいいかわからない。

そこでトムおまえだ。

昔からなにかの問題が起きた時、お前があいだに入り解決してきた。

つまりトムの指示に従えば、俺たちパーティーはスムーズに戦闘できるようになると確信している。

パーティーの形が完成するまででいい。

力を貸してくれないか」

「トムさん、ミリメからもお願いするのです。」

「うーん、

俺が入っても変わらないと思うぞ?」

「そこは大丈夫だ!俺の勘に間違いはない!」

ガンツが親指だけを立てた右手をこちらに向けながらドヤ顔をしていた。


「わかったよ、一緒に受けてみるよ」

「さすがはトム、英断だ!」

「あっでもすぐにDランクの依頼を受けるつもりじゃなかったから、準備不足なんだ。

一週間後でもいいかな?」

「もちろんだ!万全をもって事にあたる!

素晴らしい考えだ。

よし俺たちはトムが入ることを考えて少し特訓していこう!

ではトム、一週間後に会おう!

いくぞお前達!」

ガンツはそう言って訓練所に向かって行った。

「トムさん、一緒に受けるのを楽しみにしてるよ」

「じゃあねートムさん」

ランザさんもカイルさんも訓練所に向かった。


「トムさんと一緒に冒険できるのはとっても楽しみなのです。

ではなのです」

「あっまってミリメちゃん、何時集合か知ってる?」

「知らないなのです。

そうだなのです、トムさんは明日商会にいるなのです?」

「うん、明日は受付にいると思うよ」

明日の仕事内容を思い出して答える。


「では明日商会に行って教るなのです」

「教会の仕事とは大丈夫なの?」

「明日は午前中で終わりなので大丈夫なのです」

「そっか、じゃあお願いするよ。

お礼に商会で売っているお弁当奢ってあげるよ」

「嬉しいなのです!商会のお弁当は人気すぎてなかなか買えないなのです!

明日が楽しみになってきなのです!


ではトムさん、お腹をすかせるために訓練してくるなのです!」

そう言ってミリメちゃんは訓練所に向かった。


「いや今からお腹をすかせても、意味ないでしょ」

ミリメちゃんの後ろ姿を見ながら呟いた。


明日弁当をもらえたミリメちゃんはあまりの嬉しさに商会の中で飛び跳ね、ある部分にみんなは釘付けになった。





「棍棒よし、短剣をよし、マル秘アイテムよし!

クルル兄からもらった特製ポーションよし!」

ギルドに向かう前に必要な物が確認する。

そして腰につけたバックに棍棒と短剣以外をそれぞれの所定の位置に入れてギルドに向かう。

寮を出るとミリメちゃんがいた。


「トムさん、一緒に行くなのです」

「いいよ、今日はよろしくね」

「はいなのです」

2人でギルドに行き他の3人と合流した。


ガンツ達が選んだ討伐依頼の内容は常時依頼といい、依頼達成書が必要ない物らしいので、すぐに魔物の森に向かい討伐を始めた。



「トム、やはり俺が見込んだ通りだ!

皆もそう思うだろ!」

「俺もそう思う。トムさんの指示はパーティーだけじゃなく、ソロの時でも通用するよ!」

「だよねーなんかみんなの力が合わさったって感じーでもカイルンって呼んでくれないのは不服ー」

「トムさんは今も昔もすごい人なのです」

ガンツ、ランザさん、カイルさん、ミリメちゃんはそれぞれの感想を言ってくる。


「いや、別に普通のこと言ってるだけだから」


俺はそんなにたいした指示は出してない、

普通に攻撃のタイミングを合わせたり、魔物の習性をいかして罠を張ったり、地形を利用する立ち回りを助言しただけだ。

ほとんど師匠に聞きまくって得た知識だ。


「トム!

謙遜は時に傲慢に見えるぞ!


まあ俺とは違い己の力を理解するのはなかなか難しいものか、だが感謝していることだけはわかっていてくれ。

ん?誰か倒れているぞ?」

ガンツの指がさした方を見ると血だらけの人がいた。

みんな急いでその人のところに向かい声をかける。


「おい、大丈夫か?

ミリメ回復魔法だ!」

「こんな傷ミリメの魔法じゃ無理なのです」

ガンツが指示するがミリメは断る。

たしかに無理だ、背中に3本の大きな傷がありそこから大量に血が流れてる。


「ガンツ!これを傷にふりかけてくれ!」

「赤い液体?まあいいトムが言うならきっと治るんだろう!」

そう言ってガンツは封を外しクルル兄からもらった赤いポーションを倒れている人にふりかけた。

液体のかかった箇所がどんどん修復されていく。


「う、う、う」

「おい大丈夫か?」

倒れていた人にガンツは呼びかける。


「に、にげろ、やつ、が、く、」

「やつとはなんだ!?」

そう言い残し倒れた人は意識を失った。


「ガンツ、よく見てこの人Cランクの冒険者だ。

やつってことはCランクの冒険者をこんな目に合わせられる何かがいるってことだよ。

ガンツこの人を連れて街に撤退しよう」

「指示に従おう。みんなもいいな」

ガンツ以外のパーティーメンバーは頷いた。


だが遅かった。


視線を感じた俺は、少し遠くの木の影から赤い目で、

こちらを覗いてくる巨大な姿をしたオーガを見つけた。




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