第555話 貴方は私にとって特別だと言うこと

「明日からリンちゃんは文化祭ね~」


 鮫島宅で夕飯をもてなされていると、話題は明日から行われる文化祭の話になった。


「リンちゃんのクラスはどんな出し物をするの~」

「猫耳メイド喫茶」

「え?」


 リンカの言葉にオレは耳を疑った。

 猫耳とメイドの融合を……秋葉原以外で見れる……だとぉ!? しかも、役作りした大人達ではなく現役の女子高生が、にゃんにゃん言いながら奉仕してくれる……だとぉ!?


「リンカちゃん……それは誰の発案だい?」

「……誰だっていいだろ。勝手に決まってて覚えて無いし」


 その様な発言を出来る戦士が男子に居るとは思えないな。考えられるのはヒカリちゃんかな?


「最近の高校生は凝った事をするのね~。お母さんの頃は~たこ焼き屋やりました~」

「そうなんだ」

「そうなの~外からの来場者も多くてね~お母さんは優秀な売り子だったのよ~運悪く雨が降ったのに~たこ焼き焼いていると皆足を止めて買ってくれたの~他校からの生徒も居て~ナンパも多かったわ~」

「それは凄い。ちなみにセナさん、高校では運動神経とかは良い方でした?」

「ん~。ちょっと苦手だったわね~。胸が邪魔で~」

「へー」


 さりげない質問で当時の様子を明かしていくのは社会人で培われた技術だ!

 セナさんの発言から推測するに、当時から異性を魅了する二つの実りは健在だったようだ。こりゃ、たこ焼きどころじゃねぇな!


「……上手く聞き出したな、オイ」


 その代償はリンカのゴミを見るような眼だった。


「ふふ。ケンゴ君はどんな文化祭だったの~?」


 話題はオレの方に振られる。そうか、年齢的にはオレも経験してると思われてるのか。


「オレの時は文化祭とか無かったんですよ」

「そうなの~?」

「そうなのか?」


 少し驚いた表情の鮫島母娘の質問が被る。


「オレってさ。20まで基本的には里で過ごしたから。高校生までの教育は全部里でだったんだ。だから、文化祭なんて外に出るまであることさえ知らなかったよ。強いて言うなら……秋に一度あるレンコン掘りかな? 泥の中に足を突っ込んで引っ張り出すの」

「じゃあ、祭りとかは何も無いのか?」

「鎮魂祭ってのはあったよ」

「鎮魂祭~?」

「うちの田舎って近くの山の間引きも仕事にしてるんですよ。年間で何匹も熊とか猪とかを仕留めるんで、その魂を敬う為に年に一回はあるんです」


 今年の鎮魂祭はもう終わったハズなので熊吉の魂を敬うのは来年だ。


「リンちゃんは~ケンゴ君の実家に行ったのよね~? どんな感じだった?」


 お、セナさんの質問は少し興味がある。

 『神ノ木の里』が外の人間からどう見られて居るのかをリンカ目線から語って貰おう。


「普通の田舎。ちょっと……物騒な感じはしたけど」


 デスヨネー。

 地図に写らず、道路に残る血痕、戦士の目をした三匹の戦犬に、縁側に転がるイルカの頭部(ルカ)。そして、それらを従えるのは国も頭を下げる我らがじっ様である!

 当時は当然だと思っていたが、冷静に考えると普通じゃないよなぁ。


「でも……景色は良かった。お母さんも好きになると思う」

「あら~。そうなの~?」


 リンカはオレが見せたあの時の景色を印象深く覚えてくれていた。

 母さんの好きな場所と景色を、リンカも好いてくれた事に、オレとしてはとても嬉しく感じた。


「良いところは他にも沢山あります。年末に帰った時は案内しますよ」

「ほんと~? 今から楽しみにしておくわね~」

「里総出でお出迎え致します」


 セナさんとリンカは美人母娘だ。それに、この実りを前にジジィズが頭を垂れる事は今からでも目に浮かぶ。


「ちなみに文化祭は明日からだけど、一般人の来場は明後日からだからな」

「あ、そうなんだ」


 明日は平日で仕事だったので、どのみち行くのは明後日になっていただろう。猫耳メイドは絶対にお目にかからなきゃならねぇ!


「でも、明日は何をするの?」

「なんか、学校内だけで色々と事前確認するんだって。火を扱う所とかもあるし」

「安全確認ってことね」


 例え三年生でも未成年である事は変わり無い。先生の見回りも限界があると思うし、必要最低限の処置だろう。


「変わりに何人かゲストが来るって。初日はあたしらをもてなす感じかな」

「誰が来るの~?」

「当日までわかんない」


 なるほど、学校側も色々と考えてるのね。

 何にせよ、オレが参戦するのは明後日から。そして……リンカからの告白の返事もその日になるだろう。






 明日から文化祭。

 初日は生徒だけで、何人かのゲストを迎え入れる事になる。

 それで、次の日からが一般人が入場する日だ。


「……うん。私もきちんと心を整理しないとね」


“綺麗になってたからさ”


 親友が彼を呼ぶ事は解っていた。

 だからこそ……いつまでも、心を定めずに曖昧にするのは彼と親友に申し訳が無い。

 故にこの気持ちをキチンと伝えなければならない。

 貴方が私にとって特別だと言うことを――

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