第454話 彼女の本質
母屋を肉薄したオレ達は潜入チームと退却チームの二つに分けて行動を開始した。
潜入チームは、オレ、アヤさん、ユウヒちゃんの三人。
退却チームは、ゲンじぃ、蓮斗、才蔵の三人。
「どうですか? ユウヒさん」
「うぬぬ……もう少し……」
「早く登ってくれ……この体勢は一番キツイ……」
作戦はシンプルで、潜入チームで母屋へコエちゃんを迎えに行って脱出。熊吉どもに見つかったら退却チームによる足止めと牽制で全員で帰還する流れだ。
武蔵と大和は、潜入チームが動く間、熊吉どもの注意を引く役目をお願いした。今も、ワンワン、吠える声が聞こえてくる。
そして、潜入チームは母屋の崖側の方向から潜入へのアプローチしていた。
オレは崖側に手をついて項垂れ、その肩にアヤさんが乗り、オレとアヤさんをよじ登る形でユウヒちゃんが天辺にいる。
「あの木を掴めれば……」
「掴み所をしっかり確かめてから登ってくださいね」
もう少しでユウヒちゃんは母屋の外堀へ登れそうだ。だが、問題はオレの方にある。
“下は何も身につけておりません”
これは、何故かオレに教えてくれたアヤさんの発言だ。つまり、彼女は着物の下は何も着けていないワケで、その身体を今オレが支えてるワケでね。
上を見る余裕なんて無いんだけど……オレも男だし、アヤさん可愛いし、そんな事を言われたら想像しちゃうわけよ。
こんな時に何考えてんだ? って思っただろ? そんな事でも考えなきゃ、人間二人分の体重負荷は耐えられんのよ。
「もう少しなのにー」
「ユウヒさん、跳んでください」
アヤさんはユウヒちゃんの靴裏を手の平で支えてそう言った。
三、二、一、とタイミングを計って押し上げると、ユウヒちゃんは外塀を掴む事が出来た。
「キャッ!」
「アヤさん!?」
しかし、不馴れな体勢で力を入れたアヤさんはオレの肩から足を滑らせて落下。
当然、オレは超反応を見せて彼女の下敷きになる。痛てて……
「す、すみません!」
「いや……アヤさんは怪我は無い――」
と、仰向けで受け止めたオレからアヤさんは慌てて退くが、落下の拍子に帯が緩んでアヤさんの胸元とヘソが露出!
それに気づいたアヤさんは咄嗟に両手で着物を覆ったが、オレに乗った状態からは動けそうにない。
オレは目を両手で覆い、セフル暗転。
「早く服を直して」
「は、はい!」
オレは冷静にそう言うが、彼女の胸とヘソが網膜に焼き付いていた。そして、本当に着物の下は何も着けて無かったし、履いて無かったよ。
「ユウヒちゃん、熊吉はいる?」
外塀から頭半分出して、母屋の様子を伺うユウヒちゃんをオレとアヤさんは崖下から見上げつつ問う。
「ここからじゃよく分かんない」
「近くに納屋は見える? 右側」
「うーん。あ! あるよ」
「そこの中にロープがあるから、結びつけて垂らしてくれる?」
「わかった」
そう言って、ユウヒちゃんは一旦、外塀の内側へ入って行った。
「大丈夫でしょうか?」
「武蔵と大和が注意を引いてるから、ある程度は」
吠える声が聞こえる。さっさと眠りたい熊吉どもからすれば鬱陶しい事この上ないハズだ。
ユウヒちゃんがロープを垂らしてくれるまで暫し退却。
「先程は、本当に申し訳ありませんでした」
「気にしなくていいって。誰が下に居てもああしただろうからさ」
「ケンゴ様は優しいのですね」
「アヤさん相手だと全人類優しくなるよ」
初対面の人と会話をするとその人間の第一印象が決まる。
大概の人間は愛想の良い“仮面”をつけるが、その本質は咄嗟の行動や会話の中に現れるのだ。そこで見える本質は取り繕う為に着けた“仮面”程度では隠しきる事は出来ない。
ジジィは、ソレを見極めて付き合う人間は選べと教えてくれた。
ジジィの教えと社会にも揉まれて、より洗練された見極めを持つオレからすれば、同じことで二度も謝ってくるアヤさんは本当に“優しい”のだろう。
「優しい人にはこっちも優しくしたくなるからね。知ってる? 人の感情って伝染するんだ。君のその優しさは回りの人にも良い影響を与えるよ」
鬼灯先輩とは別種の“
「……ありがとうございます」
アヤさんはそう微笑んでくれるが、少し影のある笑顔だ。後ろめたい何かを抱えている様な、そんな笑顔。
「アヤさん。何か悩みでもある?」
「……何故、そう思うのです?」
隠そうとしている? オレも無理には聞き出そうとは思わないけど……アヤさんの様子を見るに、ソレは彼女の今後に直結するような気がする。
「オレの会話の常套句みたいなモノでさ。さらっと聞いて相手の反応を見るの。何か尋問みたいな感じになってごめんね」
オレはあえて指摘せずにその事は気づいていない様に装う。
すると、アヤさんはペコリと一礼し、
「いえ。普段より、他者様の
アヤさんは極端だ。オレが感じた彼女の本質はソレであり、隠し事は苦手らしい。
つまり、正に対しても負に対しても“純粋”な反応を出すのだ。
“ゴルル!”
その時、熊の唸り声が母屋で聞こえた事にオレとアヤさんは、崖上の外堀を見上げた。
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