第443話 宝探し
「最低限の飯は食っているか」
ジョージは探索範囲を広げつつ、熊のフンを見つけた。
熊は本来は群れない。故に複数が集まれば縄張りを巡って争うか、バラバラに去るのが通例だろう。しかし、今回は――
「熊吉のヤツ。熊どもをコントロールしてやがるな」
ロクの行った通りに複雑な事は出来ないだろう。だが、ヤツを二度の殺り逃した事で正攻法では勝てないと理解はしたようだ。そして、
「戦意は旺盛か」
二度も深傷を負ったなら、その時点で逃げ出し、この地には二度と近づこうとは思わない。しかし、熊吉の行動は真逆だ。こちらに対しての戦意は全く衰えておらず、何がなんでも報復をするつもりで動いている。
「ヤツが群のボスだとして……従わせてるのは恐怖だな」
この仮説通りなら熊吉を仕留めれば群は瓦解する。それ以前にここまで人間に報復行動を取る熊を放置することは出来ない。
「もう少し、探ってみるか」
せめて他の熊の姿を確認したい。ジョージはフンを中心に周囲を調べると、折れた枝や少し倒れた草などの痕跡を見つける。
「……野郎」
痕跡の方向はジョージの住む母屋に向かっていた。
『神ノ木の里』の長が暮らす母屋は、現在はジョージとトキが暮らして管理している。
そこへ、七海、ユウヒ、コエがトキからのミッションを完遂するべく訪れた。
「おー、やっぱり居たか」
『銃蔵』『公民館』『母屋』には犬の大和、武蔵、飛龍がジョージによって配備されている。
彼らの役目は生きたレーダーであり、もしも里に熊が下りてきた時はいち早く知らせる事を命令されていた。
「飛龍、だっけか?」
入り口の前で伏せていたハスキーの飛龍は、三人の来訪に顔を上げた。相変わらずの風格で子供なら泣いて逃げ出しそうな眼光をしている。
「飛龍。ばぁ様の頼み事で母屋に入るわね」
「……」
ユウヒが頭を撫でようとすると避ける様に立ち上がり、少し離れた日影に移動して再び伏せる。
「あれ?」
「どうした?」
「いつもなら、飛龍はユウヒに撫でられるのが好きなんだけどね」
「仕事中だからじゃねぇか? 警察犬並みに訓練されてやがる」
「飛龍のもふもふ好きなんだけどなぁ」
「夕飯の時にたくさん撫でてあげようよ」
気落ちするユウヒにコエは、その時にたくさん遊んであげる事を提案する。
「邪魔したらワリーからな。とっとと用事を済ませて俺らは引き上げるぞ」
「はーい」
「うん」
ラジオはねー、とユウヒは靴を脱いで面屋に上がり、その後にコエと七海も続いた。
「それにしても、かなり年期の入った建物だな」
一昨日来たときは外から中庭を経由しただけなので中までは入らなかった。
「床とかトイレはリフォームしたみたいだけど、他は建てられた頃と殆んど変わってないらしいよ」
「ここまで物持ちが良いと逆に気分が良くなるな」
古き良き日本式平屋は風通しもよく、快適に過ごせるだろう。
「ラジオを見つけたわ」
「仕事が早いな」
「CDはどこかな?」
ユウヒとコエは想定していた場所を順に捜索。しかし、どこにもCDは見つからない。
「ここにも無いとなると……」
「私たちじゃお手上げだね」
タンスの奥に入り、お尻を外に出して、ごそごそと探すユウヒはCDを見つけた。
「あったわ!」
そう言って、舞鶴琴音のCDアルバム『平和の音色』を掲げた。
「おー、それって超絶なお宝じゃねーか」
「そうなの? ケイさん」
「俺の友達も持ってんだけどよ。舞鶴琴音のCD第一段は世界で100万枚程しか販売されなかったらしい。しかも、当時のCDは今よりも性能は悪くてな。今でも聞ける状態のモノは結構貴重なんだぜ」
著作権の関係から、CDの複製は固く禁止されており、その件で交渉しようにも舞鶴琴音当人が、早期に死去した事もあって、かなり惜しまれているのだ。
「オークションで売れば1000万は固いぜ。時間が立つほどに値は上がっていくからな」
「1000万!?」
「凄いなー」
ユウヒとコエはこの里に来た当初は慣れない土地故に萎縮していたが、このCDを聴かせて貰ってから皆と柔軟に交流するキッカケとなったのだ。
「落とすなよー、割ったらやべーぞ」
「ケイが持ってて! あたしがラジオ持つから!」
急に価値を知って1000万の安否が気になったユウヒは七海へ押し付ける。
「はっはっは。ちんちくりんには責任が重いか」
そう言って七海はラジオとCDを交換し、パッケージの蓋を開けて中を確認する。
「ん? これ、空だぞ?」
「え?」
ほれ、と七海はユウヒとコエに本来在るべきCDが無い事を見せてやった。
「うーん。これはお手上げだね」
「どこに行ったのよー」
もう心当たりは無い。しかし、七海は逆に気がついた。
「ユウヒ」
「なに?」
「そのラジオ、中には何が入ってる?」
「何って……」
「あ」
察しの良いコエも気がついた。カチリとラジオの蓋を開けるとそこには1000万のCDが入っていた。
「あわわわ……」
「うーん……価値を知った後だと、物凄く不用心に見えるなぁ」
「そうビビんなよ。とにもかくにも」
七海はラジオからCDを取り出すと、本来のパッケージに直し蓋を閉じる。
「後は帰るだけだな」
その時、外にいる飛龍が威嚇するように何かを吠えだした。
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