第441話 気づくの遅せーよ
王城総理の乗る車をアヤさんと見えなくなるまで見送ってオレもようやく一息つけた。
公民館の中庭に集まっていた銃士爺さんズには、ばっ様より二日の猶予を得られた事を説明。銃蔵へ猟銃を直して、明日の指示は追って伝えると告げてもらった。
銃蔵は弾薬に高い塀と射撃空間もあるので、寝泊まりするのは問題ない。あちらを熊吉に張られない為の配慮だ。小鳥遊家も管理の関係からそちらで寝ることになる。
こっちはロクじぃが居てくれるし一丁あれば何とかなるだろう。
「ふー、帰ってきて早々にジィさんの後始末とは……」
帰省初手のイベントがジジィの制圧と総理との会談はハード過ぎる。やっぱり『神島』を継ごうと思わなくて正解だわ。こんなん、ストレスで早死にするわい。
「……ケンゴ様、ありがとうございました」
「いや、身内のゴタゴタだからね。別に気にしなくていいよ」
オレは深々と頭を下げるアヤさんに大した事はしてないと気を使う。
「私では今回の件をここまで抑える事は出来ませんでした」
「いやいや、そんな事は無いって。手負いのジィさんは隙をついて気を失わせる以外に動きを止める手段は無いんだからさ。圭介おじさんから『古式』は?」
「全て習っております」
「なら、オレよりも『脈打ち』しやすいよ。なんやかんやで、ジィさんは孫にはクッソ甘いからさ。オレを除く」
「ふふ」
ずっと険しい雰囲気を作っていたアヤさんはやっと笑ってくれた。うんうん。良い笑顔だ。
「圭介おじさんは元気?」
「はい。とても健康であられます」
「そう。それなら
奏恵おばさんは、圭介おじさんの妻。つまり、アヤさんの母親に当たる人物だ。
圭介おじさんが、ジジィの下から去る事を選んだ程の
「……はい。御母様も御父様のご健全にはお喜びになっております」
ん? 笑顔で答えてくれたけど……なんか少し影があるような……
「よう、鳳」
「はーい。なんでしょうか――え? 七海課長……?」
「気づくの遅せーよ」
オレは割り込む様に声をかけてきた七海課長へ思わず会社のノリで返事をした。
総理とジジィの事ばかりで回りを良く見えてなかった。ん? あれあれ? そもそも――
「何でここに居るんですか?」
「師範のツテでな。代理だ」
そう言えば……七海課長の師匠であるシモンさんはジジィに片眼を潰された因縁があったんだっけ。
「話に割り込んでワリーな。こっちも余裕が無くてよ。事情はわかってるのか?」
「ある程度は道中に聞きましたけど、詳しくはまだです」
「そうか。じゃあまずは飯だな。腹は減ってるだろ?」
「はい」
緊張から解放されて腹はグーと鳴って、何かを入れろ、と催促してくる。
「ケンゴ」
「ロクじぃ」
おっと、今度は銃士隊長のロクじぃが声をかけてきたぞ。その側には、可愛らしい女の子がくっついている。
「久しぶり。ゴタゴタで挨拶が遅れたけど、元気そうだね」
「ジョーが死ぬまで私も死ぬわけには行かないからね。この子達の為にも」
この子。と言うのは、くっついている女の子の事だろう。
「お孫さん?」
「いや、養子のユウヒだ」
「……『雛鳥』はまだ機能してるんだね」
「彼女たちで最後だと思いたい」
「彼女たち?」
オレはロクじぃが複数形を使う事に疑問。数としてはアヤさんは違うし、当然七海課長も違う。
「お願いします……」
すると、女の子が弱々しくそう口にした。
「コエを……あたしの妹を……助けてください」
オレは空腹を満たすよりも、先に何が起こったのかを詳しく知らなければならないと強く感じた。
生まれつき……人の声が聴こえづらかった。
それでも、全く聞こえない事はなくて補聴器で十分に代用できた。父も母もそんな私を深く愛してくれたし、いつもユウヒが側に居てくれたから寂しく無かった。
ずっと続くと思ったていた。けど……それは私とユウヒの誕生日に全て変わってしまった。
「……大丈夫……大丈夫……」
あの悪夢は終わったんだ。
父と母が死んだ次の日に、じっ様が現れて全部説明して何度も謝ってくれた。
本来の縁を頼る事は危険だと言うことから
じっ様は私とユウヒを『雛鳥』に連れて来てくれたのだ。
「ロクじぃちゃん……じっ様……」
きっと今、私を助けに来る事を考えてくれているハズだ。だから……大丈夫……
「…………」
補聴器を落とした今の私は殆んど音が聞こえない。それでも極限までの神経から僅かな気配を感知して息を止めなければと、口を塞ぐ。
「――」
体毛を持つ巨大な熊がのそりと移動する様を隙間から確認できる。
ここは、いつもじっ様が生活している母屋で、私は玄関近くの戸棚に隠れていた。
熊は戸棚の目の前で止まるとスンスンと鼻を鳴らしている。
その時、私にも聞こえる武蔵の威嚇する“吠え”に熊は玄関から外へ出て行った。
武蔵、大和、飛龍の三匹が代わり代わりで母屋に入らない様に牽制してくれている。
その為、熊たちは室内に上がるまでは行かないものの、いずれは中まで入ってくるだろう。
「……うぅ……怖いよ……助けて……お姉ちゃん……」
「くっ……歯痒いモノだ……こうも手が出せぬとは!」
才蔵は電柱の上から、母屋を囲むようにうろつく三匹の熊を下ろしつつも現状の報告の為に、シュバッ! と公民館に戻った。
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